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鳥籠姫と黒い翼の魔法使い  作者: 飛翔生姜
第三章 色づく想いは紅葉のように
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出口の見えない森の中で



 あれはいつだったか。記憶が擦り切れてしまいそうな大昔の出来事。

『あんたはなんで死にたくないんだ?』

 死にたくないのではない。ただ単に死ねなかっただけだ。

 自分を生かす為に、どれだけの者が命を落としたか知っていたから。

 死ねない。

 全ての罪を償うまで。

 全ての報いを受けるまで。

 この地上に、約束の都チュニアールを築くまで。





 しかし結果として、自分自身で磨き上げてきた使命は、その本人が砕いてしまった。

 愚かだった。

 決して許されない過ちを犯したのだ。

 騙されたから殺そうとした。否、殺したのだ。

 けれど、その首を飛ばすことは、他者に命じるという形でも出来なかった。

 愛してはいけない相手を、愛してしまった。

『どうして・・・』

 憎まれていると信じていた。だからこそ、彼への想いを殺して恨み続けた。

 なのに。

『ウォル・・・嫌よ、なんで・・・っ』

 裏切ったくせに。私を憎んでいたくせに。

 ・・・無事でよかった、なんて言葉、聞きたくもない。

 誰が庇ってくれと願ったというのだ。

『やめて、もう・・・お願いだからっ!』

 自分のせいで一一一生まれた瞬間に聖女であると神託を受けた自分のせいで、一体これまで、どれだけ多くの犠牲が払われてきたか。

 その因果を断ち切ったつもりだった。

 なのに、どうしてだろう。

 天は、神は、運命は、何故いつも自分から大切なものばかりを奪っていくのだろう。

 父も母も死んだ。残るのは歳の近い姪だけだ。

 そして今、唯一愛した最初で最後の恋人も、自分の元を去ろうとしている。

『あ・・・あ、ああ。ああっぁぁぁあぁぁっ!!』

 絶望が胸を焦がした。

 そしてそれは、ずっと封じていた心の蓋さえ焼き払ってしまう。

『どうして・・・・あたし、ばっかり』

 物心ついた頃からずっと抑え続けてきた不満が、事ここに及んで爆発した。

 気が狂いそうな感情の嵐に、彼女は抗うことさえ忘れ翻弄される。

『聖女王陛下!!』

 誰かの呼ぶ声がした。可愛い可愛い、姪の声。

『ルフィス叔母さま・・・っ』

『駄目だ・・・ソフィア、近づくな! 何かおかしいっ』

『セト、いいから離して!!』

『よくない!』

 逃げて。

 もう、力を制御できない。

 願ってしまったから。たった一人の命を、引き止めるために。

 この世の何を犠牲にしても構わない。だから、どうか私にこの人を返して下さい。







 そして、呆気なく国は滅んだ。大地が砕け、世の理から外れた楽園は、海に沈みゆく運命だ。

『させぬ・・・っ!』

 師匠と仰いだ老婆が、結界を張った。

『ルフィス! しっかりせよ!』

『嫌だよ・・・ねぇ、赦して。シュワルツ先生』

 もう楽にしてほしい。望まれ期待され、応え続けて。

 疲れたていた。

 永遠の眠りの中で、彼と寄り添えるのなら、それも悪くない。

 そう思った時だった。

『ルフィス・・・?』

 奇跡は起きた。

 しかし、その代償はあまりに大きかった。

 国土の大部分を失い、民も殆どが死に絶えた。

 そして――――。

『死ねないみたいだ、この体』

 残酷な世界だった。

 ルフィスとウォル、そして偶然その場に居合わせたシュワルツとソフィアは、人間ではなくなっていた。

 この世のあらゆる法則から外れた存在となっていたのだ。

 罪なき民を犠牲に、不老不死を得たも同然だった。

 自分ひとりならともかく、大切な人たちまで巻き添えにして。

『あ・・・あ、ああ・・・・っ』

 苦悩は続く。いつまでも、どこまでも。

 まるで深い樹海に潜り込んでしまったかのように。

 出口の見えない森の中で、彼女は今も彷徨い続けている。










“黎明の騎士団”本部アジト


「ロッド!」

「んー・・・」

 脱臼させたいのかというほどの勢いで肩を揺すられ、ロッドと呼ばれた青年は寝ぼけ眼を擦った。さながら小さな子どものようにあどけない仕草は、とても二十代後半に差し掛かった男のものとは思えない。そして妙に違和感もない。童顔というわけでもないのに、なかなか不思議な男だった。

