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永久の戦艦 大和  作者: 呉提督
59/88

マリアナ沖大海戦 1


「・・・・さん、正樹さん!」


どこからともなく声が聞こえてくる。

聞きなれた、元気がもらえる声。


「お国のため、頑張ってください。」


彼女の表情はどこか嬉しそうで、

そして、どこか寂しそうであった。


「できれば、無事に、いえ・・・

生きていてさえくれれば・・、この子のためにも・・・」


彼女は自分のお腹をさすった。

その目には大粒の雫が溜まっていた。








「・・・・!! 夢・・・か・・。」



窓から差し込む日差しを受けて、

真田は目を覚ました。

5日前に別れを告げた妻の声が今でも耳元で

繰り返されている。


1944年6月16日早朝、

ついに米太平洋艦隊はマリアナ諸島に来襲し、

サイパン、グアム、テニアンに

大規模な空襲を行った。

各島の基地航空隊も激しい抵抗を見せている。


そんな中、連合艦隊司令長官より

ついに「あ号作戦」が発令され、

大和以下第一艦隊に出撃命令が下りた。

16日午後2時、第一艦隊は

徳山を出港。

機動艦隊も午前中にタウイタウイと

シンガポールを後にしている。


初日は敵潜水艦の襲撃が警戒されたが、

特に何事もなく17日の朝を迎えた。


艦橋に上がると、既に宇垣中将と

森下艦長は戦闘配置に付いており、

厳しい面持ちで海を眺めている。


「お早うございます。長官。」


「真田大佐か。夕べはよく眠れたか?」


「お陰様で。女房の夢まで見てしまいました。」


「それは縁起がいいな。」



艦橋内に笑いが生まれる。

緊張でカチカチの若兵も

幾分か表情が緩んだ。


「まだ敵さんには見つかっていないらしい。

運がいいな。」


「いずれ発見されます。

それからが勝負です。」



この日も午前は敵に見つかることは

なかった。


しかし、午後3時頃


「敵と思わしき潜水艦を探知!

感数2!!」


大和の聴音室から突然の一報。

直ちに大和は"対潜戦闘用意"の信号旗を

マストに掲げ、増速した。

軽巡、駆逐艦も敵潜水艦への爆雷攻撃を開始する。


「対潜戦闘!之字運動!」



艦隊はある程度の間隔を空け、

ジグザグに航行する。

固まっていては格好の的になるからだ。



「雷跡視認!!本数4!左30°!」



次の瞬間、見張員の絶叫が響き渡った。

左舷にはっきりと確認された4本の魚雷は

不気味な音と共に艦隊に迫ってくる。



「艦長!高雄が!!」



魚雷の餌食となったのは、大和の左前方を

走っていた重巡高雄だった。

3本の巨大な水柱が吹き上がると同時に

高雄は左に大きく傾斜を始める。

残り1本の魚雷は外れたのか、それとも不発だったのか、

艦隊に被害を与えることはなかった。



「長官、高雄より信号です。

『我、敵ヨリ攻撃ヲ受ク。

自力航行可能ナレド、艦隊行動ハ不可能ナリ。

至急指示願フ。』」



審議の結果、高雄は護衛に磯風を付け、

呉に引き返すことが決まった。

攻撃してきた敵の潜水艦2隻のうち、

1隻はオイルの流出が確認され、撃沈と判断されたが、

もう1隻は姿を消してしまい、

撃沈には至らなかった。


連合艦隊は会敵前から早くも

主力となる重巡1隻を失ってしまったのである。




「先が思いやられるな・・・」


「これで敵にこちらの位置が露呈しました。

明日は間違いなく大空襲でしょう。」



妻のために、

子供のために、

生きて帰りたい。


晴天の空にはいつしか雲がかかっていた。


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