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鳥籠姫と黒い翼の魔法使い  作者: 飛翔生姜
序章 宴の前に
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それは孤独な夢物語




 サズが死んだのは冬だった。

 あれからもう、三年が過ぎて。

「サズ……」

 冷たいベッドの上、リアは声を圧し殺して泣く。

 あれからすぐ、皇太子に殴り込みをかけた。武官を跳ね除け、次代の国を担う男に刃を向けた。









『あんたが生きて帰ってきて、なんでサズは帰ってこない!?』

『不幸な事故だよ。僕も悲しい』

『ふざけないで!!』

 剣を振り上げた瞬間、床に叩きつけられた。あまりの素早さに目を剥き、ついで体中に広がる激痛に呻いた。

『叔父上!?』

 皇太子が悲鳴に似た声を上げる。

『とう、さま?』

 呆然と見上げる。

『なんで……どうして邪魔するの!』

 声が震えた。怒りと恐怖で。悲しみと混乱で。

 受け入れがたい現実に、抗いたくて。

 冷静になってはいけない。そう言い聞かせた。

『どうして!?』

『言わねばわからないのか』

 見れば、父も苦しそうだった。心を鬼にして。そんな感じだった。

『この方は国家の未来を担う皇太子殿下。刃を向けるのは誰であっても許すわけにはいかん』

『サズの仇を討つよりも、武官としての役目の方が大事なの!?』

 信じられなかった。父は彼との仲を応援してくれていた。結婚式の準備をやたらと張り切りすぎて、周囲の失笑を買ったほどだ。サズが義息になるのを大層に喜び、個人的にも親しくしていた。

 それを、「役目」一つで切り捨てるというのだろうか。

 皇帝に忠誠を誓い仕える武官としては、素晴らしいと褒め称えるべきなのかもしれない。

 けれど人間、ひいては、父親としては――――。

『リアお姉様!』

 その時、よく知る皇女の声が聞こえた気がしたが、連鎖的に甦るのは、サズを含めた三人で笑いあった幸せな記憶。こみ上げる涙を必死に堪える。

 多くを望んだことなどない。

 現にリアは実母の愛も、少女らしい甘い夢も、趣味を同じくする親友も、何も持っていない。公爵の娘という立場も、継母が産んだ異母弟が跡取りに決まっていてはお飾りにすぎない。

 自分もサズも、ささやかな日々に感謝しながら、共に傷を癒しあって、寄り添ってきた。

 サズさえいれば何もいらない。そう想って生きてきたのだ。

 なのに、この結末はどういうわけだ。

『お前ら……っ』

 自分の声が呪詛のように低く響いた。憎しみと嫌悪で、もう自分の名前も分からなくなりそうだ。

『殺してやる!!』

 謁見の間に、少女の悲鳴はよく反響した。

『こんな国すべて、あたしが破壊してやる!!』










(阿呆だわ。我ながら物凄く)

 皇太子は、あの一件を見事もみ消した。断罪を求める父に、ならば娘を嫁に寄越せと要求してきた。

 サズとの婚約は、最初から【存在しなかったこと】になったのだ。

(それが狙いだったの……?)

 自分ひとりを手に入れるため、皇太子はサズを殺した。

(あたしのせいで、死んだの)

 サズ。違うと言って。優しく腕で慰めて。

 そんなことないんだって。これからもずっと一緒だって。

 共に生きると言ったくせに。嘘つきにも程がある。

「サズ……」

 三年が経過した今も、深々と心を抉った傷は癒えていない。変わったことと言えば、彼を喪った悲しみよりも、二度と会うことは叶わないのだという寂しさが胸を締め付けてくることだけ。

(ううん)

 そうでもない、と思う。

(死ねば、会えるかな)

 あたしが逝くのは天国ではなく地獄だけど。リアは生まれつきお花畑に逝けない。母の死に顔を見たときから理解していたことだった。

(今どこにいるのかな?)

