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友達たくさんできるかな。  作者: まーりん
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第17話 四季のフラワーマスター

「お願いします!」


縁側から小走り気味に宴会会場に戻ってきた紗稀とフランはすぐさま霊夢に両手を合わせる。


「…霊夢…?何これ?」


「はい?フラン…この子に何を吹き込んだの?」


「何もー?ただ、家に来れば?って誘っただけだよ。」


両手を頭の後ろで組み、霊夢から目を逸らして口笛を吹いて誤魔化す。何も知らなくても、何かを誤魔化しているのは明らかだった。


「あぁ…友達が増えて喜んでるのね。それで、どうして私にお願いを?行ってきなさいよ。」


「えっ?…いいの?」


あまりにあっけなくOKを貰った紗稀はキョトンとしてしまう。危ないからダメとか、何かとダメと言われると思っていたのだ。


「構わないわよ。私としても、紗稀の交流が広がる事は喜ばしいから。」


「いいの?大好きな紗稀がお姉様達に取られちゃうかもしれないよ?」


「…何それ。挑発のつもり?」


「いやいや、私は心配で言ってるだけだよ。霊夢…それは霊夢が1番分かってるんじゃないの?」


霊夢の眉が少しだけ動いた。半分図星…と言った所だ。ただ、それを見透かしたような眼をしてるフランには素直になりたくはなかった。


「心配なんていらないわよ。紗稀に手を出そうとしたら…全員しょっぴいてやるから。」


「霊夢…私…霊夢が嫌なら行かないよ…?」


「え、いや…嫌って訳じゃないのよ?」


しょっぴいて…そんな事本気でする訳ではないが、やはり好きな人の中では自分が1番でありたいのだ。


「…あのねフラン。紅魔の吸血鬼である私が人の家族を奪うような事する訳ないでしょう。」


「分かってるよ。冗談だってお姉様。紗稀ちゃんは私の友達なんだから、友達を無理に誘惑するような奴…紅魔館には…私の家族にはいない…でしょ?」


「えぇ。紗稀、歓迎するわ。宴会が終わって少ししたら迎えを送る。遊びにいらっしゃい。」


「本当に…?れ、霊夢…行っても…いいの…?」


さっきのやり取りで紅魔館に行くことに不安を覚えた紗稀は霊夢の顔色を伺うように見た。


「そ、そんな顔しないでよ紗稀…!いいから、ダメじゃないわよ。」


「やった…!レ、レミィ…行っても良いって…!」


「フフ…聞いてたわよ。さぁ…私達が話し込んでても後ろの花妖怪に悪いわ。フラン、行くわよ。」


「はぁい。紗稀ちゃん、またね〜!」


するとレミリアのすぐ後ろに座っていた緑髪の人が紗稀の方を見ている事に気付く。その人と入れ替わるようにレミリアとフランは席を外した。


「あら…あんたが友達になってくれるの。珍しい事もあるもんね…幽香…?」


「私だって孤独は嫌いだもの。紗稀、私は風見幽香。よろしくね。」


風見幽香と名乗った人が紗稀の近くに寄った時、花のいい香りが紗稀の鼻腔をくすぐった。


「うわぁ…いい匂い……!あ、あっ…よろしくお願いします…!」


「幽香…私はちょっと出てくるわ。紗稀、幽香と話してて。すぐに戻るから。」


「あ、うん。分かった、行ってらっしゃい。」


まだ紗稀が出会ってない人達の中に霊夢は行った。周りに人はいるが、今は幽香と2人きりの時間だ。


「紗稀、この匂い…好きなの?」


「え、あ、はい…!お花…好きです…!」


「そう。私ね、四季のフラワーマスターって言われてるの。花妖怪ってやつね。」


「フラワー…マスター…!!か、カッコイイ…!」


驚いている紗稀の表情を見て、幽香は思った。

この子はまだまだ子供なのだと。穢れのない…純粋で…まるで花のように綺麗だと…


「フフ…カッコイイでしょ。私の家はね、1年中花が咲き誇っているの。紗稀は好きな花…ある?」


「えぇ…と……ひ、向日葵…!」


「あら、奇遇ね。私もよ。向日葵ってね素敵な花なの。明るくて、真っ直ぐで…暖かい花なのよ。」


「あ、ゆ、幽香さんも…!?」


紗稀の問いかけに幽香はニコリと頷いた。


「…えぇ。今はちょっと枯れてきてしまっているけど…次の夏、家にいらっしゃい。広大な向日葵畑をお見せするわ。」


「えっ!?い、いいの…!?」


「あら…友達をお家に招待するのがそんなに驚く事?」


「…友達……いなかったから……」


紗稀の顔が一気に暗くなったのを見た幽香は、一息置いて話始めた。


「…紗稀。1つだけ教えといてあげるわ。美しい花は枯れる時も未来を描いて…種を残す。」


「…種?」


「えぇ。紗稀、過去を振り返るのは止めなさい。確かに辛い過去があったのかもしれない。でも今は違うでしょ?今まで…の話よりこれからの話をしましょうよ。」


「…やっぱり……まだダメ…みたい…」


忘れ去る自信が無かった訳では無い。だが、まだ無理だった。霊夢や幻想郷で過ごした日々は…まだ浅い。何年も苦しんだ過去を…すぐには消せない。


「それだけ…紗稀は笑顔になるチャンスがあるって事ね。紗稀、聞かせてくれない?私も長い時間孤独を過ごしてきた。他の誰でもない、紗稀の口から…聞かせて。」


「…分かった。私ね…ずっと1人だった。病院で苦しくて重い病気で、ずっとずっと…寂しかった。冷たい世界…寂しい、苦しい、辛い……死にたい…そんな過去。」


紗稀は淡々と語った。初めてではない過去の話。可能な限り短く…終わらせたかった。


「ありがとう紗稀。そうして霊夢に出会った。もちろん私にも。紗稀、よく耐えたわね。紗稀が死にたいって思って、それでも生きて耐え抜いた。だからここにいる。本当にありがとう、おかげで私は友達が出来たわ。」


