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第3話 Dance//Coffee 


速水はその日も朝からガレージで、いつも通りコンクリートの床を蹴っていた。


昨日、結局速水はハウスには行かなかった。

「いきなりハウスって頭おかしい」

「そうですか?早い方が――」

ジャックの下らない妄想に付き合ってなんかいられない。


だから今日も、ここで踊る。黒いTシャツに黒のカーゴパンツ、赤スニーカー、ヘルメット、サポーター、隼人がいないので観客はたった一人、妄想癖のあるジャックだけだ。

大きな鏡の前で、苦手な技をひたすらやり込む。

ジャックに駄目な所を指摘して貰う。


まずはAトラックス。チェアーの形から、体を倒立させて、足を開き、頭を軸にして、一瞬、両手を浮かせ、頭を床に付けたまま、額、側頭部後頭部とをずらしながら回転する。帽子ならふちの部分を床に付けて回るイメージ。毎度回転ごとにチェアーの形に戻るので、弾んで回っているように見える。ジャックに何回できる?と聞いたら五十回はできるといわれて蹴飛ばした。

ヘルメットだとやりにくいのだが、ここはコンクリート打ちっ放しなので無いと頭が痛いし危険だ。アスファルトで踊ることもあるし、禿げるとかそんな事は言っていられないのだが――滑りの良い木の床と比べると、何も無しでは厳しい。


その次はヘッドスピン。ジャックも帽子をヘルメットに変えた。

ドリルスピンはこの床でも回りやすい。ジャックにもっと早く、早く!と言われるので速水は苛々した。ロングドリルは足を絡めたやり方の手本を見せられた。ルービックキューブはグライド中の止めと、足抜きはバランスを取るのが下手だと注意されまくった。癖を修正してマシになったと思う。


――速水は踊れるならどこでも一緒だと思っていた。


「……?」

しかし、今日に限っては途中で首を傾げた。


「なあジャック、ハウスとかの床って、素材違うよな。やりやすさも違うかな」

「ええ、それはもちろん!……行きましょう!あっ。今日はスタジオ押さえてあります!」


「え、おい!?」

行った途端に速水は手を引かれた。

床の素材について聞いただけなのに!


