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鳥籠姫と黒い翼の魔法使い  作者: 飛翔生姜
第五章 絡まる因果は蜘蛛の巣の如く
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まさかの時の友




 冬の終わりから夏の初めまで、ランティスとリーシャ、そしてジャスと共に旅をした。それだけの月日を経て、チュニアールへと辿り着いたのだ。

 しかし今、ほんの半日でチュニアールからトロナイルへ到着してしまった。

「すごいわ、緻密な魔法陣だとは思ったけど、ここまで正確に目的地へ運べるなんて。時間も、信じられない。たった半日だなんて」

 かつては通り過ぎただけだったトロナイルの大地を踏み、リアは感嘆した。

「術者はソフィーア殿下なのでしょう? エメリア王室に伝わる魔法なのかしら」

 知識欲旺盛なリアは目を輝かせるが、他のメンバーは時空間の狭間を移動した際に生じやすいという身体の異常を感じているらしく、顔色が優れないものが多い。

「リアさん、以外とタフなんだな」

 青い顔で言うセブンに、リアは首を傾げる。

「なんのこと?」

 健康そのものというリアに、イリヤが疲れたように苦笑した。

「リアは“最後の将軍”として、俺ら普通の人間じゃ一生かけても足りないくらいの魔力を持ってる。今回はそれに守られたな、羨ましい」

「な、なるほど・・・」

 納得しつつ、自分以外の全員がひどく疲れた表情をしており、さすがにリアも言葉を濁す。

 そして、改めて周囲を見渡した。

 トロナイル王国の首都ヴェーズリーズ郊外にある、【星空の宴】が所有する屋敷だ。

 今日はここで休み、そして明日は首都へ入る。

(・・・・ジャスがいるんだ)

 まだ離れて数日だというのに、たまらなく緊張する。

 それ以上に逢いたいと想う気持ちが強くて、小さく苦笑した。

(振られるかもだけど、今はもう、どうでもいいかも)

 ただ逢いたい。名前を呼んでほしい。あの手に触れたい。

 身勝手な自分に彼は軽蔑したかもしれないけれど、もう想いを誤魔化して逃げたくない。伝えたい気持ちを、より強く意識した。

(逢ったら、言う。好きって、今度はちゃんと)



