インド洋方面作戦
更新遅れてすみません
1942年 3月下旬
連合艦隊の司令部は長門から戦艦武蔵へ
移った。
戦艦武蔵
世界初の46cm主砲を装備し、263mという世界最大の船体
を持つ。
それ以外にも冷房やベッドなど、
今までの海軍にはなかった最新装備を備えている。
日本の造船技術の結晶でもあった。
司令部は長門よりも広く、居住性もよい。
「機動艦隊はシンガポールを出撃し、
インド洋に展開しました。これよりインド方面のイギリス軍へ
痛烈な打撃を与え、これを壊滅。
インド洋の通商破壊を実施し、さらにスエズ運河へ
進出。ドイツアフリカ方面軍と連携して同運河を
確保し、イギリス、蒋介石国民党軍に止めをさします。
これがインド洋方面作戦の全容です。」
武蔵の作戦会議室で真田が山本五十六ら
司令部幕僚に説明する。
それを快く思わない人物がいた。
連合艦隊参謀の岩田少佐と田代少佐である。
その日の晩、呉の料亭でふたりは
真田への不満を垂れた。
「軍令部の参謀め、連合艦隊にまで
口出ししやがって」
「日本がアメリカに勝つには早期講和、
そのためのハワイ攻略しかないというのに、
あの参謀は!」
「山本長官も長官だ。あんなやつの
発言を真に受けて。
早期講和はどこにいったんだ。インド洋なんかで
のんびりしてる暇はないのに!」
口に出せば出すほど彼への不満は
募っていく。本来呉鎮守府の参謀なのに、
連合艦隊に越権で口出ししてくるのが
我慢ならないようだ。
「やめんか。」
入り口の扉が開いた。
鋭い眼差しと笑みのない顔がそこにある。
「「宇垣参謀長!!」」
元軍令部第一部長にして
連合艦隊参謀長、宇垣纏。
笑顔を見せたことがないことから、
『鉄仮面』というあだ名まで付いている。
「店の外まで聞こえていたぞ。
気をつけんか。」
宇垣はふたりの隣に座ると、
女将に日本酒を注文した。
「不満があるなら参謀らしく意見を出したらどうかね?」
「宇垣参謀長は悔しくないのですか!?
黒島参謀の意見ばかり採用されて宇垣参謀長の
作戦は全然採用されないではありませんか!?
不公平すぎます!」
宇垣は茶を一杯飲み、一息吐き出した。
山本長官がなぜ自分を嫌っているのか、彼は知っている。
日独伊三国同盟締結の際、最初は断固反対派だった
自分が最終的に賛成派に回り、日米開戦を
促進するような言動をしたからだ。
彼には彼なりの理由があったが、
今さら弁明したところで言い訳にしか聞こえないだろう。
こればかりは仕方のないことだと割りきっていた。
それよりも宇垣が一目置くのはあの真田という
参謀だ。自分が軍令部に居たときもそこで
参謀を勤めていたが、恐ろしい人物だとすら思う。
戦艦が航空機に勝てなくなる時代を見越して
万全の航空機対策を施した戦艦を開発しようと
言い出した。誰も思い付かないような、
独特で聡明な理論だ。
実際、A-150の設計図はぞっとするほど美しかった。
彼ら凡人参謀に妬まれるのも無理はない。
「面白い男だ。」
そう呟き、日本酒を喉に流し込む。
体の奥から生き返るような感覚がした。