ほとんど担がれる形で、車に乗せられる。

「この誘拐犯……」

速水は呟いた。

ロブの運転で、車は順調に進んでいる。

ロブは速水の勤務先『blue bird』で待機していたらしい。

――こいつら、初めからそのつもりだったのか。一体何なんだよ。


仕方無く外の風景を眺めていた速水は嫌な予感がした。

「なあ、スタジオって……どこに向かってる?」

速水は言った。

「一番近い――玉川ダンススタジオです」

ジャックが言ったのは、以前速水が通っていたダンススクールだった。

「げ……あそこか」

「おや、知ってますか?」

「昔あそこに通ってた。けど、いきなり辞めたから……」

音が変になって、とは言わなかった。ロブは昨日のジャックと速水の会話を聞いていない。


まあ、もう六年は前の事だし、自分の事を知っている人はいないだろう。

講師の先生も今日は……曜日が変わってなければレッスンは無いだろうし。


「部屋は?借りてあるのか」

「ええ」

ジャックが言った。こんな時ばかり用意の良いことだ。


雑多な市街地の一角。横にそれなりに大きく、縦に六階くらいグレーの建物。

ここは茨城で一番と言っていい程有名な、スタジオ兼スクールだった。

ダンススクールが開かれるのは週末と決まった曜日だけ。

あとは貸しスタジオ。バンドマンや、音楽関係の人も練習に使う。


地下に車を置き、自動ドアをくぐり、それなりに広いロビーに入る。

右手に硝子張りで事務所がある。

その前に机があって沢山のチラシ、パンフレット、リーフレットが置かれ、その後ろの壁にはダンス講演とか、ライブのB2ポスターが複数枚張り出されている。

正面の掲示板にはスクールの日程と時間割。


ロブは興味があるのか無いのか、机の上の薄い冊子をパラパラとめくっている。

「へぇ。まあこんなモンだよな日本は」

そう呟く。ロブは英語を話しているが、日本語も少し読めるのかも知れない。


――そう日本は、こんなモンだ。

余程の事が無い限り、習い始めた『子供』はそのうち辞める。

この界隈、つまり茨城や近隣のB-boy達は大体ここに所属していた。

それでも中学以下のクラスは多い時で三十、四十人程度だ。


ブレイクダンスは特に、中学入学、高校受験――その辺りで全員入れ替わる。

結局は習い事だし、技を磨き、ダンサー同士でサークルバトルやダンスバトルをしたりする、交流の場という意味合いが強い。


だがそこで辞めずに、本気で続ける十五歳からのコースもある。

下の方だった速水は縁が無かったが、そこは関東ではトップと言われるほど実力も高いらしく、ダンスチームにスカウトされる者もいる。


実力があって小学生のうちに普通コースからそちらに移り、スカウトされたと言う話も聞く。

ここ出身で、高校に行きながらチームで頑張っている人も沢山居るらしい。

昔は速水もそれを目指していた。


それとは別に、大人のブレイクダンスサークルもあって、そちらは講演したり、大会に出たり、もっと本格的にやっている。スクール創設者の玉川亮は大会で優勝したりとか、テレビに出たり、レッスンDVDを何本も出していたり、人気も実力もある有名なプロだ。名前はRYOで通っている。

数年前まで自身でチームを主催していた。今は後継者に譲ったらしいが。

――速水は玉川を尊敬していた。


つまり、このダンススクールが、体調が安定してからも速水が実家に帰らなかった理由だ。


「あれ?」

ポスターを見ていたらジャックとロブが消えていた。

二人は硝子張りの事務室の中にいた。扉は開いていたままで。何か人だかりが出来ていた。

中に講師が十名ほど。ジャックとロブを囲み、熱心に話している。

「ジャックさん……!」

「いやロバートさん、本日はようこそ……!!」

速水は微笑した――公私混同も良いとこだ。速水は講師の半数くらいに見覚えがあった。

玉川先生に、板倉先生に……石川先生に。新見先生は奥の方だろうか?


