失望しましたファンやめます
変な展開になっているかもしれませんが、気楽に読んでください。
「あなた、もっと慎みをもったらどうですか?」
澄み渡る青空のもと、目の前の少女はそういった。
「人と話すな等とは言っていません。話す相手を選べといっているのです」
「婚約者がいる殿方にあのように気安く話しかけるべきではありません」
「そうした場合、婚約者側の方たちにも失礼になることがあります。それがわからないと言うことはないでしょう?」
諭すように、嘲るように彼女は続ける。そして、少し間を開けて、
「もっと、慎みを持ちなさい」
冷たそうな視線と共にもう一度、今度は疑問形ではなく命令形で言い放った。
「…………」
しばらくの沈黙の後、その言葉を投げ掛けられた俺は無言で握った拳を前につきだし、
「合格だ」
親指を立てながら、そういった。
「……や」
それを聞いた少女は、
「やったーーー!」
両腕を突き上げ、バンザイをしながら満面の笑みを浮かべた。
ーーーーー
俺は一度死んだ。
死因は居眠り運転のトラックに轢かれたことだろう。トラックに轢かれる直前、「おぎゃー」から先程の「ねみぃ」までのいままでの人生を振り返ったから間違いない。走馬灯ってあんなものなんだね。
そうして、俺ーー瀬川 陽介の生涯は幕を下ろした……はずだった。
次に目を覚ますと、そこは知らない天井だった。
有名なネタ台詞を喋ろうとしたが、喋れなかった。口を開いて出てくる音は「あぅー」だの「だぶー」だのと、まるで言葉にならない呻き声とも言えない声だった。起き上がろうともしたが、うまく体を動かせず、精々出来たのはベッドの上で右にゴロゴロ左にゴロゴロとするくらいだった。
やけに広いベッドだな、と思いつつしばらくそうしていると、誰かが俺の元へ近づいてきた。
『お目覚めですか? クロノ様?』
そういいながら、メイド服を身に付けた女性が、俺を抱き上げた。
一瞬どんな力してんだ!? と、考えたが、さすがにここまで来れば理解する。
どうやら俺は、転生というものをしてしまったらしい。
ユーシア国の第三王子、クロノヴェルト・ユーシア。それがこの世界での俺だった。
よっしゃ王族だ! と喜んだのも束の間、俺は自身と国の名前に何か引っかかるものを感じた。どこかで聞いたことがあるような、そんな引っ掛かりを覚え、そしてそれはすぐに判明した。
『クロノ様。こちらはあなたの兄であるアーノルド様とレオナルド様です』
メイドに抱かれながら紹介されたのは、俺と同じ赤ん坊だった。
そして二人の名前を聞いたとき、俺は思い出した。
この二人は生前俺がやっていた乙女ゲームの攻略対象だ。そしてユーシア国とはゲームの舞台だったのだ。
……いや待ってほしい。乙女ゲームとは言ったが決して俺の趣味で買ったわけではなくてな? 新作ゲームを買いに行くのがだるかった俺は知り合いに買い出しを頼んだのだが、そいつがものの見事に間違えやがってな? まぁ買っちまったもんは仕方がないと、プレイしてみて……まぁ、ストーリーが面白かったのでついついはまってしまったと言うわけだ。今となっては間違えて買った知り合いGJと言いたい。
まぁそれはおいておいて、俺はゲームの世界に転生したと言うわけだ。第三王子とか名前しか出てなかったから気がつかなかった。
ちなみに魔法とかは存在している。剣と魔法のファンタジーの世界だ。
そこからの順応は早かった。
王宮教育をうけながら、せっかく魔法が使えるのだからと勉強の合間合間に魔法の訓練をしたりしながら幼少期を過ごした。努力の甲斐もあってか14歳のころには、使い手の少ない魔法が使えるようになった。
そして、ゲームのシナリオの舞台であるユーシア国際学園に入学した。シナリオが始まるのはヒロインが入学、攻略対象である双子の兄二人が18歳で3年の時である。当時兄たちは2年だったのでちょうど1年後となる。
名前しか出てこない俺は、物語の傍観者であろうと考えていた。そんな時だ。
『あ……えっと……その……こ、こんにちわ?』
こいつに出会ったのは。
乙女ゲームには、大抵悪役が存在する。当然このゲームにもそいつは存在した。
ルルリア・エヴァンス。それがキャラの名前だ。
ヒロインにたいし、度々嫌みを放ったりする悪役令嬢と言う立ち位置だったが、実際は人を思いやり、嫌みに見せかけたアドバイスなどをしてくれる悪役とは名ばかりのお助けキャラである。
最終的にはヒロインの恋を応援してくれる、ゲームのなかで俺がもっとも好きなキャラクターである。
そんな彼女に、俺は出会った……出会った……のだが、
『あの……その……い、いえなんでもないですごめんなさい』
出会った彼女は嫌みどころか普通に会話することすら難しい、超内気な少女だった。
……ナンダコイツハ?
