いざ、決戦へ
1944年 5月
この日、日吉に新たに完成した
連合艦隊司令部には、各艦隊の司令官や参謀が
集められ、サイパン周辺で近々生起するであろう
決戦に備えた作戦会議が行われた。
参謀長を失った古賀大将に代わり、
連合艦隊司令長官に就任したのは豊田副武大将。
豪快な性格で知られる長官だ。
参謀長には、かつて機動部隊参謀長を務めた
草鹿龍之介少将。
主任参謀には神重徳大佐が収まった。
「今度の海戦は連合艦隊の全兵力を
投入する、いわば一大決戦です。
この戦いで戦争の大勢が決まるでしょう。」
作戦については真田を中心に、
連合艦隊司令部に留任した岩田、田代、両中佐と
神重徳大佐の4名で作成した。
まず神大佐が今度の海戦の重要性を改めて説明する。
「具体的な各部隊の動きについて説明します。
米機動艦隊は8〜12隻の正規空母と8〜10隻の
戦艦を主力に添え、マリアナ諸島に来襲。
2日間に渡って激しい空爆と艦砲射撃を加えたのち、
上陸軍を上陸させると思われます。
これに対し、マリアナ諸島の各航空隊は
敵機を邀撃しつつ、隙あらば敵空母の撃破を
狙います。
主力となる我が空母機動艦隊は、
これを役割別にふたつに分けます。
新型装甲空母、大鳳、白鳳を基幹とした
第二機動艦隊と、大型空母9隻を主軸とした
第一機動艦隊です。
第二機動艦隊はマリアナ諸島が空襲を受けたのち、
直ちにタウイタウイを出港。
シンガポールに停泊中の第一機動艦隊も
これに続きます。
最後に大和を中心とする水上艦隊。
こちらも敵機来襲の一報が入り次第
柱島を出撃。3日かけてサイパン島を目指します。
これら3つの大部隊で米軍に一斉攻撃を仕掛ける。
これが作戦の全容です。」
真田は盤上に用意された赤(敵軍)と青(友軍)の
コマを動かしつつ、作戦を確認した。
一通り説明が終わると、いくつか質問があった。
最初に挙手したのはサイパン島海軍守備隊総司令官の
南雲忠一中将。
「我々は敵機を邀撃しつつ、敵空母を
狙えとのことだが、防御と攻撃、どちらに
重点を置けばいいのか?」
この質問に岩田中佐が返答する。
「防御重視でお願いします。
マリアナ諸島の航空戦力が壊滅しないことが
作戦の前提でございますので。」
「了承した。」
次に手をあげたのは
大和以下水上部隊、第一艦隊を任された
宇垣纏中将だった。
「第一艦隊の上空援護機は何機になる予定か?」
これに答えたのは
立案者の真田だったのだが…
「0です。上空援護機はありません。」
真田の平然とした答えに
一同は唖然とした。
「真田大佐!
我々に上空援護機なしでサイパンに行けと言うのか!?
敵機の空襲で壊滅するような事態にはならんのか!?」
「我が軍の持つ正規空母は11隻。
そのうち2隻は搭載数の少ない装甲空母です。
これは米機動艦隊と戦えるギリギリの数です。
残念ですが、第一艦隊の援護に空母を割く余裕はありません!」
真田としても悲痛な思いだった。
勝利に絶対必要な大和ら水上艦隊を
丸裸で敵前に晒さないとならない。
だが、制空権を確保し、米空母に打撃を加えるには
1機の戦闘機も無駄にはできないのだ。
「我々軍令部は真田大佐の案を支持します。
大和は敵の制空権下でも大暴れできるよう
設計されたと聞きます。
多少の空襲ならなんなく切り抜けられる。
そうですよね?」
軍令部次長伊藤整一中将が
助け船を出してくれた。
真田も大きく頷く。
「・・・・・・やはり余裕はないのだな。
了承した。必ず艦隊をサイパンまで連れていく。」
「ありがとうございます。
大和には私も乗り込みます。
よろしくお願いいたします。」
こうして、作戦計画は承認され、
5月28日、連合艦隊司令長官によって
艦隊編成が一新された。
昭和19年 5月28日
連合艦隊編成
連合艦隊司令長官:豊田副武大将
連合艦隊参謀長:草鹿龍之介中将
第一艦隊(水上部隊本隊)
司令官 宇垣纏中将
旗艦:大和
第一戦隊(宇垣中将直率)
戦艦 大和 武蔵 信濃
重巡 伊吹 鞍馬
第二戦隊(宇垣中将直率)
戦艦 長門 陸奥
第五戦隊(宇垣中将直率)
重巡 高雄 鳥海 妙高 那智 羽黒 足柄
第十戦隊(木村進少将)
軽巡 矢矧
第十七駆逐隊
駆逐艦 磯風 浦風 雪風 谷風
第四駆逐隊
駆逐艦 萩風 浜風 舞風
第二水雷戦隊(早川幹夫少将)
軽巡 能代
第三十一駆逐隊
長波 朝霜 岸波 沖波
第三十二駆逐隊
藤波 浜波 玉波 早波
第二艦隊(水上部隊支隊)
司令官 松田千秋中将
独立旗艦:大淀
第八戦隊(松田中将直率)
巡洋戦艦 扶桑 山城 伊勢 日向
第六戦隊
重巡 古鷹 加古 青葉 衣笠
第七駆逐隊
駆逐艦 曙 漣 潮
第十九駆逐隊
駆逐艦 綾波 浦波 敷波
第一機動艦隊(甲部隊)
司令官:山口多聞中将
旗艦:瑞鶴
第一機動部隊
空母 翔鶴 瑞鶴 空鶴
軽空母 瑞鳳 祥鳳
重巡 利根 筑摩
軽巡 阿賀野
駆逐艦 白露 時雨 夕立 春雨 五月雨
第二機動部隊
空母 蒼龍 飛龍 雲龍
軽空母 千歳 千代田
重巡 最上
駆逐艦 荒潮 満潮 朝雲 山雲
第三機動部隊
空母 赤城 天城 葛城
重巡 鈴谷 熊野
軽巡 那珂
駆逐艦 暁 雷 電 響
第二機動艦隊(乙部隊)
司令官:小澤治三郎中将
旗艦:大鳳
第五航空戦隊(小澤中将直率)
装甲空母 大鳳 白鳳
第三戦隊
戦艦 金剛 榛名
第四戦隊
重巡 愛宕 摩耶
第六十一駆逐隊
駆逐艦 初月 秋月 霜月 若月