「イア? どうした。ニーフェルに食われかけたか? おつかれ、おやすみ」

「違うし。いいから起きろ」

「・・・なんで?」

 睡眠欲の塊と称されるロッドだが、寝起きに乱暴な振る舞いをするわけではない。それでも自然と声が低くなるのは、イアの様子がおかしいからだ。

「何かあったのか」

「・・・お前のこと、嗅ぎ回ってる女がいる」

「え?」







「で、銀髪赤眼の娘に心当たりは?」

 尋問口調で話を切り出したのは、イアでもロッドでもなかった。ロッドの真下の階で暮らすラミアが、イアの叫び声を騒音だと苦情を訴えにきたのだ。そんなに毒ガス浴びたいの? と笑顔で脅され、そこでようやくロッドも目が覚めた。

「銀髪赤眼の、女の子」

 覚えはあった。

 忘れられる筈がない。あるわけない。

『傍にいて下さい・・・っ!』

 燃え盛る雪の日の別れ。

 縋ってくれた最後の温もりさえ拒絶した、十年も前の記憶。

 今も、昨日のことのように思い出す。

「この話、ザノイック達には?」

「してねーよ。ラミアは?」

「あんたらが煩いから文句言いに来ただけだったのよ。全くの初耳を、どうやって事前に言い触らせるのか教えてくれる?」

 皮肉たっぷりのラミアに辟易しつつ、イアは視線をロッドに戻した。

「心当たり、あるんだな」

 じとっとした二人の視線に、ロッドは負けて白状する。

「それは多分、俺の妹だ」

 イアとラミアの義姉弟が目を丸くする。

「いもうと?」

「え、いたの? うそでしょ、だってあんた」

 だってあんた一一その続きを聞きたくなくて、ロッドは口早に言う。

「恋人の妹だった。あの子は・・・・俺のせいで全部なくしたんだよ。殺そうとして俺を捜していてもおかしくない」

 逆に恋人がいたのも驚きだったが、ラミアもイアも流石に口をつぐんだ。

 彼は「だった」と言った。離縁したのなら、その妹を自分の身内のように語る義理はないだろう。ならば答えは自ずと知れる。

 死別だ。

(・・・・おい、腐っても女だろ。気の利いた励まし方とかないのか)

(普段から男同士で暑苦しい友情ごっこしてんじゃない。今こそ本領を発揮なさい)

(無茶振りかよっ)

(あんたが先に振ったから打ち返しただけじゃないの! こういうのは丸投げっていうのよっ)

(余計に悪いわ!)

 器用にも視線だけでバチバチと口論を交わすラミアとイアに苦笑しつつ、ロッドは思案を巡らせた。

 どうする。

(今は目立つ動きができない。でも)

 自分を捜しているという娘。

 止めさせなければ、いずれ存在がザノイックやロギアといった最悪の相手に知られてしまう。そうすれば、いくらなんでも身動きがとれない。彼女を人質にでもされたら自分は逆らえないと分かっているロッドは、どうにかして【妹】と接触せねばならなかった。

 そうでなければ、これまでの苦労が水の泡だ。

(仇は俺が討つ。だから)

 拳を握った。大切な、自分達の可愛い妹。

(だから・・・危ないことはしないでくれ)

 脳裏で銀髪が揺れる。それが【妹】のものではないことなど、考えるまでもなくわかっていた。

(メア・・・頼む、ルーを守ってくれ)

 このままにはしない。だからどうか、自分の手が追いつく、その時まで。


 しょうがないわね、と、耳元に落ちてきた優しい呟きは、都合のよい幻聴だとわかっていた。










独立国チュニアール


 ランティス達を見送ったジャスだったが、隣を見ると、ひどく寂しそうなリアがいた。

(どんだけリーシャ好きなんだか)

 まるで母親に留守番を頼まれたが、心細くて不安な気持ちを隠せない子どもだ。そういうところも可愛いと思うが、例によって口に出せないジャスはその頭を軽く叩いて慰める。

「すぐ帰ってくるよ」

「うん・・・」

 笑顔で送り出せたはいいが、やはり寂しいのだろう。「しょんぼり」を絵に描いたような表情だ。

「リア」

「ん・・・」

 終いには唇をかみ締める始末だ。思えば、リーシャは彼女にとって初めてできた同性の友人で、親友だ。昨日決まったばかりの急な出立で、頭はともかく気持ちの整理はできていないのかもしれない。