それが初めてあったときに俺が持った感想だった。
ゲームの中のルルリアは、言いたい事ははっきりと伝え、弱気な姿など全く見れない女性だったはずだ。なのに目の前の彼女は、それとは真逆の存在。ルルリアの皮をかぶったナニカだった。
……そこまで考えて、俺は一つの考えに思い至った。
『……お前、前世の記憶あったりする?』
『ふぇっ!? な、なんで!?』
直球で尋ねてみれば、案の定だった。
俺の例を見れば、他にも転生している人がいてもおかしくはない。おかしくはないが……これはないだろう。なんで真逆の性格になるんだ。
ルルリアはゲームの中ではどのルートを通っても必ず出てくるキャラクターだ。そいつが、このような状態。それではイベントが起こらないどころか、シナリオ自体が危うい。
『……ふざけるな』
『え?』
そこまで考えて、俺はとある決心をした。
『シナリオ崩壊なんてさせてたまるか! 俺がお前を一人前の悪役キャラにしてやる! 拒否権はない!』
『え、えぇえええええええええ!?』
このゲームが好きな者の一人として、シナリオ崩壊なんぞ起こしてはならない。
傍観者なんかやっている場合じゃない。早急にこいつを矯正しなければ!
そうして、俺はルルリア……いや、ルルの教育を始めた。本人は拒否していたが、第三王子としての強権を発動して逆らわせなかった。やり過ぎだとは思った、反省はしているが後悔はしていない。
そしてそれから一年間、人との会話に慣れさせることから始まり、最終的に嫌みが言えるようになるまで教育を施した。その甲斐もあり、冒頭の部分のようなセリフが吐けるようになった。やっと合格が出せ、教えてきたものとしても今までの苦労を思い出して涙を禁じ得ない。
「いやぁ……よくここまで頑張ったなぁルル」
「自分でもよく頑張ったと思うよ……」
自分たち以外誰もいない学園の屋上、そこで俺とルルは二人で小さな宴会を開いていた。厳密に言うと二人だけではないのだが……まぁそこは置いておこう。
ルルの作った料理に舌鼓を打ちながら(ルルの特技は家事全般とのこと)これからのことを相談する。
「さて、ルルよ。いよいよ明日からシナリオがスタートするが……」
「うんわかってる。しっかりルルリアとしての役割を果たすよ」
そう、明日はヒロインが入学してくる日。つまりゲームが始まる日だ。そう尋ねるとルルはやる気満々といった様子で意思を伝える。
「そっか……なら特に言うことはない。頑張れ、名前しか出ない脇役として影ながら応援してる」
「うん!」
ーーーーー
そしてヒロインが入学してきた。マリア・フルエンスという名のヒロインは、入学して3カ月で兄二人を含めた攻略対象5人を落とした。落としたとはいっても、まだ段階で言うと仲の良い友人レベルだろう。ゲームでもこれくらいの速さでこの段階まで上げることは可能だった。そしてここからさらに親友、彼女へと段階を上げていく。そこからが、ルルリアの出番だ。ルルはきちんと仕事をしているようで、複数の男性と仲良くしているヒロインに嫌みなどを言っているようだ。まぁその辺は今日の昼休みに一緒に飯でも食べながら聞かせてもらおう……って、おいヒロイン、なぜおれの方へ来る? え? 一緒に飯? あいにく先客がいるんだじゃあな。……なに? ヒロインが頼んでいるんだから従え? 知らんよ。てか……俺名前しか出ないのになんでヒロインに絡まれてるんだ?
