マリアナ沖大海戦 2
1944年 6月18日早朝
2日目の朝が来た。
波は高めで、雲量は7。
視界も悪く、海戦には不向きな天候だ。
「真田大佐、敵の空襲はあると思うか?」
「間違いなくあるでしょう。
第二機動艦隊が現場海域に入るのが明日。
第一機動艦隊に至っては20日の予定です。
それまで制空権は敵側にある。
十中八九攻撃隊が来るでしょうね。」
一方、マリアナ諸島に配備された陸海軍航空部隊連合は
一部の爆撃機を除いて経験の浅い搭乗員が多く、
米軍相手に苦戦を強いられていた。
海軍航空隊は精鋭搭乗員のほとんどを母艦航空隊に
引き抜かれていたのである。
米軍は錬度の低い日本軍機を2機一組の
サッチウェーブで翻弄し、
300機以上を撃墜。
米軍の被害は被撃墜84、被弾放棄56であった。
「艦隊11時方向!敵機!!」
午前6時24分、艦隊上空に1機のグラマンが現れた。
米空母を発艦した偵察機であることは
明らかだった。
『艦長、主砲の射撃許可を!!』
伝声管から聞こえてきた声は
主砲射撃指揮所の村田元輝少尉。
帝国海軍の射撃大会で3年連続優勝した
海軍一の射撃手である。
「まて、村田。偵察機に撃っても無意味だ。」
『・・・わかりました』
偵察機は艦隊の上空にぴったりと張り付くと、
陣形や速度、方位などを敵機動部隊に
通報した。
着弾観測機しか持たない第一艦隊はこれを
追い払うことはできなかった。
「あと2時間もすれば敵機が来ます。
急ぎ陣形を第三警戒航行序列に変更しましょう。」
第三警戒航行序列とは、旗艦を中心に
輪形に艦を配置する対空用の陣形である。
午前8時38分
『対空電探に感あり!
敵機接近、機数200以上!』
大和の電探が遂に敵機を捉えた。
機数は200機以上。
15分でやって来ると思われる。
「対空戦闘用意!!」
8分後の午前8時46分、
大和の見張員が敵機の大編隊を視認。
「主砲射撃用意!村田、思いっきりやれ!!」
『了解!』
森下艦長から射撃命令が下った。
大和の巨大な51cm砲が水圧により
大きく左に旋回する。
同時に主砲発射を警告するブザーが鳴った。
艦橋に立つ大和や第一艦隊の幕僚は
耳栓を詰める。
「目標、敵機編隊!
左35、仰角15!!
弾種三式! 」
「目標よし! 照準よし!主砲弾装填よし!」
「撃ち方、始め!!」
刹那、言葉では言い表せないような
衝撃と轟音が艦橋を襲った。
大和の主砲8門が初めて敵に火を噴いたのだ。
40秒ほど経っただろうか。
8発の三式弾は敵編隊のど真ん中で爆発し、
敵機数十機を一瞬にして焼却した。
武蔵、信濃の主砲も敵機を捉え、少なくない機体が
叩き落とされている。
「ひぃ、ふう、みい、おお、落ちてる落ちてる。
村田のやつ、なかなかやるなぁ。」
森下は感心すると、すぐに
兵員を集め、防空指揮所へと挙がった。
こうなると主砲は封印だ。
防空指揮所の人間が吹き飛ばされてしまう。
「見張員、総員俺の目になって敵機の
動向を知らせろ!!全部かわしちゃる!」
三式弾の業火を逃れた敵機が
雲の切れ目から大和目掛けて突っ込んでくる。
艦隊各艦が一斉に対空射撃を開始した。
「左より雷撃機4、右より3!」
「鞍馬が2機撃墜!」
「艦隊直上、降爆5!急降下ァァ!」
「オモォォか〜じ、30!」
敵機が爆弾を投下したのとほぼ同時に
森下は面舵を指示した。
300mを超える巨体がくるくると旋回し、
爆撃が右舷に水柱をつくる。
真田たちの長い長い1日が始まった