牧野の戦争
連合艦隊が南方作戦を成功させている頃、
呉では彼が忙しく働いていた。
牧野茂は2ヶ月前の1941年12月に
武蔵型戦艦一番艦武蔵を世に送り出し、
現在は呉でA-150の建造を指揮している。
彼の仕事はなにもそれだけではない。
マル4計画で建造が決まった重巡洋艦の
設計もそのひとつである。
「前の鈴谷型はとてもよい船だ。
これを、こう…改良して…」
一から作っていては間に合わない。
牧野は鈴谷型巡洋艦をベースにいくつか
改良を施すことに決めた。
なぜならば、今回の巡洋艦は、A-150の
護衛としての役割を背負っているからである。
A-150は制空権を失った状況下でも
戦闘できるよう想定されているが、
敵の戦闘機と互角に殴りあうためには
高い防空能力をもった護衛艦の存在が
不可欠なのだ。
改鈴谷型重巡洋艦
全長:200.8m
最大幅:20.6m
満載排水量12500トン
主機:艦本式タービン4基4軸 152000馬力
最高速:35ノット
航続距離:6300海里、16ノット
主兵装
主砲:50口径二号20,3cm連装砲4基
副砲:九八式10cm高角砲8基
魚雷発射管:なし(撤廃)
この要項をみてもわかるとおり、
この巡洋艦は魚雷発射管を
全廃し、そのかわり、最新式の10cm高角砲を
従来の巡洋艦の4基から倍の8基に
増やしている。
魚雷発射管の撤廃にはいくつか理由があった。
まず、高角砲増設のスペースを確保するため。
次に、敵機の爆弾命中による魚雷の誘爆を防ぐため。
そして、A-150と行動を共にする以上、
魚雷を使う場面はないと判断したためである。
この改鈴谷型重巡洋艦の設計案は
1942年3月に艦政本部に提出され、
ただちに承認された。
A-150も既に竜骨は出来上がり、
次の作業に進んでいる。
だが、そう簡単に完成とはいかなかった…。