「と、いうことなんだがなんでだと思う?」
「……さぁ?」
学園の屋上で、ルルが作ってきた弁当を一緒に食べながら、先ほどのことを相談する。ちなみにルルはこのゲームはよく知らないそうだ。
「クロ君見かけだけは格好いいから気になったとか?」
「だけはってなんだ、だけはって」
確かにクロノはなかなかのイケメンだ。それは攻略対象の肉親なので間違いはないだろう。……でも、
「攻略対象以外に絡むか? 普通?」
ゲーム通りなら攻略対象だけと絡むはずだろう?
「……うーむ、わからん」
「わからないならわからないでほっとけばいいんじゃない?」
「……それもそうだな」
触らぬ神に祟りなしだ。……なんか使い方違う気がする。
そして、なぜか必死に俺にからもうとして来るヒロインを華麗にスルーし、ルルが悪役としてしっかり働いているのを見守っていたある日、
「ルルリア・エヴァンス! 貴様のマリアに対するいくつもの所業、もはや我慢ならん!」
「今まではマリアがいいといっていたので黙っていましたが、もう許せません」
双子の兄とヒロインに、ルルが断罪されていました。……はぁ? いやいやまてまて、このゲームには断罪イベントなんかないぞ?
「……なんのことですか?」
「とぼけるのか!」
そう尋ねるルルに、双子の兄の方であるアーノルドが激昂する。
「マリアの教材や私服などを切り裂き、私物を隠し、罵倒をし、あまつさえ階段から突き落としたのだろう!」
「大方マリアの麗しさに嫉妬してやったのでしょうが……女の嫉妬とはこうも醜い物なのですね」
「ち、違います! 私はそんなことしてません!」
「見苦しいぞ!」
いじめの内容に対し、ルルは即座に否定するが取り合えってもらえない。今いる場所は門の前なので、相当な人数の注目を集めている。
「アーノルド様、レオナルド様、いいんです。私が悪いのですから……」
「マリア、あなたは優しいですね。しかしあなたが悪いということは全くないのです。悪いのはこの女だ」
泣きそうな顔でそう訴えるヒロインを慰めるレオナルドを見て、周囲の視線が同情的なものとなる。中には謝れ! と叫ぶ奴もいる。
「そんな……わたし……なにも……」
それを聞いたルルは怯えてしまう。……見てられんな。てかそもそも断罪イベントなんてゲームにはねえんだよなにシナリオぶち壊してくれてんだごらぁ。Oすぞ。
「これはなにごとですか? 兄上」
「むっ、クロノか」
第三王子としての皮をかぶった敬語調で話しかける。
「みればわかるだろう。マリアを傷つけた愚か者を断罪しているのだ」
「ふむ……傷つけたとは?」
「昨日マリアが彼女に階段から突き落とされたのです」
「階段からですか? それは大変だ。お怪我はありませんでしたか?」
「はい……大丈夫です」
そうヒロインに問いかければ、ヒロインがこちらに手を伸ばしながらそう答える。おおかた手でも握ろうとしているのだろう。それをひょいっと避け、再び問いかける。
「それはいつ頃のことですか?」
「えっと……それは……」
「昼休みの時だ! そうだろうマリア!」
「……えぇ」
言い淀んだヒロインの代わりにアーノルドが答える。ヒロインは一瞬恨めしそうな顔をして、肯定する。
「ふむ……昼休みですか」
そのままかかとを返し、ルルのもとへ向かう。
ルルは涙目で、俺に訴える。
「違う、違うよクロ君、私そんなことしてないよ」
おいおい素が出てんぞ。動揺すると仮面が外れるのは結局治せなかったな。
「……ぁ」
「わかってるよ」
安心させるように一度頭を撫でてやり、ヒロインの方に向き直る。
「昨日の昼休みでしたら彼女は私とともにいましたが?」
「なっ!?」
「クロノ……あなたは何を」
「クロノさん……」
そういうと、3人は目を見開いて驚く。
「嘘を言うな!」
「そもそもルルリアがやったという証拠はあるのですか?」
「マリアがやられたと言っている!」
