山本五十六の苦悩
1941年 10月 戦艦長門艦内
連合艦隊司令長官室で難しい顔をする
男がいる。
連合艦隊司令長官、山本五十六。
少尉候補生の時に日露戦争に参加、
日本海海戦では巡洋艦日進に乗り込み、
名誉の負傷。そのせいで左手の指が2本ない。
駐米経験があり、アメリカの国力を知り、
誰よりも日米戦争に反対した。
しかし、世論はドンドン開戦へと傾いていく。
不本意ではあるが、命令ならやるしかない。
山本は米国との戦争に勝つには、開戦直後に
米太平洋艦隊の基地がある真珠湾を攻撃し、
これを壊滅させて早期講和を図る以外不可能だと
考えていた。
そのため、機動部隊の空母9隻は
現在桜島で猛訓練を行っている。
真珠湾の水深はわずか20mしかない。
よって従来の魚雷では海底に突き刺さってしまい、
攻撃は不可能である。
そこで山本は九一式航空魚雷を改良させ、
浅瀬での魚雷発射を可能にした。
山本の懸念はもうひとつ。
それはAー150戦艦である。
あのような戦艦が役にたつはずがない。
現にこの長門型戦艦は航空機との演習で
すべて撃沈判定を食らっている。
すでに進水した一号艦改め戦艦武蔵ですら
余計なのにそれより無駄なものをつくってどうすると
いうのだ。
それよりも空母と戦闘機を増やしてほしいものだ。
空母については既に新型装甲空母2隻の
建造が決まっている。
装甲空母は英国のイラストリアスを見てわかるように
艦の大型化、重心の上昇による安定性の低下、
費用、搭載機数の減少などの
問題があり、日本海軍では建造が見送られていた。
しかし、正規空母が9隻揃い、艦載機も増加した今、
必要なのは搭載数ではなく、高い防御力と
旗艦性能だった。
そして先日、彼は三菱へと出向き、
零戦を設計した天才技師堀越次郎に
あるお願いをした。
"零戦を越える新型艦上戦闘機の開発"である。
造船側に遅れをとった以上、こちらもあらゆる
敵戦闘機を圧倒する航空機が必要だった。
武蔵型戦艦に予算を奪われたことは
堀越の耳にも入っており、彼はすぐにとりかかると
約束してくれた。
山本の要求は以下のとおり
十七式試製艦上戦闘機
馬力:2000以上
最高速度:6000mで600km以上
上昇力:6000mまで8分以内
航続距離:全力で30分+2000km以上(増槽あり)
武装:九九式20mm二号機銃4門以上
格闘性能:零戦に劣らない程度
こちらもAー150と同様、問題だらけだった。
まず2000馬力の発動機を作るのにかなりの
歳月と費用がかかる。
山本的には1943年には正式採用したいのだが、
到底無理な話である。
長門の長官室の窓から空を見上げる。
日の丸の翼が大空を乱舞していた。