太陽スマイル
私、白川柚(しろかわ ゆず。しらかわじゃないよ、しろかわ!)は頬杖をついたまま、誰にも気づかれない程度に小さくため息をついた。
学年を新たに、クラスメイトは一新。
進級前は友達は少なからずいたものの、仲の良い友達というのはできた記憶がなく。
結果、新しい今のクラスでは未だ誰とも馴染めず、休み時間は頬杖をついて過ごす日々を送っていた。
でもそんなの苦だと思ったことはない。
慣れっこだから、というのもそうだけど、理由はもう一つある。
「…………」
「はははっ!持ってかれるって何をだよー?俺なーんも取ってねえぞ?確かに俺の売りは笑顔だけどさ!」
「うーわ自分で言ってやんの……。まあ間違いじゃないけどな」
「はっはっはー!……あ、ところで俺になんか用あるんじゃないの?俺のこと探してたんだろ?」
「あーそうそうそう。今日の放課後ゲーセン行かね?あの太鼓叩くやつ新曲入ったんだよ」
「…………」
頬杖をつき、ぼーっとしてる振りをしながらあちらの会話に耳をダンボにして聞き耳を立てる。
そして隙を見つけては、三木をチラッ……。
「あ、そうなの?お前あの太鼓叩くやつ好きだよなー!」
はい頂きましたー、あれこそ太陽スマイル!!
三木の笑顔は見ている方も元気になれると評判になるほどの眩しさだ。
あの笑顔に出会えればもう最高ってもんじゃない。天にも昇る思いになって、その日は一日頑張れる。
うん、だから今日も、私は頑張れそうだ。
「ストレス発散にちょうどいいんだよ。行こうぜー?」
「あー……わりぃ!今忙しくて行けねぇの」
「は?義信が忙しい?」
「お前もそれ言う!?」
周りにいるクラスメイトがその様子にドッと沸くと、私もそれに紛れて控えめに笑う。
笑われながらも、彼に対する周りの視線は好意的だ。
明るくて元気で、笑顔が眩しいクラスの人気者。
「(遠いなぁ……)」
一年のころはクラスが違った。
だから廊下ですれ違えただけでも嬉しかった。
同じクラスになった今、毎日会える喜びと、時折感じる立場の違いに一喜一憂している。
「ま、忙しいならしゃーねぇわな。余裕出来たらまた行こうぜ」
「ああマジでごめんな!また誘って!」
「義信!カラオケもね!」
「わーってるよ!」
いいなー話せるの……。
羨ましい、といつも思っている。
だけど自分は人見知りのしがない女子生徒。
今三木と話している女子のように誰とでも気兼ねなく話せないし、話すときょどるし、平凡だし。
そんな気持ちが先行して、三木ときちんと会話をしたことはまだない。相手が自分のことを認知しているのかすら疑問だ。
認知されてなかったらそれはそれで悲しいけど。
「(まっ、私は見てるだけで十分だし……)」
最近はそう思って開き直っている。
眩しい太陽は、いくら頑張って手を伸ばしても届くわけがない。
だから諦めるしかない。
実際見ているだけでも幸せなのだ。
クラスで誰とも馴染めなくても、苦だと思わない大きな理由はこれ。
「(このままで、十分……なんだよなぁ)」
少しのモヤモヤを抱きながら。
今日も私は――眩しすぎてそろそろ見れなくなりそうな――彼の笑顔をチラリチラリと眺めている。