つまり証拠はないと。
「彼女の証言だけでは証拠とはなりませんよ?」
「……マリアが彼女に罵倒をされているのを見たという人はいます」
「それはおそらく忠告でしょうね。兄上たちを含め複数の男性と仲良くするのはよくないと言っていたのでしょう。私も見たことがあります」
「だが……それは……」
そのまま黙りこくってしまう。が、まだ何か言おうと考えているようだ。らちが明かんな。……仕方ない。
「それじゃ、本当に彼女が突き落とされたのか、確認に行きましょうか」
「「「え?」」」
「とりあえずマリア嬢が落ちたといっている階段まで行きましょうか」
奥の手で証明させてもらうとしましょうか。
ヒロインが落とされたという階段につく。……さてと、
「ルル、クッキーか何か今持ってる?」
「え? う、うん……はいこれ」
ルルは手に持っていた鞄からクッキーを取り出し、手渡して来る。よし、これなら……
「あー、こんなところにおいしそうなクッキーがあるぞー?」
「お、おいいきなりなにを……」
「誰かほしい人いないかーー」
「ーーはいはいはいはい! 私ほしい私ほしい!」
「「「!?」」」
かなり棒読みなセリフを言い終わる前に、すぐ横から小さな子供の声が聞こえた。
「やっぱりお前は釣りやすいな。フィー」
「ルルのお菓子はおいしいからね、しかたないね!」
てことでそれ頂戴! と手を出して来るこの少女の名前はフィー。俺の友人である。人間じゃないけど。
「せ、精霊?」
レオナルドがふとつぶやく。
この世界で魔法を使うためには、精霊という存在と契約する必要がある。自身と波長が合い、さらに契約までしてくれる精霊は稀であり、そのため魔法使いはかなり貴重な存在である。
「フィー、このお菓子がほしくば昨日の昼頃のここの様子を出してくれるか」
「えー? ……わかった。いいよ」
言うが早いか、フィーは何かしらの魔法を使用する。すると、目の前の階段にヒロインが現れた。
「マリア!?」
「これはこの精霊が写してくれている昨日のマリア嬢です」
フィーは時空精霊という、時と空間を操る魔法が使える精霊である。なのでこういった作業はたやすい。
そして、映し出されたヒロインはあたりをきょろきょろし、周りに人がいないのを確認すると、自ら……
「嘘よ!」
声を上げたのはヒロインだった。
「その子が嘘をついているの! 私が自分から落ちるなんてするわけないじゃない!」
先ほどの、弱弱しい様子はどこに行ったのか、フィーを指さしながら、そういった。
「……へぇ? 君、私が嘘をついたっていうんだ?」
「ひっ!?」
うそつき呼ばわりされたフィーは、ヒロインを威圧する。
精霊とは、うそを嫌う生き物だ。したがって、嘘つき呼ばわりなどされようものならすっごい怒る。
「フィー、いいから下がってこれ食べてろ」
「……」
「いまならあまーいミルクティーもつけるぞ」
「ほんと!? なら下がる!」
追加した条件に目を輝かせながら承諾する。フィーは甘いものが好きなので結構ちょろかったりする。
「……さて、これでわかりましたね?」
「「……」」
アーノルドとレオナルドは俯いて黙っている。
「……それでは私たちはこれで失礼させてもらいます」
それを見た後、ルルを連れてその場を去る。
全く、とんだ茶番だった。シナリオにない断罪イベントなんか起こした挙句、よりにもよってルルをいじめの犯人とかぬかしやがって。ルルがそんなことするわけねーだろ。人畜無害だぞ。普段は仮面をかぶらせてるけど二人っきりの時とかすっげぇかわいんだぞ。
なんかシナリオの件よりルルが傷つけられたことを怒っているような……まぁいっか。
また俺を失望させたら傍観者やめて乱入すればいい。
アオイです。
短編を読み漁って、書きたくなってしまったので書いてみましたが……
にわか知識だからかなんか変な感じに?
とりあえず個人的には満足しました。