 もし天国にいても、きっと自分が死んだらはるばる地獄まで逢いに来てくれるだろうと思う。彼はそういうひとだった。

 好きだと言って抱きしめてくれた。何度も何度も。

「サ、ズ……」

 東の空が白い輝きを帯び始める頃、リアはようやく眠りにつく。

 血の気の失せた白い頬に、温い雫が一筋そっと伝う。

 



 三年前の今日、リアは決めた。

 必ず仇を討ってみせると。




 あの日も、こんな風に雪が静かに降り積もる白銀の大地に立ち、満天の星空を見上げていた。

 毎年毎年、繰り返した。

 まるで孤独な宴のように。





『俺たちと一緒に行かないか?』




 この冷たい夜を越えたその先で、ひとつの出逢いが待っていることを、彼女はまだ知らない。

 孤独な少女が夢現に紡ぎ続けてきた物語は、冬の終わりに訪れる出逢いにより、新たなる序章を迎える――――。













登場人物紹介






ファディロディア大帝国

・首都はハーヴェンテリア。中央大陸の西側に位置する。

・肥沃で広大な国土を誇る、強豪揃いの中央大陸でも群を抜く大国。

・神話【最後の将軍】に登場する“蒼き焔の姫将軍”を女神として信奉。

 その力を持つ者が現れる確率は千年に一度とされている。

・大昔の【七皇六帝時代】に実在した唯一の女帝ステラ・フィール・ラフィマギルが神格化され、伝説として語り継がれたようだ。

・金髪は尊い身分の証だとされている。





レリアル・ウルフラーナ・ストレイ

(17歳/女/茶髪茶眼/5月14日生)

誕生花は紫蘭  花言葉【貴方を忘れない】

通称【リア】。

・皇帝の姪で公爵家直系の令嬢。

・二代目【最後の将軍】として国にその存在を認められるが、人間として扱われていない。

・異能を顕現させると髪が白金、瞳は真紅に変化し、纏う衣服も戦装束となる。

・継母と異母弟とは折り合いが悪い。

・サズとの出会いで少しずつ他者との関わりを求めるようになるが、14歳の時に皇太子の策略でサズを奪われ婚約者に指命され、以降ほぼ軟禁状態の生活を強いられている。

実父 ギルバート・ロディ・ストレイ

実母 アルナリア・レラリーズ・ストレイ

継母 チゼータ・ヴォル・ストレイ

義弟 ファルディオ・レガリア・ストレイ





サザード・ダズル・ナリガレロ

(享年18歳/男/金髪紫眼/7月22日生)

誕生花はペチュニア  花言葉【あなたと一緒なら心が安らぐ】

通称【サズ】。

・王宮の騎士団長で伯爵の地位を持つ青年。

・女神の眷属とされた一族の血を引く。リアの許婚。

・兄妹間の密通により儲けられたと噂があり、【異形の伯爵】と陰口を叩かれている。母の出自が不明ということも真実味を煽っているようだ。

・若くして家督を継いでいるのは両親が早くに亡くなったからだが、それさえ【異形者の呪い】や【歪モノを生み出した罰】などと誹りを受けている。

・皇太子とは犬猿の仲。





エドワード・ルーフィル・ヴァロファディロディア

・皇太子

・リアに執着している世継ぎ。

・彼女を妃にと切望しており、結果的にサズとは諍いが絶えない。

・思い込みの激しい性格をしていて、「リアと僕は両思い」説を信じて疑っていない。

・そういう所を妹は本気でうざったく感じている様子。

・色々と問題のある人物だが、リアへの深い愛情は本物。





マリアンヌ・ルーゼランカ・ラフィファディロディア

・皇女

・リアを姉のように慕う。

・が、兄には勿体無いと感じているので、サズを応援しているようだ。

・従姉>兄。

・そもそも兄があまり好きではないらしい。

・サズを伯爵として認めており、密かに恋心を抱いていた。彼がリアと添い遂げることを望み祝福していたが、実の兄の企てにより願いは砕かれた。以降は兄を嫌い離宮で過ごしている。

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