欧州の魔王 3
1942年8月21日、イギリス海軍は
ドイツ艦隊に決戦を挑むべく、
戦艦4隻、空母2隻、重巡4隻、軽巡1隻、駆逐艦6隻を
派遣。
陣容は以下のとおり。
戦艦ロドニー、同キングジョージ五世 (本国艦隊)
戦艦ネルソン、同レナウン (H部隊)
空母ヴィクトリアス、同アークロイヤル (本国艦隊)
重巡ノーフォーク、同サフォーク、同サセックス (本国艦隊)
重巡ロンドン (H部隊)
軽巡シェフィールド (本国艦隊)
駆逐艦6隻 (本国艦隊4、H部隊2)
この2部隊は8月24日午後2時、
アイルランド、ボルティモアの沖合いで
合流。
戦艦部隊を先頭とし、その55マイル後方に
空母2隻がついた。
ドイツ艦隊も無線傍受や
ドイツの海軍本部からの情報で、
イギリス艦隊の集結、接近を把握しており、
決戦に向けて、万全の体勢を整えていた。
8月28日、午前6時、
空母アークロイヤルの偵察機が
艦隊から東北東に120kmの地点に
ドイツ艦隊を発見。
その位置を艦隊に通報する。
イギリス戦艦隊は速力を22ノットに増速し、
ドイツ艦隊を目指した。
午前6時22分、ヴィクトリアス、アークロイヤルより
ソードフィッシュ雷撃機28機が発進。
午前6時50分、ソードフィッシュ隊は
全機がドイツ艦隊上空に到達した。
「なんだ、あのデカさは!?」
雷撃隊長が驚嘆の声をあげた。
ドイツの超大型戦艦は、300mを超える
巨体で悠々と海上を疾走しており、
天に向けられた24門の高角砲は
猛烈な弾幕で空を覆い尽している。
旧式の複葉機で、しかも重たい魚雷を
抱えて速度が出せないソードフィッシュは
フリードリヒの対空弾幕の前に
その目的を果たせぬまま、次々と火を噴いた。
墜落を免れた機体には機関砲の洗礼が
待っていた。
結果、ほとんどの機が魚雷発射点に
着くことができず、撤退。
この攻撃でソードフィッシュ12機が撃墜され、
母艦着艦後、被弾による被害甚大で4機が
放棄されてしまった。
航空機による強襲雷撃は失敗したものの、
イギリスの主力、戦艦部隊は健在であり、
チャーチルもいかに巨大な戦艦であろうと
大英帝国の誇る4隻の戦艦の前には無力だと
思っていた。
午前8時50分、
イギリス戦艦隊が遂にドイツ艦隊を
その主砲射程に捉える。
英艦隊は戦艦ネルソンを先頭に、
ロドニー、キングジョージ五世、レナウンの
単縦陣を形成。
ドイツ艦隊に23ノットで突撃した。
先に砲門を開いたのはドイツ艦隊。
フリードリヒの前部主砲4門が
ネルソンめがけて発射されたのだ。
ドイツ艦隊は陣形は組まず、速度の有利を生かして
海上を駆け回り、順次砲撃を開始。
シャルンホルストはノーフォーク、サフォークと、
ビスマルクはサセックス、ロンドンと距離19kmで
砲撃戦を展開。
ティルピッツはフリードリヒの左舷2000に
並走し、フリードリヒを支援した。
フリードリヒとネルソンの距離がどんどん縮まってくる。
ネルソンは第2斉射でフリードリヒを捉えたが、
対46cmの分厚い装甲に阻まれ、ダメージを
与えることはかなわなかった。
フリードリヒはネルソンに5度の斉射をしていたが、
命中どころか挾叉すらしない。
就役してからわずか1ヶ月。
射撃要員の訓練不足が顕著に現れていた。
ネルソンは距離16000で取舵を切り、
後続もそれに続く。
これに呼応し、フリードリヒも面舵を切り、
海戦は同航戦へと切り替わる。
午前9時19分、
フリードリヒの第9斉射がネルソンを直撃する。
命中したのはわずか2発。しかし、17000の
近距離で46cmの主砲弾を耐えきる力は
ネルソンにはなかった。
砲撃はネルソンのヴァイタルパートと
砲塔下の主砲弾薬庫にほぼ水平に突き刺さり、
彼女の装甲をやすやすと貫通。
砲弾は艦内で爆発。
ネルソンは弾薬庫の誘爆によって
第二砲塔から真っ二つに折れ、
瞬時に沈没。
ネルソンの轟沈を目の当たりにした
イギリス艦隊に戦慄が走った。
ネルソンのすぐ後ろを航行中のロドニーは
一度フリードリヒと距離をとるべく、
取舵を指示。
これにより、イギリス艦隊と
フリードリヒの距離は一旦開いた。
一方、シャルンホルストは
重巡ノーフォークに28cmの主砲弾を雨あられのごとく
叩き込み、同艦を廃艦に追い込んだ。
しかし、僚艦のサフォークが反撃。
榴弾多数を命中させ、シャルンホルストに
火災を発生させた。
サセックス、ロンドンと交戦するビスマルクは
こちらも巡洋艦の榴弾に悩まされながらも、
主砲口径の利を生かし、
9時35分にサセックスを撃沈。9時50分には
ロンドンも浸水多量で
航行不能となり、総員退艦命令が下った。
午前9時42分、イギリス戦艦3隻と
フリードリヒの砲撃戦は最高潮に達する。
イギリス戦艦は猛訓練の成果を存分に
見せつけ、フリードリヒに計12発の
41cm砲弾を叩き込んだ。
フリードリヒも一部対空砲やカタパルトを破壊され、
艦首で小火災を起こしていたものの、
戦闘行動に支障はなく、逆に
キングジョージ五世に46cm砲3発を
撃ち込んで主砲塔を吹き飛ばし、
機関室を浸水させ、戦闘力を奪った。
シャルンホルスト相手に善戦していた
サフォークは、魚雷1本の命中と引き換えに
シャルンホルストの主砲を全身に浴びて
ズタズタに引き裂かれ、海底へと引きずりこまれていった。
レナウンはビスマルク級2番艦ティルピッツの
猛攻を受ける。ティルピッツの
3番及び4番の主砲を射撃不能にするものの、
重巡2隻を蹴散らして加勢に来たビスマルクから
集中砲火をくらって大火災となり、
アドミラル・ヒッパーの魚雷で始末された。
唯一残ったロドニーは最後の最後まで
果敢にフリードリヒを攻撃し、
新たに主砲弾4発を命中させる。
ようやくフリードリヒにも衰えが見え始め、
速力の低下が目立ってきたが、
それでも、4基の主砲はすべて問題なく稼働し、
10時15分、ロドニーに3発の主砲弾を
突き刺して引導を渡した。
艦中央部を貫いたフリードリヒの弾丸は
機関室、操舵室、応急処置室を
跡形もなく粉砕。
破孔から海水が怒涛のように流れ込み、
その体を支えきれなくなったロドニーは
10時27分、3隻の後を追うようにして、
北海の冷たい深海へ消えていった…。