――なつかしいな。

全然変わっていない。


長くなりそうなので、速水はロビーの端の青いベンチに座って待っていた。

自販機の影の、観葉植物の隣。この木は少し大きくなった。

通っていた当時も…別邸からの迎えを待つ間、速水はいつもここに座っていた。

今日も大体いつもの格好。黒のキャップをかぶり、全身黒。


「え――速水君?」

「あっ」

見上げて、速水ははっとした。


「新見先生?」

昔、小学校の頃に教わっていた新見先生だ。この人もプロのブレイクダンサー。

背はジャックより低いが日本人にしてはまあ高い。

しっかりした体躯に、人なつっこい表情。

生意気な速水にも優しい先生だった。


速水は立ち上がって、頭を下げた。

「ご無沙汰してます」

「おおぉ!!速水君だ!久しぶり!いや、元気そうで良かった。大きくなったなー!今日はもしかして、踊りに来たのかい?」


「いや、知り合いに――」

「速水サン!」

「ああ、行く。じゃあ先生、また」

ジャックに呼ばれ、速水は会釈して立ち去った。


「――あ。僕も後で行くよ」

やや遅れて先生の声が聞こえた。


■ ■ ■


「ここって借りられるんだ」

速水は呟いた。


ここはワンフロア丸々一部屋で、一応機材のそろったステージもある。発表会や大会前の練習によく使う。貸し切りにするには広い部屋だった。

速水も、数度踊った場所だ。


「よし速水。まずはステージに上がれ」

ジャックが英語で言った。

「何で?」

「そこにステージがあるから、に決まってるぜ!」

壇上からロブが言った。彼はすでに登っている。目立ちたがり屋か。


ジャックは舞台の端でCDを選んでいる。


「ハァ」

速水は溜息をついて、ステージに登った。

全く知らない曲で踊る―。そんな事出来る訳が無い。


「とりあえずやってみよう。まず四分くらいの曲で」

ジャケットを裏返し、ジャックが一つの曲に決めたらしい。


「オーケー…」

速水はもうやけっぱちだった。

「ブレイクビーツだよな?」

「ああ、できるだけマイナーなのを集めた。テンポはどれもオーソドックスなヤツだ」

ブレイクダンスの基本に則ってやれば、合わなくても何とか踊りにはなるだろう。


「ロブ、もう少し端にいろ。じゃあ、かけるぞ」

ジャックがボタンを押して、曲がはじまる。


コーコーコ、カッ!ギギギぎー。


「…チッ」

速水は舌打ちした。前奏でコレか。多分踊りにくい曲だ――。


「…?どうした?」

二拍後、ロブが言った。

「えっ?」

速水は振り返った。まだメロディは始まっていないはず――。ギギギー!に混ざり、リリ…リリ…リリ…と聞こえる。

「前奏、とっくに終わってるぞ」

「えっ?嘘」

速水は慌ててジャックを見た。ジャックは曲を止めなかった。

「とにかく踊れ!音に合わせて!!」


「――っ」

速水は体を動かした。エントリーから。

アップダウンの激しい曲調、引きつるような音。ガラスを引っ掻くノイズ。

ガンガンという大音響の金属音。

ふっと、音が弱まる。

ブレイクビーツは様々な曲をつなげたりしているから――多分今ちょうど継ぎ目で曲調が変わったのだろう。

速水は入れるタイミングだと即断して、トップロックを開始。してみたが、サッパリ分からない。


今、自分のステップは音に合っているのだろうか。

いきなり、きーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

と高音が幾つも重なった音がして、速水は耳を塞ぎそうになった。

既に分からなくて泣きそうだが、パワームーブに移行。難しい技を出せる余裕はない。ウィンドミル。

ガッガッぎガッばガッ!!ききぃぃぃきんきぃ。

と今度は一定の音とリズムを繰り返し刻んでいる。

ヘッドスピン、が良いと思う。速水は回った。―が、唐突に。

アップテンポに変わる。


起き上がった速水は、音を見失った。



「クソッ!!駄目だ…!!」

曲はそれからも続いた。速水が無理矢理踊ったのは二分弱。

ジャックは曲を止めない。

―ジャックが見ている――。


速水は無理矢理立ち上がった。まだムーブがある。

ムーブ、『カフス』『ノーハンド』の後フリーズ、『エアーベイビー』を挟む。

そして『ルービックキューブ』『ウインドミル』が、ウインドミルの直後すぐに一瞬曲が途切れ、心臓が止まるような――、音色がする?


もうとりあえずという感じで、速水はそこでフリーズしてフィニッシュした。

一・五秒後、唐突に曲が終わった。


「……っ」

速水は床に手を突き、歯ぎしりをした。


汗が背中と額を伝う。これは大量の冷や汗だ。

頰が熱い。顔が、身体が熱い――こちらは無理矢理な身体的興奮と、とてつもない羞恥による物だ。


こんな無様な踊り、誰にも見せられない!!


「クソッ…!!おいジャック!!お前はこれでも踊れって言うのか!」

速水はジャックに叫んだ。

「ああ。言うぞ。次、二曲目だ」

「馬鹿野郎っ!!」

速水は叫んだ。また奇妙な曲が始まる――。


なんて、悲しい。

速水は愕然とした。

「……何だよ、この曲っ」

速水は踊る。これを作った奴、頭おかしい!俺がおかしい!

ぴーキーぴーキー、カー、ニーと言う四つの高音とぐワンぐワンぐワンぐワンとした二つの低音が絶えず反響し、強弱を繰り返す。

さっきの曲は曲調の変化が大きくガタガタしていた。だから編曲された曲だ。

こちらはソレが無い。マイナーというだけあって聞き覚えがない。

一曲なのだろうが――。頭にクる。が、よく分からない陶酔感がある。


声はない。EDM?ふと速水はそう思った。機械音――?

嫌になる。機械音ですら、おかしく聞こえる。一体何なんだ!


もうやめてくれ!!

歯を食いしばって、耐えて踊る。


――タイミングはおそらく合わず、先に曲が終わった。


……サッパリ分からない。


■ ■ ■


「うぁ、くそっ……、ぁあ……」

曲が終わり速水は頭を押さえてうずくまった。涙があふれてきた。

――さっきの曲、『ハズレ』だ!!


「くそっ、ぐ……」

速水は座り込んだ。ゼイゼイと息をついて、涙をぬぐう。

が、また涙が出て来る。吐きそうだ。

速水は口に手を当てた。吐き気がするが、ギリギリで吐きはしない。

「お前、おい大丈夫か」

ロブが声を掛けた。速水はそれを振り払った。


「ジャック、今の曲、最低だ!!曲名教えろ」

絞り出すように聞いた。


「さぁ。何だろうね」

ジャックはそう言った。

「ふざけるなよ……」

速水は怒りに肩を震わせながら言った。


「どうした?目が回ったのか」

ロブが聞く。

「あの曲、ハズレだ。たまにっていうか、結構ある、聞くに堪えないヒドイ曲…」

そして隣がロブだったと思い出して以後は口をつぐんだ。


「ジャック、二曲目、もしかして……EDMか?」

代わりにジャック尋ねる。

「――、そうだ。分かるじゃ無いか!大外れだが近い。テクノだ」

ジャックは言った。

「は?テクノって?どんな感じの曲だ?」

速水は首を傾げた。速水はテクノを聞いた事が無かった。


「ピコピコって感じかな。この曲はポップな感じだね」

ジャックは言った。

「ポップ……?」

……あれが、ポップな曲?