「…死んだよ、幽香さん。私は…1回死んでる。」


「…………………………」


「下向きで、死にたいって思ってた私は死んだの。ここに来て…私はちょっとずつ…少しだけ前向きになってる。」


鏡の前で…自分に言い聞かせた言葉。

昔と今は違う…もう1人じゃない。この言葉を胸に刻んで、紗稀は前を向いているのだ。


「…霊夢が、前を向かせてくれたの?」


「うん。そうだよ。霊夢には本当に助けられた。霊夢が友達になってくれて、家族になってくれて…私の事を好きになってくれた。」


これも何度も説明した気がする。でもこれは楽しい、何度でも説明したくなる。霊夢が好きだから。


「フフッ…それ、最初に会ったのが霊夢だからじゃない?」


「最初に会ったのが霊夢じゃなくても私は霊夢を好きになってたと思う。」


「…あら…そんなに自信満々に言えるの…?」


「うん。言えるよ。何回幻想入りしても、私は絶対に霊夢を好きになる。理由なんてないけど…霊夢が私を見つけてくれるって思ってる。」


直感とも、勘とも言えないが…確かな自信があった。他人からしたらいらない自信だろう…しかし紗稀には揺るぎなく、大切なのだ。霊夢との繋がり…それを大切にしたいのだ。


「フフッ…そう。本当に…霊夢が好きなのね。」


「うん!大好きだよ!ぁ…で、でも幽香さんも…好きだよ?友達…だもん…!」


「ありがとう。ちょっと妬けちゃうわねぇ…霊夢?」


幽香が紗稀の後方に目線を向けると、そこには戻ってきた霊夢が立っていた。


「れ、れ、霊夢…!?あ…えっと……うと…!」


「幽香…あんたねぇ…!」


「…霊夢。紗稀は…明るい子ね。明るくて…強い子。あなたが太陽になってあげるのよ?向日葵は…ひたすら太陽を真っ直ぐ見つめる。向かい合ってあげてね?」


「…分かってるわよ。それより…あんた紗稀の過去…抉ったんじゃ…!」


「それじゃ…私はそろそろ行くわ。紗稀、またね。気が向いたら家にいらっしゃい。秋の花も悪くないわよ?」


そう言って幽香は立ち上がった。霊夢の肩に手を優しく置いて耳元で何かを囁き、その場をあとにした。


「はぁ…!ったく、席を立つんじゃなかったわ。紗稀、大丈夫?嫌な気分…してない?」


「う、うん、大丈夫だよ…?それより…い、いつから聞いてた…の?」


「幽香がジッとこっちを見つめてきたの。それから少しして…って感じね。」


「幽香さんが……?…あ…あの時だ…」


私は1回死んでると紗稀が言った時だ。その時幽香は無言だった。その時に霊夢に視線を送っていたのだろう。


「……紗稀…無理をして忘れなくてもいい。振り向きたいなら振り向けばいい。私が…一緒にいる。」


「もう…分かってる。霊夢が家族になってくれたから…」


一緒に過ごした日々はまだ浅い……浅いが、2人の仲はどんどん深まっている。霊夢は紗稀にとって…本当の家族より…支えになり、身を預けられる存在なのだろう。


「…それより……本当に何回幻想入りしても私を好きになれるの…?」


「うぇっ…!?な、なんで…?」


「聞こえてたから…さ、流石にそこまで言い切られると照れると言うか…」


「暖かいんだもん。霊夢の暖かさは…私の心も溶かすような…優しくて、これが家族なんだって思わせてくれるような…感じがするから…私は霊夢に惹かれるよ。」


聞いてる霊夢はデレッデレだが、言ってる紗稀は恥ずかしさなんて微塵もなかった。本当に思ってるから。本当に霊夢を好きになれる自信があるのだ。


「…そう。ありがとう。私も…絶対に紗稀を見つけられるわよ。」


「えへへ…絶対だよ…?」


「もちろん。さぁ…私達の話は宴会の後でも良いわ。紗稀はもう少しだけ初めましてを楽しみなさい。」


「うん。そうする!」


霊夢は思っていた。幽香は…紗稀に過去を無理に忘れさせないためにわざと過去を聞いたのでは…と。忘れるのではく…乗り越えさせるためなのでは…と。


「フフッ…一応…感謝しとくわ、幽香。」


「え、どうしたの霊夢?」


「いえ、なんでもないわ。さ、行きましょうか。」


「おー!」


新たな出会いを果たし、紗稀は少しだけ強くなった。根拠のない自信だったが…霊夢はとても嬉しかっただろう。

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