勝つために 2
1943年 5月
この日、日本列島には
巨大な低気圧が上陸し、どしゃ降りの雨が
1日中降り続いている。
連合艦隊参謀の真田は
突然、軍令部への出頭命令を受けた。
真田はなんとなく胸騒ぎがした。
それでも上層部の命令には必ず従わなければ
ならない。
真田は呉から横須賀に回航する巡洋艦に乗って
東京へと赴いた。
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東京 霞ヶ関
8年間勤務した、見慣れた赤レンガの
建物。
中央の階段を登り、目的の部屋の前に
たどり着く。
"第一部長室"
ドアをノックすると、
「入れ。」という低い声の返事があった。
一礼して入室する。
第一部長室の奥で椅子にふんぞりかえる男。
忘れもしない。真田因縁の相手、福留繁だ。
福留はニヤニヤ笑いながら、
真田を応接用のソファーに座らせる。
「さて、今日呼び出された理由は、言われなくても
わかるね?」
福留が右手をパチンと鳴らす。
第一部長室のドアが乱暴に開けられ、
現れたのは、武装した憲兵隊であった。
「真田正樹中佐。
三菱重工業との贈収賄容疑で拘束する!」
こんなことではないかと
思っていた。
福留は真田を毛嫌いしている。
真田の立案した対米計画のせいで
自分のやりたいことはなにもできない。
また、大艦巨砲主義に凝り固まった
福留にとって、海空の連係運用を唱える
真田の戦術思想も邪魔でしかなかった。
こうして真田は、やってもいない罪を
押し付けられ、憲兵に拘束される羽目に
なってしまったのである。