全然違う。


EDM…エロクトロニック・ダンス・ミュージック。

DJがシンセサイザーなどを使って作るダンス用の曲だ。楽器は使わない。

速水は昔、幾つか聞いた事があった。

それに何かが似ていると思ったのだが……。

さして興味もなく本当にいくつか聞いただけなので、それなのかさえ、判別ができない。

音が変わった後にしまったと思って、聞き比べたがすでに手遅れだった。


「速水、君はテクノ、聞いた事が無いのか?」

ジャックが舞台に上がってきた。タオルを渡される。

「最近は……。あと昔も無い」

最近というのは、こうなってから、昔は、耳がまともだった時。

「そうかマイナーなジャンルだしな。昔、聞いていたら分かったかも知れないな…」

ジャックは腕を組んでいる。

「それで今の、曲名は?」

「それは君が、これから自分で探すんだ。あの中の一曲だから。見つけたらわかる」


ジャックはCDの山を指さした。今のCDはもう混ぜてしまったようだ。


「ちっ。ブレイクビーツじゃないとか、ふざけるなよ。ジャック、ハズレの曲はきついんだ」

速水は途方に暮れ、頭を押さえて言った。

「ハズレってのは、どう言う事だ?」

ロブがかがみ込んで速水に聞いた。

速水は足を軽く伸ばす。両手を後ろについて、少し上を見た。

はぁ、と息を吐く。


「明るい曲とかでも、たまに響きが汚い時がある。そんな感じ」


「耳が良いのか?お前」

ロブに言われた。

「いや、全然駄目……」

速水はタオルで顔をゴシゴシ拭いて、立ち上がった。


「ジャック、今の踊り…どうだった」

そしてジャックに問いかけた。


「うん、全然合ってないね」


日本語でのジャックの言葉に、速水はガックリと膝を付いた。

「だよな……。ロブさんはどう思った?もう駄目だろうから、正直に言ってくれ」

速水は英語で聞いた。

「おう、俺か?」

ロブは聞かれて嬉しそうだ。腕を組んで、顎を撫でる。


「そうだな、前奏の後、踊り出しのタイミングが遅れてたし、フィニッシュも、曲の変わり目もさっぱり合ってなかった。今まで見たことないくらい酷いぜ」

そう言った。

「……う」

速水は唸るしか無い。

「でも、お前結構ムーブのキレは良いな。まあ、ぐちゃぐちゃで話にならないが。と言うか、ジャック。即興以外なら出来るのか?」

ロブは速水を親指で指し、ジャックに聞いた。

「彼は、知ってる曲ならそこそこ上手い」

「そこそこ……」

ノーマルと言われて速水はへこんだ。分かっているけど、ジャックに言われるとキツイ。


「ハァ。だからプロとか無理って言ってるのに」

速水は呟いていたが、ロブは、それならちょっと何か有名所を借りてくる、と言って部屋から出て行った。

「さあ、速水、水を飲め。休憩は終わりだ。まだあと一時間ある。かけるぞ」

「……」

速水はタオルとペットボトルをジャックに投げつけた。


■ ■ ■


「持って来たぞ―」

ロブが部屋に入ると、速水がまた踊っていた。

ロブは入り口付近からそれを見た。


おかしなムーブだった。


いや、ダンスの技術自体はあるのだろうが…。動作を切り替えるタイミングが変だ。

全く音と合っていない。

頑なに即興を拒んでいた事を見ると、少し、音感が悪いのかもしれない…。

いや、耳か?

