八八艦隊潰えず
真田の話はこうだった。
「ワシントン海軍軍縮条約において
新型戦艦の建造は禁止されましたが、既存戦艦の
改装は禁止されておりません。
よって旧式の扶桑型2隻と伊勢型2隻を
高速戦艦に改装し、長門型に劣らない戦艦へと進化させるのです。」
「簡単に言ってくれるな。
改装は建造よりも金がかかることがあるんだぞ。」
「ご心配には及びません、次長。」
真田は持ってきた資料を加藤に見せた。
「課の連中と協議してみました。
扶桑型と伊勢型の船体はそのまま、主砲を
加賀型(ワシントン条約で保持が禁止され、二番艦土佐は
工事中止、一番艦加賀も処遇が決まっていない。)
の41cm砲に変更。主砲は3基あれば十分でしょう。」
「だがな、弾薬庫の変更や主砲口径変更による
給弾機の改良、機関の変更もあるだろう。
そんなにうまくいくのか?」
正直な疑問をぶつける。
すると真田はまたしても唖然とする発言をした。
「うまくいくのかどうかではありません。
やらなければならないのです!」
この発言で加藤は真田への信頼をさらに強めた。
「扶桑型と伊勢型は艦隊決戦における主力戦艦として
作られました。しかし、35,6cmの砲では重装甲の米戦艦に対して圧倒的優位をとるのは難しく、23ノットの速力では
柔軟な艦隊運動が難しくなります。」
「だがなぁ。扶桑型も伊勢型もそこまで悪い戦艦では
ないとは思うが・・・・。」
加藤は理解はしながらも難色を示した。
時間や金額を考えたら合理的ではない。
「今はそうです。ですが、10年後、条約失効を
見越した時、彼女たちでは力不足です。
艦隊運動についていける28ノット以上の高速と、
コロラド級に対抗できる主砲。
これがどうしても必要となります。
新型戦艦を作れないならこれで妥協するしかありますまい。」
「わかった。部長に提案してみよう。」
「ありがとうございます!」
加藤はもう一度真田の持ってきた書類に目を落とす。
"八八艦隊計画甲案"
表紙にはそう書かれていた。