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永久の戦艦 大和  作者: 呉提督
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未来を託して

1922年秋



東京の小さな料亭に3人の男の姿があった。

真田孝幸少将(夏に少将に昇進)とその部下の

佐久間京司少佐、福原、(のぼる大尉であった。



「無事決まってよかったですね、課長!」


「ああ。長い半年だった。」


杯に注がれた日本酒をぐいっと飲み干す。

今までの疲れが消えていく感覚が心地よかった。


結局扶桑型2隻と伊勢型の2隻は大規模改装が決まったのだが、

それにはとても大きな障害が2つあった。

軍令部部長の山下源太郎と海軍大臣加藤友三郎の

説得である。

軍令部部長の山下はワシントン条約反対派として

知られていたが、こちらもまた武人で、曲がったことを

嫌い、この改装案を


「そんな屁理屈が通るか!」


と一喝した。

真田は3時間に渡って屁理屈ではないことを説明し、

なんとか許可を得た。


問題は加藤友三郎海軍大臣だった。

ワシントン条約の締結者であり、米国との関係悪化を

嫌がった。

元々は八八艦隊計画の推進者だったのだが、

ワシントン会議でこれを一転させた。


この加藤の説得には2ヶ月を要した。

軍拡と米国との不穏を懸念した加藤は

この改装を許す条件として、

「金剛型戦艦2隻の解体」

を加えた。

これには真田も了承せざるを得なかった。


こうして半年かけて大改装計画は

承認されたのである。

なお、ワシントン条約で保有禁止となった加賀型戦艦は

主砲を外され、標的艦とされることが決まった。



「お前たちもよくやってくれたな。

だがこれで終わりじゃないぞ。逆にこれからが始まりだ。」


「わかっています。Y計画(八八艦隊計画甲案の隠語)

は私たちが必ず成功させます。」



真田は「Y計画か」と呟いて

ため息をついた。


「課長?飲み過ぎでは?」



佐久間がちゃかした。

この少佐は普段は真面目だが、飲み会ではノリのよさを

見せるなど、行動の切り替えが上手で、真田も

それを評価している。



「いや、大丈夫だ。

それよりもお前たち、よく聞け。

俺はなぁ、これからは戦艦よりも航空機が来るのではないかと

思っている。」


「航空機?」


福原が疑問符を浮かべた。



「ああ。俺の友人に第一次世界大戦に観戦武官として

赴いたやつがいてな。そいつの話によると、

大戦初期は偵察しかできなかった航空機が

大戦後期には銃を積んで空戦をしたり、

爆弾を落としたりするようになった

(ただしこの時の爆弾はパイロットが手投げしていたので

手榴弾程度の威力であった)らしいんだ。」



「どういうことでしょう?」



「航空機の発展が著しいってことですか?」


代わりに佐久間が回答した。

真田は大きく頷く。


「そのとおりだ、佐久間。

これは俺の想像、いや、妄想に近いのだが、

航空機は10年後には爆撃で戦艦を損傷させるようになり、

20年後には戦艦の砲弾よりも遥かに大きな爆弾を

200マイル(時速約360km)で叩き込むようになるかもしれん。」




佐久間、福原は何も言えなかった。

確かに航空機の発達はめざましい。

事実、航空機を専門的に運用する船、航空母艦なる船も

作られている。



「Y計画はすごい。だがそれはアメリカと戦うための

戦略の一部でしかない。航空機が進歩してきたなら

それを主力にすることも必要になるだろう。

大事なのは戦に勝つことだ。」



「ですが、その航空機に負けないように

4隻を改装するのでは!?」



福原がさかんに反論してくるが、真田は悪い気はしなかった。

福原ようなの目上の人間にも臆することなく意見する

人間が組織、特にことなかれ主義の海軍には必要だ。



「まあ、そうだ。でも俺は八八艦隊計画を

諦めたわけじゃないぞ。」


真田はそう言って一枚の写真を取り出した。

親戚一同で撮ったその写真の中にそのの青年の姿はあった。

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