極度を越えた、完璧なリズム音痴。確かにこれではプロになれない。


……。そうだろうか。

ショーケースなら、あらかじめ振りを決めておける。

ブレイクダンスで即興が求められるのは、プロとダンスバトルくらい…って、結構重要だな――。


速水がくやしそうに踊る。

今掛かっているのは編曲されたブレイクビーツらしい。今はクラシックのパートで曲調が静かなのに、速水はひたすらステップを踏んでいる。

まるで何かに取り付かれたように。

地団駄踏むように。

もう、驚くほどこれっぽっちも曲に合っていないのだが、ごくたまに、一瞬合う時がある。

フリーズの音ハメがぴったりと決まった時、ロブはなぜか鳥肌が立つのだ。


「こいつは、変人かもな」

ロブは一人呟いた。


曲が終わった。



速水は額を手で押さえ、天を仰いだ。

「やっぱり、分からない。あ。―ダッシュでもさっき、一分五十三の辺りで、上手く合わなかったか!?」

速水は、一瞬合ったかもと思って、ジャックに聞いた。

「いや。そこまで大きくずれては無かったけど、合ってたって程では無いな」

「…そうか……」

速水は舌打ちした。気のせいだったのか。

「おい、ジャック、その辺り一応外れて無かったぞ。確かに一瞬合ってたと思う」

ロブが言った。

「本当?」

速水はぱっとロブを見上げた。

「まあ、ホントに一瞬だったが」

「もう一瞬でも良い!……どうすればいいんだろう――。ちょっとさっきの曲もう一度!」

速水は人差し指を立てて、少し嬉しげにジャックに言った。

「駄目。今は即興の時間。少しは慣れて来ただろ?」

「はぁ!何言ってんだこのタコ!出来るかこんなの!」


「おい、ジャック、CD借りてきたんだが?」

「ああ。ロブ、置いといてくれ。次行くよ」

「ジャック……。ここ置くぞ」

せっかく探したのに、とロブは呆れた。


そしてそれから、十曲踊って、残り時間が十五分でようやくロブの借りたCDが思い出されて、かけられた。


まず速水が最近練習していた曲。

次に昔知っていた、ダンススクールにあった曲。この二つなら余裕だ。


「――なんだ、普通に踊れるじゃないか?」

二曲の踊りを見て、ロブはそう言った。

「だって、これは昔から知ってる曲だし――」

「『昔から知ってる曲』?お前?事故ったとかか?」

ロブが聞いた。


「別に……」

速水は汗を拭いた。

「ロブ、彼はちょっと聴力に問題がある」

「!――ジャック!」

速水はジャックの腕を掴んだ。

「やっぱりそうか。それで即興出来ないって、まあ……大変だな」

ロブはあっさり言った。


同情では無かったが、速水はかっとなった。

「俺は別に、耳が悪いわけじゃ――!!……」

そして、固まった。次に来る言葉は。


「じゃあどこがいけないんだ?」

ロブはそう言った。


「…」

速水は目をそらした。

『俺、小さい頃から…頭がおかしくて、いるかの声とか、鳥の声とか、人の声とか。よく幻聴が聞こえます。総合失調症で、今も医者に通ってます…精神科に』

――そんな事、絶対言えない。


「ジャック、頼む、言うな……」

速水はジャックに取りすがった。怯えた様子で見上げる。


「これ以上は言いません」

ジャックは優しい声でそう言ったが、速水は歯ぎしりをした。

「お前、性格悪いだろ――!!」


日本語出来マセンの辺りから……ずっと分かっていたが。


■ ■ ■


「おいタコ!時間だ片付けろ!」

速水はジャックの背中を叩いた。

「痛いです」

「CDも返して来い――」


その時、扉がノックされ開いた。

「あの。機材とCDを片付け手伝います!」

……というのは口実だろう。このスタジオの先生と、多分レッスン終わりか休憩中の、大人のクラスの生徒が数名。

今日たまたまいたメンバーらしい。大人と言っても、中学生・高校生以上だ。


「あれ、サク君?」

「あ。…どうも」

そのうち一人は、ダンススクールにいた頃の顔見知りだった。

確か三か四つくらい年上の先輩。

その先輩以外はジャックとロブと何かを話している。


「お~、サク君、久しぶり。ダンスやってるんだ。って言うか、サク君ジャックさんと知り合いだったの?」

この『ダンスやってるんだ』は、辞めてなかったんだ、と言う感じだ。


「えっと。まあ、そんな感じです」

速水は答えた。

「へぇ。凄い!うらやましいな。また今度踊り見せてよ」

そう言って、軽く速水の背を叩き、人の輪に入っていった。


速水は慣れた仕草で片付けを始めた。


「速水君」

「あ、先生。CDは帰りに返せば良いですか」

顔見知りの先生に声を掛けられ聞いた。別にCDは帰りついでに事務所へ持って行けばいいだろう。

ジャックとロブは囲まれて笑顔だ。

「いや、皆、まだ掛かりそうだし…、先に運ぼう、ちょっと行ってくる」

先生は苦笑して、数枚のCDとコンポを持ち、皆に声をかけた。

速水は機材の使用方法の説明が書かれたファイルだけ渡された。


「速水君、ブレイクダンス、またやってるんだね」

途中、エレベーターホールで先生が話し掛けてきた。

「……一応」

速水は答えた。

「また、いつでもスタジオにおいで。皆、寂しがってたよ」

先生は言った。エレベータが到着する。


「……すみません。いきなり辞めて」

エレベーターのステップを越えたあたりで、速水は謝った。

「え、いや。いや、いいんだよ、そんな事」

先生は苦笑した。

扉が閉じる。


エレベータの中で、速水は黙り込んだ。

……もしかしたら、お手伝いの人が何か事情を話したのかも知れない。

あるいは、ここでも噂になっている?

