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鳥籠姫と黒い翼の魔法使い  作者: 飛翔生姜
第三章 色づく想いは紅葉のように
38/118

いつか君に言えるだろうか






 何故こうなったのか、とジャスは思う。

 ランティスとリーシャも含めた四人で台所の掃除を終えたのが昼過ぎ。

 朝から何も食べていないリアの空腹が限界に達し、さりとて今日はもう調理しようという気分にもなれないということで、そのまま四人で食堂へと足を運んだのだ。

 そうしたら食堂では何故か、芋を筆頭にした大量の食材が所狭しと鎮座しており、これは何事かと近くにいたディディ達に尋ねたところ、収穫の遅い北の地域から季節の贈り物として、つい先ほど届けられたとのことだった。

 マギーは腕が鳴ると喜んでいたが、そこに通りすがりの女王が口を出した。

 曰く、

「焼き芋しなさい。食べるから」

 結果として、広大な古城に無数と存在する庭の一つを貸し切っての焼き芋大会が催された。仕事中だった他の【星空の宴】構成員も大勢参加している。秋冬の風物詩ともいえるが、リアは勿論リーシャも目を輝かせて楽しんでいるという状況だ。彼女らの生い立ちや過去を思えば微笑ましいことだが、ジャスはどうしよう、と少し困っていた。

(護衛って誰なんだろ。聞いときゃ良かった)

 そもそも、あのクリフが相手の名前さえ告げようとはしなかった。久しぶりの王宮行きで随分と緊張していたようだったが、まさかあの堅物にそんな可愛らしさが残っていたとは驚きだ。

(夕方に来るって言ってたけど)

 ジャスは【星空の宴】に長く身を置いているが、常に千人以上いる城内メンバーの顔を全て判別できるかと言われれば、正直かなり自信がない。ついでに言うと、各国支部など、世界中に散らばる仲間達はもっと覚えていない。もちろん支部長などの幹部は別だったが。

(どうしよう。いや、今さらクリフ以外の護衛なんて鬱陶しいし)

 つい億劫になって沸いた「放置」という選択肢を、ジャスはすぐ打ち消した。相手も仕事できているのだから、それを邪魔する権利は自分にない。

(でもなぁ)

 リアがとても楽しそうに笑っている。せっかくだから眺めていたい。僅かな瞬間さえ惜しいと自覚しているからこそ。

 目に焼き付けておきたいのだ。会えなくなる未来が見えている自分にとって、こんな当たり前の毎日さえ、とても尊い宝石のように思える。

「ジャス!」

 少女が琥珀の眼差しを輝かせて、そのまま駆け寄ってきた。手に何かを持っている。

「うん?」

「お芋! もらってきたよ」

「ああ、ありがとう。火傷するなよ? 熱いからな」

「わ、わかってるわよ」

 どうだか――――と、苦笑まじりに嘆息するジャスの傍らに腰を落とし、リアはゆっくりとアルミを剥がす。やけに丁寧なのは忠告が効いているからなのだろう。なんとなくだが、あのまま黙って見守っていたら、彼女は絶対に舌を火傷したと思う。

「これ、割るの?」

「うん。割ろうか」

「いい。やってみたい」

 午前の失敗で落ち気味だった心情もすっかり回復したらしく、芋を手に上機嫌な様子だ。

 焼き芋一つで可愛いな、と口に出さず惚気るジャスの鼻腔を、何か香ばしい匂いが擽った。

「ん?」

 風上に視線をやると、何故か豚の丸焼きが始まっていた。きっとこのまま野外の宴としてバーベキューになる。

「……」

 リアは芋に夢中らしく気付いていないが、ジャスは飽きず呆れた。公休日でもないのに、まだ明るいうちからこの騒ぎ。目を細めるジャスの視界に、酒樽を運び出す男達が映った。

「ジャス? 美味しいよ?」

「ああ、うん。もらう」

 莫迦騒ぎ好きな連中なのは知っていた。なにせ彼らに育てられたのだから。しかし、どうも収穫祭からこっち、祭り気分が抜けていないような印象を受ける。

(あ)

