勝つために 3
憲兵隊に拘束されて5日。
真田の容疑(冤罪)は未だ晴れずにいた。
中佐なので、一般人のような拷問に等しい
取り調べこそされないが、
話は誰も聞いてくれない。
福留に憲兵隊を懐柔させるほどの
人脈はない。
だとしたら、書類を偽装した可能性が高い。
真田は何度もその旨を伝えたが、
憲兵はとりあってくれなかった。
拘束から1週間…
「釈放だ。出ろ。」
真田は証拠不十分で釈放された。
突然の出来事だった。
「どうして急に…」
「山本大将から『書類は偽装の可能性がある』と
達しがあったのだ。」
山本長官がまた助けてくれた。
真田は長官のご厚意に心から感謝し、
急ぎ呉に戻った。
呉
「長官、このたびはありがとうございました。」
「礼なら私ではなく、彼らに言ってくれ。
君を助けるために奔走してくれたのは彼らだ。」
山本長官の両側に控える岩田、田代両少佐。
彼らが書類が偽装だという証拠を集めるべく
夜中まで資料をひっくり返して調べてくれたのだと
長官は言った。
「そうだったのか…ふたりとも、感謝する。ありがとう」
「私は、また中佐の講義を聞きたいだけです。」
「私もです。」
丁度1年前に戦われた珊瑚海海戦ののち、
真田は福留にそそのかされて空母派遣を
進言したこのふたりに詰め寄った。
真田と福留、どちらの理論が正しいかは
言うまでもなかった。
真田はふたりが福留に従ったことを責めず、
それが真田に不満をもっていた両名の
心を引き寄せたのである。
「福留も卑怯なことをするものだ。
山口や宇垣からの信用がないのも頷ける。」
二航戦司令官の山口多聞や
連合艦隊参謀長の宇垣纏は
福留と同じ海兵第40期卒業である。
「ともあれ、こうして戻ってくることが
できました。また職務に励みたいと思いますので
よろしくお願いいたします。」
これですべては解決したかにみえた。
しかし、これまだほんの始まりに過ぎなかったのである。