速水は実家にいた小さい頃、どこか具合が悪い子、として有名だった。

たぶん、『心の病気』か『発達障害』な、可愛そうな子供。


「ええと、先生……俺、まだダンス続けて……ます」

呟いたら、ものすごく恥ずかしかった。

――これだけは言っておかないと、何故かそう思った。

すぐに扉が開いた。


「え……、そう。……先生はね」

先生が少し驚いた。小さい声だったが聞こえたらしい。

二人は歩き出した。


「端っこだけど今も一応、プロだ。まあ、かなり端っこだけど」

「えっと?」

速水はよく分からなかった。

「この仕事も長いけど、」


そこで事務所に着いてしまった。

CDを置き、ファイルを所定の位置に立てる。先生は自分の席に座った。

速水は、この事務所が懐かしいので周囲を少し見ていた。

昔は携帯なんて無かったから、ここでたまに電話を借りていた。


あの頃の生徒は、もう皆辞めたのだろう……。もう六年も前の事だし。


「ジャックさんとは仲がいいのかい」

先生が聞いた。

「え。まあ、多分。……先生、ブレイクダンスの大会ってどんな感じです?」

速水は先生の机に近づき聞いた。


速水はブレイクダンスの大会についてよく知らない。

無理だろうからと、調べて来なかったのだ。


「おや、出るのかい」

先生は目をしばたかせた。

「友達に誘われてて。けど多分出ないと思う」

さすがにジャックに誘われた、なんて言えない。


信じて貰えないし、笑われるだろう。

速水だって信じられないのだ。

と言うかなぜ、あえてジャックが自分と?

そう言えば理由を聞いていないな――。


「速水君、今、確か十五か四?くらいだっけ?」

先生が聞いた。

「十五です。この間中学出ました」

「高校は?」

「元から通ってません。俺、中卒です。今は喫茶店で働いてて。バイト先でジャックに会ったんです」

速水は言った。


先生は椅子にもたれた。椅子がぎし、と音を立てる。

「そうか――、なら、大会に、友達とでも良いから、一度出た方が良い。他のダンサーと知り合えたり、良い経験になるはずだ。お金が大丈夫なら、大会に向けて少し仕事は減らしてもらって。いや、なんなら、玉川先生の知り合いにチームやってる人がいるから――と、ジャックさんがいるのか。彼のチームとかは?」


「??ジャックはソロだけど―—あ」


「速水サン」

ジャックがやって来た。

「お、いたいた。ちょっと来い」

ロブが速水を呼んだ。


「?何」

速水は事務所から出た。

「まあ、……がんばれよ。ジャックはまあ悪い奴じゃ無い、ちょっと変だが」

「はぁ?」

ロブに軽く肩を叩かれ、速水は首を傾げた。


■ ■ ■


ジャックが暫く先生と話していたので、ロブと自販機で飲み物を買って、飲みながら待っていた。

速水はいつもの場所に座り、特に言うことも無いので黙っていた。

そしてダンススクールを出た。


車に乗る。

「……から、……に行くから」

「……ん」

速水はジャックの言葉に生返事をした。


速水は、ダンススクールを辞めた後は、街でブレイクやってる人達と仲間になって、踊ろうとした。

けれど、見るからにガラが悪かったし、練習した曲を踊ったら変な目で見られたし、笑われたし、一人小さい速水が入るのに、乗り気じゃ無いみたいだったので、付き合うのは止めた。