 収穫祭――。

(やば)

 思い出してはならない記憶が蘇り、ジャスは慌てて頭を振った。アホか。

(自意識過剰も大概にしろ)

 祭り気分が抜けていないのは、自分も同じだ。

「じゃ、ジャス? 大丈夫? もしかして、お芋まだ火が通ってなかった?」

 横に座る友人が突然の奇行を起こした為か、リアが不安げに問いかけてくる。しかし、今のジャスには逆効果に等しく、なんでもない、と誤魔化すしか出来なかった。

(ど、どうしたんだろ)

 一方リアは、もちろんというか、唖然としていた。どうしよう、ジャスがヘンだ。

(ランティス呼んだほうがいいかな? 一応お兄さんなわけだし)

 慌てて、見慣れたワインレッドの赤毛を捜す。あの鮮やかな髪は、どこでも大概浮いているので、すぐ見つけられた。

(?)

 けれど。

(あれ、誰だろ)

 ランティスと話している、見慣れない男。

(たぶん騎士よね? あの格好)

 そう首を捻った瞬間、男とリアの視線が絡み合ったが、しかしそれはほんの一瞬のことだった。

 というのも、向こうの方が「興味ない」とでも言いたげに顔を背けたのだ。

 リアも自分の貴族とは思えない地味な容貌を理解していたし、何より見つめあいたいわけでも無論ないので、特に気には留めなかった。

 しかし、男がリアの横にいる人物に視点を定め、その場で硬直した時は、首を傾げざるを得なかった。

「ねえ、ジャス。あのひと知ってる?」

「え?」

 呼びかけられた少年は少女の示した方向に目をやり、騎士服を纏った男に気付いて唖然とする。

「……まさか」

「え?」

「ちょっとリア、悪い。これ」

 言うと同時に、さきほど受け取ったばかりの芋を少女に預け、ジャスは早足で男の元へ向かった。





 ヒース・ベルグリーズ・クラインは、トロナイルの王宮騎士だ。

 家柄にも恵まれた彼だったが、しかしずっと不満があった。

 それは、未来の主君たる王子が姿を現さないことだ。

 いや、不満というわけではなかったかもしれない。

 もっと適した言葉を捜すなら、きっと「心配」なのだろう。

 本当に短い間だったが、ヒースは王子と共に過ごした時期がある。かの君とは乳兄弟にあたるのだ。

 現国王の体調が優れないとの噂が流れる中、ラドール卿から連絡がきた。一時的に殿下のお傍を離れる事になるかもしれない、突然の招聘にも応じられるように、殿下を守りきれると信頼できる護衛がほしい。そんな誘い文句で見事に乗せられたヒースは、1週間ほど前から海兵に混ざってチュニアールの港町にいた。もちろん正式な手続きを踏んでいるので、自分の存在が殿下の負い目になることもない筈だ。

 そして昨夜、ラドール卿から出立の報告が来て、予定通り自分が護衛の代役を務める栄誉に預かった。

(殿下)

 おぼろげな記憶を辿れば、宝石のような真紅の瞳は、いつも涙に濡れていた。

 あの泣き虫だった小さな子どもが、今どんな風に成長しているのだろう。

 そう思った瞬間だった。

 大人しそうな少女と目が合った。地味だが、なぜか貴族に通じるものを感じてしまう。

 何故だろうと不思議に思いつつも、結局はどうでもいいことだと切り捨て、黒髪の主を探した。

 というより、その地味娘の横に腰掛けていた。

 少女が恐れ多くも王子に耳打ちし、紅い瞳がこちらを捉えた。

(ああ)

 久方ぶりに会う王子は、見事な芸術品のように美しかった。さすがレメリー様のご子息だ。そんな感嘆が漏れる。

 王子が近づいてくる。跪かなければ不敬となるだろう。乳母の息子など、さすがに覚えてはおられまい。

「そのままで良い」

 跪拝しようとしたヒースだったが、数歩先の王子が鷹揚に命じた。

 ヒースは混乱した。何か不備があっただろうか。

「あなたが、ラドール卿ご自慢の部下か」

「は、……お会いできて光栄です。殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」

 不味い。

 言葉がうまく出てこない。王宮では日常的に使われる常套句だというのに。

(何だ、これは)

