プロローグ
冷たく、湿った風が吹き抜ける1月の大西洋。
あの有名な豪華客船タイタニック号が沈没したのは
およそ30年前のちょうどこの時期であった。
その大西洋を力強く航行する艦隊がある。
日本海軍連合艦隊の主力、第一艦隊。
先頭を行くのは武蔵型戦艦の一番艦、武蔵。
45口径46cm砲3基9門という重武装を263mの
船体にコンパクトにまとめ、多数の駆逐艦を
従えて航行するその姿は世界最強の日本海軍
主力戦艦の名に劣らない威厳を放っていた。
その5km後方には、同じく武蔵型二番艦、信濃。
こちらもまた46cm砲を3基搭載した、
武蔵と瓜二つの同型艦である。
その周りを固めるのは、日本海軍の誇る
精鋭部隊。
第五戦隊 甲巡妙高、那智、足柄、羽黒
第六戦隊 甲巡利根、筑摩
(利根と筑摩は書類上は乙巡)
第八戦隊 甲巡伊吹、鞍馬
第一水雷戦隊
乙巡 矢矧
駆逐艦 秋月 照月 冬月 凉月 春月 宵月 霜月 花月
第二水雷戦隊
乙巡 能代
駆逐艦 時雨 磯風 浜風 浦風 雪風 霞 朝霜 初霜
そして、武蔵と信濃の間に
2隻を見下ろす巨大な"島"があった。
戦艦大和
太平洋で米軍の戦艦群を血祭りにあげたこの"島"は
2隻より一回り大きい45口径51cm連装砲4基8門を
搭載。
満載排水量は12万トンという、名実ともに
世界最大最強の戦艦。
その艦橋で、淋しい顔をした男がいる。
大和艦長の森下信衛少将。
その横には、大和の立案者、真田正樹参謀の姿がある。
「真田、この船での航海もこれで最後か。」
「さびしいものです。こいつは私にとって
子供のようなものですから。」
「懐かしいなぁ。あの頃が。つい半年前だってのに。」
「この船のためにあちこち走り回ったのが
昨日ことのようです。」
感傷に浸るふたり。
しかし、見張り員からの声で一瞬にして
軍人の顔に戻る。
「艦隊前方29000にマスト!」
徐々にその船体が見えてくる。
間違いない。"欧州の魔王"H42型こと
ドイツの戦艦フリードリヒと二番艦のヴィルヘルムである。
「砲雷撃戦用意!」
艦隊司令長官、宇垣纏中将の声が響く。
森下は最上階の射撃式所に射撃命令を下す。
2分後、猛烈な爆風とつんざぐような轟音と共に
大和の主砲が空を切り裂いた。