スクールで一緒だった人の紹介で、もう少しまともなチームを見つけて、テストを受けた事もある。


けれど即興できないと言ったら、「ふざけてるのか?」と怒られてしまった。

一度、説明したら「頭おかしいのか?」と言われた。


今もその声が聞こえる。


――聞こえるのだ。

今は鳥が鳴いている。カラスより不吉で不気味な鳥。


「おまえの頭は、おかしい」

「かわいそうな子」「ほら、速水さんの家の次男、心の病気なんですって」

「まあ、お気の毒に」「でもお金があるんだから――」


「……っ」

速水は耳を押さえた。


話し声はどんどん酷くなり、家に着く頃には、ジャックの声が聞こえなかった。


■ ■ ■


速水は目を覚ました。

ジャックが心配そうに見ている。

……、そうだ、気分が悪くなって……。


速水は音の出る耳栓を外した。

これは特注で、偉い先生が速水に合わせ作ってくれたものだった。

鈴が鳴るような小さな音が聞こえる。

仕組みは解らないが、この音を聞いていると大分声が小さくなる。

隼人に貸したが、何も聞こえないと言われた……不思議だ。

もしかしたら本当は音は出ていなくて、自己暗示のような物……なのだろうか。

だが速水には、確かにその音が聞こえる。


……外を見ると、もう日が高い。

昨日からの、翌日のようだ。


「ジャック、ゴメン……店番は?」

「錦さんが出てくれます」

「そっか……」

速水は溜息をついた。無断欠勤。久しぶりに倒れた。

錦さんにしたらとんだ迷惑だろう。


視界がにじんできた。


ちょっと踊っただけでこれだ。

「なあ。ジャック。俺、こんなんじゃ、プロにはなれないよな」


曲には+と-があって、何が違うのか分からないが、そのどちらか、あるいはどちらもが速水を蝕むのだ。


「なあ、テクノってどんな曲?」

速水は言った。

もっと昔、に色々聞いておけば良かった。

新しく出たヒット曲も、どんな曲かが分からない。

何を聴いてももう、下手クソ、幼稚園児の伴奏、としか思えない。


声だけが頼り。

躍起になって、英語の歌を知るために、ひたすら聞き勉強した。

辞書がすり切れるくらい。暗記するまで。

ひたすら口ずさんで。どうせ眠れないのだ。


そうまでしても、頭と喉が痛くなるばかりで、音は分からない。


「俺……踊るの、もう、つらい」

速水は弱音を吐いた。ジャックが見ている。


「ダンスしたくない。楽しくない……頭痛い。気が狂う……!」

いいや、もう狂っている!!泣きながら速水は言った。


情けない自分が悲しい。悔しい。

……何で俺は普通じゃない?


どうして俺だけ、こんなに異常なんだ……?


「っ……格好いい曲聞いて、格好いい踊りして、皆と仲良くやりたかった。けど、俺がいると皆、ギスギスするんだ。俺が、……ずるいからっ」

速水は嗚咽を漏らした。

「ずるい?」

「うその、病気で学校サボって、金があって、受験もしなくて良くて、一生ダンスだけやってても、遊んで暮らせる、って。でも、頭がおかしいなんて……言えるかよ……!」

さらに涙があふれ出た。


何処が悪いの?

みんなそう言って心配する。

ほっといてくれ。話掛けるな。速水はあえて言わないが、態度で示す。

そうすると、人が折角心配してやってるのに、とか、こいつ生意気だ!って言われる。

——そういうこと言う奴等は馬鹿だと思う。相手にする事は無いと思う。


けど。後で。やっぱり……言われた通りだと思う。


自分は恵まれている。

まともじゃない速水を養う、そのくらいの金が実家にはある。


――中学入学してしばらくして、祖母が死んだ。

祖母は速水に医療費と、学費にしては多い金を残した。

一人で暮らしながら、高校、大学まで行ける金だった。けれど速水は学費には手を付けていない。付けたくなかった。


けれど……医療費は使わなければどうしようも無かった。

進学を勧められたけど、いつまた入院が必要になるかわからない。


祖母が死んだ時、隼人は実家に戻った方が良いと言った。

だが結局、速水は別邸を出て隼人の居たここに転がり込んだ。

磐井は渋ったが、徹夜で頭を下げて、怒られて、それでも懇願し、根負けさせて、無理矢理弟子になった。


ダンスで食べていくのは無理だから。


……速水は、そんな自分が嫌いだった。

マスターの磐井は事情も知ってる、おかしくてもクビにならない。

シフトも融通が利く。こんな職場は他に無い。

マスターは良くしてくれるし。珈琲の技術を教えてくれるし。ダンスもやめろと言わないし。

隼人も修行で忙しいのに良くしてくれるし。いつも気にかけてくれるし。


……これで良いわけ無い。


けど、速水は誰かがいないと、立っていられないのだ。


――俺は、弱い。


「…ぅ…ぅぅ、ぁあああぁあああーー!!」

速水は布団に潜って大声で泣いた。いつもは声は出さない。

酷いけど一番きれいな、一番好きな歌を聴いて、涙をぬぐう。

昔、本当に好きだった曲は、怖くて聴けない。

聴きたい曲がズタズタになってしまうのはつらい。


――泣けば済むと思っているのか?

そんな事は思って無いが、涙が止まらない。

ジャックが居るから余計。

いっそ死んでしまえば、誰かに取りすがる事も無く、嫌々踊る事も無い。


手首を切るとか、そんな勇気無いのは分かっている。それでも。

「……」

しにたい。

その声はもう出ない。嗚咽がもれるばかり。


「速水サン、俺と一緒に踊りましょう。一人より、楽しいです」

日本語で、ジャックは言った。


速水は余計涙が出た。ひっく、と繰り返す。


なんで?ジャックって、凄いのに。


「――何でそんな事言うんだよ!このばか!!」

布団をはねのけて、速水は叫んだ。

けど、少し起きあがっただけで、めまいがした。

また伏せる。

「大丈夫ですか?」

ジャックが慌てて、速水を気遣う。


「お前何で、俺と組む気になった?理由を聞いてない」

どうせ下らない理由だろう。

隼人に頼まれたとか?それくらいしか思いつかない。

だって、速水は全くの無名で、そこらのブレイクダンスをやっている若者―その中でも、即興も出来ない、曲も聴けない、サークルにも入らない、ただの、ひとりぼっちの落ちこぼれだ。