 先ほどまで、完璧に周囲の騒ぎに馴染んでいた少年が、今は言い知れない力強さで微笑んでいる。

 王の器だと、直感した。

(こんな、顔を上げたままで)

 膝が笑っている。

 騎士としての誇りと貴族としての血が、全身に訴えていた。

 跪け。

 しかし、禁じられている。

 その恐怖ともとれる緊張は、しかし存外、ヒースには心地よいものでもあった。

 この人に仕えたいと思わせる、圧倒的な何かを感じたのだ。

「名は?」

「ヒース・ベルグリーズ・クラインと申します」

 こればかりは譲れない、と拳を胸にあて一礼する。

 すると、王子が微笑んだ。

「そうか。母君は息災か?」

「はっ」

 思わず目を剥きながらも頷くと、王子は安堵にも似た眼差しで、嬉しそうに笑った。

「なら良かった。あなたは次男だったか」

「左様でございます」

「兄君は確か、一回り年が離れていたな。いつもレイチェルが腕白な長男の話をしてくれたから、よく覚えている」

 レイチェルというのは、ヒースの母の名だ。ヒースは胸が熱くなった。

「この度のお役目を立派に果たしました後、母によい報せができそうです。殿下に名を覚えて頂けるなど、この上ない名誉ですから」

「いくら小さくても、世話になった乳母のことくらい覚えているものだ」

「今のお言葉も、伝えれば涙して喜ぶでしょう」

「あなたのことも覚えている」

 念の為という口調だったが、ヒースは思わずじーんときた。

「ありがとう存じます。恐縮にございます」

「……なんで泣いてるんだ?」

 どこか呆れた声さえ、今のヒースには尊い玉響の音となった。







 ジャスが見知らぬ騎士と話している様を、リアはポツンと一人で見ていた。寂しいだとか甘えたことを言う気はないが、もしかしなくても、あれは。

(トロナイルの王宮騎士?)

 目を凝らせば、隣国の予備知識として叩き込まれた記憶と合致する紋章が見えた。

「クリフが所用でいないから、その代わりなんだって」

 リアの疑問に答えたのは、いつの間にか傍まで歩いてきていたランティスだった。男をここまで案内してきたらしい。

「ランティス。リーシャは?」

「あ、ほら。やっぱりオレは付属品だ」

「まだ言うの!?」

「冗談だよ」

 どうだか、とジト目で睨む少女に微苦笑しつつ、ランティスは肩を竦めた。

「リーシャはディディと一緒。隙あらばディディ、オレからリーシャを取り上げようとするんだ」

「ディディにとって、リーシャはたった一人のお姫様なんだもの。仕方ないわ。故郷では、いずれ神様になる筈だった存在が、こんな派手な人と二人でいるの、落ち着かないのよ」

「髪のことは言うな。気にしてるのに」

「そこだけ聞くと禿げてるみたいね」

「段々、ジャスと似てきたよな。その減らず口」

「あら、皆よく“ジャスはランティスに似た”って言ってるわ。 産みの親より育ての親って」

「親じゃないけど」

 2つ3つで息子は出来ないと言うランティスに、とうとうリアは声を上げて笑った。

「ごめんなさい。ああ、でも、なんだか意外ね。そんなに綺麗な髪なのに」

 確かに視線を集めるだろうが、彼がその色彩を厭うているとは驚きだ。不思議そうな眼差しで髪を見つめてくるリアの横、先ほどジャスが座っていた場所と反対の位置に腰を下ろしたランティスは、どこかぼんやりと、どうでもよさそうに口を開いた。