「ほら、ミナん家でタルト試食するんだろ? リーシャが戻るまでは俺で我慢しろ」

「べっ・・・別に我慢とかは思ってないわよ!」

 慌てて言い添えられても、その狼狽ぶりが逆に図星を指された者の反応に思えてならないジャスは、つい目を細めてしまう。

「ふーん・・・その割に、嬉しくなさそうだな」

「違うってば!」

 必死に服の袖を引っ張って抗議されても疑惑は消えないが、見上げてくる瞳に映っているのが自分だけであることに、妙な優越感を覚えてしまう。

「まあ、いいけど」

「あたしは良くないけど?」

 最近、つくづく思う。

 後どれだけの時間を、彼女と過ごせるのだろう。

 クリフからは音沙汰もないが、あの生真面目が何もなしに手ぶらで帰還というのはありえない。少なくとも、リーシャの件で何らかの手掛かりを見つけるまでは意地でも戻らないだろうと踏んでいた。あれで妙に負けん気が強いのだ。

 しかし、例外がある。

 ジャスの父であるトロナイル国王に、何らかの勅命を言い渡されていた場合、彼は文字通り矢のような速さでスッ飛んで来るだろう。

 もし“そう”なら、そろそろ帰ってきてもいい頃合だ。

 その時は、おおよそ内容も知れている。

 帰還命令が出た時だ。

 病床の父王を支える王子として、宮廷に戻る。それは明日でも、一年後でも変わらない。

 けれど。

(本当に病を患っているのか・・・?)

 ジャスが国王なら、まず隠蔽する。国民の不安を煽るのは絶対に避けた筈だ。そうした不安はいずれ不満に繋がり、謀反を引き起こす可能性も否めないことを、施された多くの教育からジャスは知っていた。

 しかし、それだけの情報操作ができないということは、もう死期が近いから、ということになる。

 ジャスが怪訝に思ったはここだった。

 矛盾があるのだ。

 ヒースによれば、父は冬の頃から床に臥していたらしいが、今はもう秋の終わり。発病からほぼ一年になる。

 余命幾許もない、という割には長生きだ。勿論それはいいことだが、正直ジャスは疑わしく思っている。ヒースの話によると、王宮はさほど混乱に陥るわけでもなく、ほぼ正常に機能しているようだったからだ。

 病を誤魔化せないほど死期が近いはずの王が、しかし宮廷に異常はなく、揺らぎも見られない。これは明らかに妙だった。

(何を企んでいる・・・?)

 嫌な予感がした。全くの直感だったが、父は仮病を使っていると思ったのだ。

 何故そんな回りくどいことを首を捻るも、答えが振ってくるわけもなく。

「ジャス?」

「いや」

 少女の声で我に返り、ジャスは意識的に相好を崩した。リアは不思議そうな顔でこちらを見ていたが、やがて気分を切り替えたらしく、小走りで先に進み始める。かと思うと立ち止まり、ちらりと窺うような仕草をみせて、ようやくジャスは心配させたと悟った。

「なんでもない。・・・ちょっと待って」

 笑い掛けて、少し大股で歩き、横に並ぶ。女として小柄なリアと男として長身のジャスでは、一歩の距離が違うのだ。

 あたしって短足なのかしらと密かに落ち込むリアの頭を軽く撫で、ジャスは「ごめんな」と小さく苦笑した。

 リアは、そっぽを向いて分からないふりをした。

「何のこと? それより、早くミナのお店に行きましょう」

「はいはい、お供します」

 傍からみれば友人というより恋人にしか思えない親密な空気を撒き散らしていることに、本人達は全く気付いていなかった。

















【黎明の騎士団】

・かつてチュニアール騎士団【星空の宴】がトロナイル国王の意向もあり、壊滅させた組織【ラジェーテ】の後身。

・当時の首魁セルガは既に亡く、現在は別の人物が頭目として動いている。

・規模は世界中に潜伏している構成員を含め約千人ほど。




レギア・ヒューストン

(36歳/男/12月31日)

誕生花は檜  花言葉【不滅】

・全身に火傷の痕が残っている現在の首魁。

・セルガに心酔し、故に彼を狂わせ挙句に殺した【星空の宴】総帥ルフィスには、並々ならない恨みを抱いている。同時に、裏切り者でありながら生き延びたランティス達の事も殺すつもりでいる。

・義理の姉に拒絶された事から人生が一変した。そのどん底だった自分を拾ってくれたセルガを神のようにも思っている。



ロディーガ・シェノフ

(28歳/男/6月18日)