「ウルフラーナ、大丈夫?」

「! えっと、ユーナさん」



 屋敷の方から現れたのは、イーヴァの妻であるユーナ・ログセスカだった。

「ご無沙汰してます」

「ちゃんと話すのは夏以来ね。元気だった?」

「はい。今回はよろしくお願いします」

 元々国外での任務が多いユーナはチュニアールにいることが殆どない。夏の騒動以来、ゆっくり話す時間はなかった。

「大司祭と巫女姫の護衛、頑張るわ」

「あたしは侍女を頑張りますので!」

 意気込むリアだが、周囲は「皇族の娘が・・・」と複雑そうな表情をしている。本人は全く気にしていないが。


「あはは。聞いていた以上に楽しい娘さんだね、ユーナ」


 上空からの幼い声に、リアはぎょっと目を向く。そうだった。

「司祭さま・・・ですよね、チュニアールの」

 それはまだ幼い子どもの姿で、厳かな衣装から性別が判断しづらい。

 マロナ・リクィユェ――チュニアールの神官で、今回使節団の代表者を務める。

 雪豹の背に跨った幼い大司祭は、屈託のない笑顔を浮かべた。

「うん。よろしく。ステラの裔の娘さん」

「・・・ステラ?」

 首を傾げるリアだったが、マロナを背に乗せた雪豹にまでじぃっと見られているのに気付き硬直する。

「この豹、噛んだりしませんよね・・・?」

 少しばかり怯えを含んだ問いには、

「我は人を食わぬとマロナに誓った身だ。そう構えるな、小娘」

 なんと豹自身が口を開いて答えてくれた。

 というか。

「あ、やっぱり」

 ただの動物ではない。豹の姿をした魔物だ。

 チュニアールで雪女や鳥の魔物、人魚や神の息子と知り合いになったリアは、もう魔物というだけでは驚かない。

「あたしはリアです。豹さん、あなたは?」

 僅かに膝を曲げて目線を合わせるリアに、ユーナとマロナ、そして豹までが目を丸くした。

「ここまで似ますか」

「さすが、ステラの血筋だ」

「・・・・」

 豹が一番困惑しているようだった。ややして名乗る。

「我が名はメブルス。マロナの脇侍だ。忘れるなよ、小娘」

 名を呼ばれなかったことに一瞬リアはムッとする。しかし、相手は知性もつ魔族だ。おそらくは自分よりずっと年上の。

 ならば、確かに小娘なのだろう。そう自分を納得させる。

「はい。よろしくお願いします、メブルスさん」





 今日と明日は休憩と情報収集、王宮入りの準備に使うと決まっている。

 各々屋敷の部屋に入り休息を取るなか、リアは全く疲労を感じていないため屋敷内を散策していた。

 ジャスに告白する。

 決意はしたが、どうしても再会する前だというのに緊張して浮き足立ってしまう。だめだ、落ち着かない。

「言えるのかな、あたし」

 思えば初恋の相手にして元許婚であるサズにさえ、「すき」などとは言った記憶がないのだ。いつも照れ隠しの暴言ばかりで。

「へんなの」

 ジャスのことが好きだ。そして、サズへの気持ちは過去のものであると自覚せざるをえなくなった。

 そんな自分を、泣く泣く認めた今、リアの心は不思議と穏やかだ。

「まだ一年も経ってないのに」

 出逢ったのが冬の終わり。

 春を旅し、夏に彼の傷に触れ、秋は切なさに涙して。

 そうしてまた、出逢いの冬が訪れる――。

(でも、やっぱり嬉しいから)

 好きだと想える気持ちをくれたジャス。その出逢いに感謝する。

 屋敷の庭園を眺めていたリアは、複数の足跡に気付いた。チュニアール所有である為、結界の施してあるこの屋敷に、その足音の主たちは何の躊躇いもなく進んでくる。

 そして――。

「・・・あ!」

「ええっ!?」

 その先頭にいる人物が誰かわかった途端、リアは頓狂な声をあげ、相手――ランティスも目を丸くして驚いた様子だった。








 場所を屋敷の談話室に移し、彼らはソファに腰掛けた。リアが迷子にならないよう近くまで探しに来ていたセブンもランティス達を見て驚いたようだったが、すぐ他のメンバーに声をかけてきてくれた。

「近くまで来てたから、ここからチュニアールに通信できないかと思ったんだけど・・・・まさか、リアが直接トロナイルに来てるとは想わなかった」

「あたしに用事があったの?」

 ランティスの言葉にリアは首を傾げるが、逆にランティスは困った顔になり、隣のリーシャに視線を投げてしまう。恋人同士の無言のやりとりを経て、リーシャが口を開く。

「私たちも、ジャスの立太式の報せを聞いたんです。それで、リアがどうしているか、心配で」

「あ・・・、ご、ごめんね。ありがとう」

 リアは一瞬言葉に詰まったが、慌てて礼を言った。照れくさい気持ちと素直な感謝、そして、自分の気持ちが周知の事実である可能性に今更気付いた気恥ずかしさを覚える。

「ところで、その・・・」

 僅かに頬を染めたリアは、見慣れない三人組に目をやった。

 ランティスとリーシャ、リオンとサーシェスは仲間であり何も思うことはないのだが、その三人とは全く面識がない。同じく【星空の宴】の構成員かと思ったが、どうにも雰囲気がおかしい。

 というか、光景がおかしい。

 帝国貴族を思わせる、眩しい黄金の髪と瞳を持つ青年。皇帝の姪としては羨ましい容姿だが、別にいい。

 ややふくよかな体格の、眼鏡をかけた中年男性も、別にいい。

 問題は最後の一人だった。

 背丈や肩の細さをみれば、おそらく女性だろう。髪も長くのばしている。だが。

 何故か彼女は厳しい形相の、真っ赤な天狗の面を被っていた。

 その身には天狗と同じく東洋のエプロンであるパステルカラーの可愛らしい割烹着を纏っているが、転々とつく赤黒いシミはどうみても血痕である。背中には子供用の棺桶を思わせる黒い箱を背負っていて、どう見ても不審者だ。そもそも何故割烹着なのか。まさかそれで堂々と外を歩いてきたのだろうか。

 ファンシーな死神? と思わずリアだけでなくセブン、イリヤまで顔を引きつらせながら下らない称号を頭の中で転がしてしまう。

 一方、そんな化け物じみた存在と普通に往来を歩いてきたランティスはけろりと「ああ」と三人組に目をやった。

「そうだな。えっと、こちらはオレ達がずっと捜していた女性で、マリーナ・ウキィル。今回の旅は、この人に会うためだったから、こうやってリア達にも紹介できて嬉しい」

 え、これが? 人外に慣れたはずのリア達が無言で衝撃を受ける中、マリーナと紹介された女性は仮面を外した。

 存外にまともな、極普通の女性の顔が現れる。年相応の加齢を感じさせても、整った優しげな細面だった。

「やあ、こんにちは。私の息子達と、仲良くしてくれてありがとう」

 これには、リア達よりランティス達の方が反応を示した。普段はめったな事では表情を崩さないサーシェスまで。

 照れくさそうに、嬉しそうに。唇を噛んだり髪を触ったり顔を僅かに背けたり。そんな三人の姿についリア達も微笑み、同じく笑顔のリーシャと目が合い、また更に笑みを深め、心の中で、友人が恩師と無事に再会できたことを祝福した。







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