「昔は、“お前の父親が殺した人間の血で染めたんだろ”とか、色々と莫迦な言いがかりをつけられたよ」

「え?」

 物騒な言葉に目を剥くリアだったが、不意に思い出す。

 ランティスは殺人集団【ラジェーテ】の出身だ。

「知っているんだろう? 隠しているわけでもない」

「う、うん」 

 昔を思い出しているのだろうか。そういえば、彼がつい最近まで出掛けていた理由は、【ラジェーテ】で世話になった恩師を捜してのことだった。

「ねえ、ランティス」

「なに?」

「聞いてもいいことか、分からないんだけど……その、どんな方だったの? お師匠様」

 控えめなリアの問いに、しかしランティスは小さく噴き出した。何故か笑われたリアは戸惑い、どうしたの、と言葉を重ねる。

「だって、“お師匠様”とか、呼んだことないし」

「え? だって、その方に色々・・・」

「あの人の下で一番よく勉強になったのは、料理だった」

 うん、と頷くランティスに、リアはきょとんとした。へ?

「戦闘技術じゃなくて?」

「オレは、引きとられる前に、もう人殺しだったから。あの人は逆に、何も教えたくなかったみたいだ」

 前半の発言に絶句するリアを横目に捉えつつ、ランティスは続けた。

「どうにもオレは、父親に似て殺しの才能だけはあったらしい。母親を殺した相手を、その場で殺し返したんだ」

「!」

 リアは、ランティスが語る過去の罪より、彼の境遇に目を剥いた。

 母を殺めた相手に、その場で復讐。

 それは、つまり。

「お母様は、目の前で……?」

「いや、記憶は曖昧なんだ。幸運なことに」

 何も良くないとリアは反発めいた感情を抱いたが、必死に飲み込んだ。

「今じゃ、全くってほど覚えてない。というか、その日以降の記憶が殆どないんだ。小さかったしな」

「そんな」

 それは忘れたというより、記憶を封じなければ生きていけなかったからではないか。

 一方、俯く少女を見やり、ランティスはようやく疑問に思った。

 どうして自分は、こんな話をしてしまったのだろう。

 けれど、答えはすぐに出た。

 いつか懺悔として彼女に告げるべき真実がある。

 彼女は何も知らないだろう。

(嫌われるかな)

 我ながら呆れてしまう。

 自分が見殺しにしたせいで彼女は無二の存在を失ったのに、のうのうとその傍にいる。挙句、仲間として友情まで抱いてしまった。

 しかし、それも今だけのことだ。

 憎まれるのが怖くて、彼女に会おうともしなかった3年間。傍にいた半年。

 この罪悪感が消えることは永劫ありえないだろう。当然だ。

(サズは還って来ない)

 4年目の命日には、ちゃんと告げよう。どんな結末になっても。

 その為に、予め自分がどれほど穢れた人間であるか伝えたかったのかもしれない。

(キミが幸せになればいい)

 出来るなら、ジャスも一緒に。

 サズを忘れて欲しいわけではない。けれど、一度でも他者に触れ温もりを得た者にとって、孤独はあまりにも苦しい。

 支えなしに生きていけない。そう思うから、彼ら二人は共に歩んで行ってほしい。ランティスは心から願った。




 沈黙のなか、リアは思う。

 ジャスが残していった、破られていないアルミの包みを、ぼんやりと意識した。一緒に食べようと思ったのに。

 一緒にいれば、何かランティスに言葉をかけれたかもしれない。そういう空気にしてくれたかもしれない。

 いや、きっとしてくれた。それだけの信頼を抱く彼と、やはり、初めての「焼き芋」を一緒に食べたかった、とも思う。

 らしくもない、敢えて不謹慎な考えをするリアは、この沈黙をどうすべきか必死に頭を動かしてもいた。言ってみれば、ある種の現実逃避だったのだ。

(そういえば)

 ランティスといえば、初対面の時、どうも反応がおかしかった。何がどう、と聞かれれば答えられないのだが、何故かリアを知っている風な印象を受けたのだ。もちろん、当時のリア自身に彼との面識はない。籠の鳥だったのだから。そもそも、あんな鮮やかな赤毛は一度でも見たら忘れないだろう。

(でも、半年も前のことだし)

