夢の装甲空母
「ふぅ〜やっと着いた。」
「長かったですね〜」
真田と京子は汽車に3日ほど揺られ、
呉に到着した。
汽車と行っても真田は優先的に一等車を
取れるため、中々快適ではあった。
呉に到着してすぐ、真田は荷物の整理を
京子に押し付け、呉の造船所へと向かった。
「通行証をお出しください。」
入り口でふたりの兵に止められる。
目付きといい、体格といい、よく訓練されている。
真田はあらかじめもらっていた通行証を提示した。
「真田正樹中佐でございますね。どうぞ」
ふたりが真田に敬礼し、真田もそれを返す。
3月の呉は暑すぎず寒すぎずちょうどよい気候だった。
造船所に入り、真っ先に監督室へと向かう。
「お久しぶりです、牧野さん。」
「真田さん!お待ちしておりましたよ!」
牧野が相変わらず優しい笑顔で迎えてくれた。
そのとなりにはひとりの中年の男の姿がある。
「貴方は…」
「福田啓二だ。艦政本部第四部主任をしている。」
その名前は真田も聞いたことがある。
帝国海軍の多くの主力艦の建造を手掛けた男で、
平賀と同じく造船の神様と呼ばれている。
「今福田さんにA-150の設計を見てもらっていたんです。」
「なるほど」
「A-150は素晴らしい戦艦だね。
ただもう少し小さくしたほうがよかったのではないかな?」
船は小さければ小さいほど燃費がよく、
被弾面積も小さく済む。
また、装甲を増やすこともできる。
福田が武蔵型設計の時に小型化にこだわったのも
そこにあった。
しばらくA-150の話をしたのち、
福田は真田に新しい空母の設計を教えてくれた。
「上(海軍上層部)からの命令は沈まない空母だったね。
私も牧野君と同じように、水上艦の弱点は
水雷防御だと思っている。
そこで、多少の速力を犠牲にして水雷防御力を
上げ、艦載機の格納数を減らす代わりに
飛行甲板に装甲を追加する。
また、格納庫も現在の密閉式から
解放式に変える。
だいたい500ポンド爆弾(約250kg爆弾)の
急降下爆撃にも耐えうるようにするつもりだ。
艦載機搭載数は56機を予定しているが、どうかね?」
真田が驚いたのは密閉式から解放式への
転換だった。
日本に解放式空母はない。よって0からの建造となる。
また、例え建造したとして、それが成功するかは
わからない。まさに山本長官好みの大博打だ。
「今から建造して、いつ頃完成する予定でしょうか?」
それを聞くと福田は小さく笑った。
「実は既に起工式を終えて建造に入っている。
まだ手探りの状態ではあるが、3年以内の完成を
目指しているよ。」
真田は体の底から沸き上がるものを感じた。
日本にはこんなに素晴らしい技術者が多数いたのか。
この人たちの英知の結晶を使って作戦を立案できるなど、
なんて幸運なことだろうか。
「よろしくお願いします、福田さん。」
ふたりはガッチリと手を握りあい、
硬い握手を交わしたのだった。