「速水。俺は……。ダンスでこの世界を変えたい」

ジャックが言った。

頭を撫でられる。


「お前となら出来ると思った。それだけだ」

「何で俺?……他にも、皆に教えてるんだろ」

速水は無理矢理、起き上がった。

ジャックが肩を支えた。


「プロの気まぐれで、適当に教えて、いらなくなったら捨てるんだろ!隼人が何言ったから知らないけど、お前頭おかしい!!大体おまえ『あの』ジャックだろ!何でこんな所にいるんだよ!!」

この際だからと、思っていた事をぶつけた。

何か理由があるなら、それでいい。

速水は、ジャックに出て行けと言うつもりだった。

もしくは、自分が出て行くか。―それがいい。


「お前がばかな――、誰かに頼まれた、とかそう言う理由でここにいるなら、俺はもう、出て行く。どうせ。隼人が何か言ったんだろ?!」

速水は口角を上げて笑った。


隼人。あいつも、大概、過保護だよな。

多分、独占欲が強いんだ。


「隼人は、俺に君の力になってくれと言った」

「ああ」

やっぱりか。そう言えば、さっきから日本語だな。……まあいいか。

「怖い人だよ、彼は」

「はっ」

速水は失笑した。


「お前、隼人の事全然知らないだろ」

「……」


「隼人は、優しいんだ」

速水は目を伏せた。


きついとき……どれだけ、助けられたか。


「君は俺と組みたくないのか」

ジャックが言う。

「だって、理由が無い」

「理由が無いと組めないのか」

「当たり前だろ!お前の年考えろ!あと五月蠅い!近い!」


ジャックが、至近距離で速水を見た。

青い目が何か考えているようだ。どうせろくでもないことだろう。


「君はなかなか、気難しいな。俺はあいにく説得材料を持ち合わせていない。理由なんかただの直感だしなぁ……」

少し離れ、ジャックは肩を落とした。


「仕方無いな、あきらめるか…」

ジャックはそう言った。

「……。お前、うさんくさい。騙されないぞ」

押して駄目なら、引いてみる。

きっとそんな感じだ。

「……意外に頭の良い。ハァ……もう駄目か、……悲しいな」

ジャックは溜息をついた。


「悲しい?」


その言葉に、速水は反応した。

ジャックは床にぺたんと座って、肩を落としたまま、すっかりしょげている。


「ああ。本当に悲しくて、寂しい。つらい……。ああ……もう、最悪だ。立ち直れない。君と組みたくて、慣れない日本語とか、お店の手伝いとか頑張ったのに。……そりゃ、初めはどんなモンかなって、大したこと無いだろうって思ってたけど―—、僕はあの時、直感したんだ!ああもう!全部話す!聞いてくれ!この世界は!やっぱり僕と君とじゃないと、変えられない!いいか速水この世界には――」

ジャックは両手を広げた。


「まて。俺が踊ったら、お前は……嬉しい?」

ジャックの誇大妄想を遮り、速水は首を傾げた。

「え?」

ジャックは両手を広げたまま固まった。


「俺がお前と組んだら、お前は嬉しいのか?」

速水はジャックに尋ねた。


「え、?あ、あ。ああ、嬉しい――!!!嬉しい、幸せだ!!」

ジャックが必死で言いつのる。


ジャックの為に、踊る?


速水が今までダンスを見せたいと思ったのは、死んだ母と、隼人だけだった。

死んだばあちゃんは、見たらきっと腰ぬかすので除外。


「——なら、アリかも。家族が一人増えた感じか?」

速水はつぶやいた。

「え、えええ、ええ!?ええ!!そうだ、俺たちは家族!親友!兄弟!仲間!嬉しい!」

ジャックはとにかくひたすらに言葉を並べた。

多分、分かって無い。


――ジャックは皆のジャックだし――。


一番がいいなんて、特別がいいなんて。やっぱりズルイかな?


速水はずっとそう思っていたのだ。

だから遠慮していたし、頼ることも出来ないと思っていた。


「じゃあ、よろしくな、ジャック」

速水は言って手を差し出す。

「ええ、えええ?ええ!ええオーケー出よう!大会に!!――やった!嬉しい!最高だ!!」

何かを学んだのか、ジャックは速水をに抱きつきそう言った。


「よし!じゃあ早速エントリーを!」


「大会は、背が伸びたら」

速水はきっぱりそう言った。


〈おわり〉

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