 今さらになって尋ねるのは憚られる。リアは唸った。

「それ」

「えっ?」

 ランティスの方から口を開いた。予想外な状況の転換に声が上擦る。

「な、なに?」

「それ。ジャスの分だったのか?」

「ああ、これね。そう。でも、行っちゃったし」

 再び寂寥感にも似た気持ちが蘇り、しゅんと俯く。どうもジャスは臨時護衛官に城を案内しているらしく、既に姿がなくなっていた。これでは、この即興の宴にも戻ってくるか怪しいものだ。

「じゃ、オレが貰おうかな。いい?」

「うん。勿体ないしね」

「そうだな」

 本来なら「勿体無い」などという概念さえ持たない一生を送ったであろう皇帝の姪である公爵令嬢に、ランティスは奇妙な感慨を覚えてしまう。

「ところでさ、リア」

「なあに?」

 ホカホカと湯気をたてる芋の、鮮やかな黄色を興味深げに眺めるリアは、どこか上の空で尋ねた。話題が変わったことに安堵していたのだ。

「今のリアは、ジャスの事どう思ってるんだ?」

 刹那、少女の手から芋が飛び散った。まるで破裂した水風船のように景気よく、暖かな黄色の破片が宙を舞う。

(握り潰したのか?)

 恐る恐るリアの顔を覗き込んだランティスは、意外な表情を見つけた。

 少女は、真っ赤な顔で硬直していた。

 目が合うと仰け反り、しばらく口を無音でパクパクと開閉した。言葉が上手く出てこないらしく、ランティスは声にならない叫びを聞いた気分になる。

(照れてる……?)

 てっきり、怒らせたのかと思った。出会ったばかりの頃、一度だけ冗談めかして尋ねた時は、冷淡に切り捨てられたのだ。

 それが、半年後の今はこの反応だ。となれば、どんな野暮天でも大体のことは理解できる。

(これって、つまり“そう”なんだよな?)

 普通に考えれば、「そういうこと」になるだろう。というより、この反応は誰がどう見ても同じ判断を下すのではないだろうか。それくらい顕著な変化を目の当たりにした。

「リア、大丈夫か? 火傷とか」

「何が!?」

 まるで先程の重い沈黙などなかったかのように、噛み付きそうな勢いでランティスを睨む。

「だって真っ赤だし。っていうか、手は」

「なってない! 大体、ランティスがへんなこと言うから!」

 否定した直後に肯定と同義の発言をしていることには自覚がないらしい。よほど気が動転しているのだろう。今更まさかランティスに尋ねられるとは思ってもなかったというのも大きいだろうが、近頃は皆リアのいないところでジャスを弄っていたので、彼女の方は久々の問いかけだったのだ。

 けれど。

 感情の変化がなければ、ここまで反応が違ってくる事もないだろう。

 ランティスは微笑んだ。

 最終的にリアから憎まれることになるとしても、やはり嬉しかった。

(進んでるんだな)

 サズが死んだ日を境に止まった、心の時間。動かしたのは間違いなく、黒い翼の少年だ。

 本当に不思議だと思う。いや、だからこそ出逢ったのだろうか?

 残酷なほど似ている二人は、その傷同士が惹かれあっているのかもしれない。

 そう思えば、これ以上ない似合いの組み合わせと言える。実際に、二人はそれぞれが交わって、己の過去や後悔を克服した。まだまだ問題はあるだろうが、共にいれば彼らは乗り越えていけるように思う。

(……っと、いけない)

 ランティスはつい苦く笑った。今のは、殆ど自分の願望であると気付いたのだ。

 幸せになってほしい二人の、本当に理想の姿。

 しかし実際は、相愛の事実を知ったなら、きっとジャスの方がリアを受け入れないだろう。彼の性質を考えれば、ほぼ間違いなく拒絶する。彼女への想いが深ければ深いほど、手酷く冷淡に。

 リアを政治の道具にするくらいなら、手放す道を選ぶ。二度と会わないようにするかもしれない。そういう男だ。

(ああ……)

 全く、何もかも上手くいかない。

 本当に、少しも。




 






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