誕生花スイセンソウ  花言葉【いつも愛して】

通称【ロッド】

・十年ほど前ラジェーテ所属の生態研究所から脱走した被検体№97-2号。

・外見は悪くないが地味で、どこにでもいる平凡な青年。

・恋人の仇を討つ為だけに生きている。

・面倒見が良いせいで、無駄な苦労をすることも。




ザノイック・セカルジャー

(25歳/男/6月15日生)

誕生花はクワ  花言葉【共に死のう】

・レギアの甥で腹心。伯父同様、セルガに心酔していた。

・ラジェーテ時代の呼び名は【蜘蛛】

・墨色の髪と瞳を持つ。

・裏切り者の息子でありながら組織の恩恵を受け、それを仇で返したランティスには特に強い殺意を抱いている。

・ラミアとは気心の知れた仲で、彼女になら頭を引っ叩かれても怒らない。




シェナ・ラグラーチェ

(24歳/女/9月26日生)

誕生花は柿 

花言葉【広大な自然の中で私を永遠に眠らせて】

・不思議な碧眼が印象的な碧眼の女性。

・天馬に化ける力を持つ。

・アイモダ出身者だったが、避難の際に同族の娘を庇い奴隷商人の手に落ちた。

・最終的には娼館に落ち着いたが、数年前ザノイックに見初められ、彼の所有物となったが、本心では朗らかなイアに想いを寄せている。




ラミアナ・スプラン

(26歳/女/4月11日生)

誕生花は薔薇  

花言葉【私を美しくないと言わないで】

・通称【ラミア】

・整った容姿にワインレッドの長い髪が苛烈ながらも華やぎを与え、より鮮やかな美人になっている。

・ランティスとは母親が異母姉妹の従姉弟関係にあたり、赤毛は先祖代々の遺伝。先祖が太古に滅ぼした魔物の呪いと言われている。貴族出身だが妾が産んだ娘と蔑まれ続け、そんな折セルガに声をかけられ“ラジェーテ”に加入した。

・ラジェーテ時代は【茨姫】と呼ばれ、セルガの子飼いとして知られる。薬物の知識に秀で、毒などを暗殺に役立てているが、魔法の腕も相当なもの。しかし白兵戦では周囲に劣る面がある。

・自分の居場所を奪った【悪魔の瞳】に対して激しい感情を持て余しており、殺すことが悲願。

・3年前にイアを拾い、素性を明かさぬ彼に義弟として姓を与えた。

・彼の金髪を見て、苦々しくも唯一の少女らしい恋をした相手を思い出したのが理由。




イア・スプラン

(22歳/男/7月22日生)

誕生花はキキョウナデシコ  花言葉【純粋な愛】

・帝国貴族を思わせる眩しい金髪と、夜空のようなアメジストの紫眼を持つ。リアの失踪事件に胃を痛めている。

・騎士道に通じた実力者で、それとなく育ちの良さを感じさせる。

・「イア」という呼称は本名ではなく、第一発見者であるラミアが彼の呻くような声で呟くのを耳にした事から名づけられた。

・実際に呼んだ名は「イア」ではないのだが、訂正して追究されるのを危惧してそのままにしている。

・ロッドにだけは全てを話した。

・ラミアがイアに誰かの面影を見出しているように、彼も赤毛の彼女に親友の姿を重ねている。

・とにかく体が丈夫で、陽動もこなせば消耗戦の前衛としても活躍できる。





ニーフェル・ポロンド

(47歳/生物学上は男/7月6日生)

誕生花はアガパンサス  花言葉【愛の便り】

・オカマ。その姿はまさに視覚殺し。

・ある意味では騎士団最強(最凶)の存在かもしれない。

・ギゼルを拾い、母親が必要だろうと試行錯誤を重ねるうち、その道に目覚めたらしいが、ギゼルの証言によると「出会った瞬間から兆候があった」とのこと。

・ちなみに、アジトに運ばれて最初に目覚めたイアは、ニーフェルの姿を見て再び失神したという苦い記憶がある。



ギゼル・ポロンド

(29歳/男/11月14日生)

誕生花アルストロメリア  

花言葉【未来への憧れ】

・緑青のオッドアイが特徴の青年。

・千里眼や透視を得意とする。

・養父の奇行に胃を痛める苦労性。ロッドと気が合う常識人。

・路頭に迷っていた幼少期、不気味なオカマに拉致(保護)され、彼の養子となった。

・シェナに特別な感情を抱いており、イアに惹かれている彼女の望みを叶えたいと思っている。






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