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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

元悪役令嬢で現戦闘狂

悪役令嬢で現戦闘狂の始まり

作者: 黒月

シリーズをいれてしまったのでその体裁を整える為に作成


私と三日間戦い続けて体力も魔力も尽き果てたスウィールさんを膝に乗せて介抱する。

皇子?

あの人は此方へ通信映像を飛ばしていただけですよ?

スウィールさんは私だけしか待ち受けていないとはいえ、魔獣ひしめくこの領域に単身で突入してきたのです。

どうして無下に扱うことが出来るのでしょう。


「ようやく終わりましたか」

「ルナ、彼女を何時もの部屋にお願いしますわ」


私たちの派手な戦闘が遠目から終わったのを確認したのか、魔力による強化と肉体の強靭さでこの数キロに広がる砂漠の始まりから数分もたたずに私のメイドが現れた。


「メイド扱いは不服です。私は貴女のライバルですよ?」

「えぇ、月の女神の守護獣にメイド扱いは失礼でしたね」


闇の女神の神格と太陽神の神格を僅かとはいえ覚醒させた私に、闇と太陽の間に存在する月の女神からその格を与える権利を貰いましたので、古くからの付き合いである彼女に与えました。

月の光を受けて闇夜に輝く白刃のように銀に煌めく髪に、海の様な深く黒い蒼さを持つ眼。

その瞳孔は縦に裂け、鋭利な刃物の様な雰囲気に合わず、理知的な風貌にどこか野性味を放つメイド服を着た美女は、実は白銀の大虎です。


「初めて会った頃はもう少し可愛げというものがあったのですけどね」

「あら?ルナの言う可愛げとは、弱いものをいたぶることでしたっけ?」

「いえ、地霊でも高位の存在の模倣であった私を前にして、たかだか五歳の子供、しかも女児が精神体で死なないとはいえ、震える体を鼓舞して私と七日七晩死闘を繰り広げたのです。可愛くない訳が無いでしょう?貴女で言うならスウィール様が死闘を尽くすことです」


ちょっと想像してみる。

支配下に置いた魔獣の特性を"夢の私"に統合して現実の半人間半妖魔の体を強化する"完全魔王モード"に加えて、

夢の体を現実に反映して物理・魔法を問わず体をすり抜けていく魔法(ルナ命名)"夢想体現"を使用した私+全魔獣(ルナ含む)に、

太陽神の魂の欠片を宿したスウィールさんが、自らの魂を太陽神の焔で燃やして存在の核を上げる固有魔法"炎魂励起"で燃やせる魂の

限界を超えて私に挑んでくる。


……………………。


「最高ですね!」

「でしょう?」

「なるほど、あの時の貴女はこんな気持ちだったのですか!

道理でいろいろ粗相をした私にその素晴らしい毛皮をモフらせてくれた訳です。私も、これを突発出来たらスウィールさんを歓待します!」

「本当にあの頃は可愛かったですよ。えぇあの頃は」

「無駄にあの頃を強調しますね。今は可愛くないと?」

「えぇ。ライバルに対して可愛いは不適切でしょう?」


確かにそうですけど…………。


「私は可愛いと思ってますよ?貴女の子虎姿は」

「酷いこと言いますね…………」

「ごめんなさい。でもあの愛くるしさは反則ですわ!」

「はぁ…………。貴方だって、少しは…………極僅かに…………微塵は疲れてるのですから、大虎の方で我慢してください」


そう言うと、彼女は白銀の光を纏う虎へと変わった。

月光の様に輝く銀毛に、夜空を表すかのような黒毛の虎模様。

人なんか丸呑みできる大きな口からは、生命の温もりではなく夜の冷たさが零れ出て、その牙は大抵の物ならば穿ち砕くだろう存在感を放っている。

私を囲んだ腕は太く、その爪はどんなに丸太を積もうと一振りで全て粉塵とするであろう迫力を放っている。

だがそれよりも重要なのは、


「このモフモフは一体どうなってるんですか?」

《月の女神の恩恵ですね》


そこらの高位冒険者の剣ならば意にも介さないほど強靭なルナの素晴らしい体毛だが、こうして触れると柔らかな弾力が手を押し返し、その深さは割りと深くまるで羽毛を積めた布団のような感触を与えてくれる極上のものなのだ。


「こうしてると初めてあった頃を思い出します」

《あの時の様にそのまま寝ないでくださいね》


いや、総魔力の三割は減っていて精神的に丁度良い眠気が足音を立てて迫ってきてるんだから少しは許して欲しい。

ていうか、ちょっと魔力使って快適な状態に毛並みを保ってるのにそれは言わないで欲しい。


《元から砂漠だった地域に大穴を開けるアリサも私の毛並みの前では形無しですね》


私の緩みきった顔を見たのか、そんなことを嬉しそうに言われた。

思わず頬を膨らませて顔を埋める。


「もう!知らない!」


そんなことを良いながら、この毛玉の中で眠ろうと、意識を話題になったちょっと昔に飛ばす。



◆◇◆◇◆



私がいた国には、というか全国では、五歳になると協会で魔力解放の儀式を受ける義務がある。

強制かつ義務であるため、お布施は払わなくても良いのだが代わりに魔力を太陽神、もしくは他の神様に奉納しないといけないのだ。

勢いで魔力解放なんて言ってはいるが、実際は魂の素質を解放するらしい。

儀式の内容は魔方陣の上に立って神父さんが詠唱を唱えると太陽神が作った別次元の世界に魂と意識だけ転移されて、その世界で高位の神獣と対面して修業するのです。

高位の存在とやりとりすることで魂のレベル?が上がって潜在能力が覚醒する?らしいんです。

いまいち把握してないんですよ。魂なんて知覚出来ないですし。

というわけで、初めてルナと出会ったのはその儀式の最中です。


「だだだだ、大丈夫でしょうか?」


はい、私です。

いや、高位の神獣、いわば死の恐怖との対面に怖がらないわけないじゃないですか。

一応、5歳なので。

親の煌めく銀髪ではなく、異様に太陽の日を浴びて光る長い金髪を

心の動揺が表れているかのように振り乱して両親に問い詰めています。

ここまで怖がっている理由は、この儀式は"時々"とてつもなく酷い試練を出すそうなのです。その試練を乗り越えれば、劇的に魔力も増大するのですが、上位の龍と戦った人がいるそうです。

戦うといっても、龍の身じろぎで生じた魔力風に耐え、自らが持ちうる最大火力でもって鱗を数枚削れば合格というものです。

精神体で行うので死にはしませんが、その身じろぎで周囲の地面が冗談みたいにめくり上がったそうです。

その上位の龍と戦った人は、元からその龍が"魂の先達"でありさまざまな知識と共に魔法や魔力を教授され、この試練を受けても大丈夫だというお墨付きを龍から貰っての試練でしたので、命からがら成功したようです。

"魂の先達"というのは、この儀式の相手の神獣が自分よりも高度な生命体であることを認め、神獣より知恵を教わる関係を指します。

他にも、"魂の相棒"や"魂の師弟"という関係もあります。


「いいから、早く行きなさい」

「もう大分たちますよ?」


冷たい反応を返したのが私の両親です。

まぁ、出来の良い弟がいる公爵家の貴族の銀髪を引き継がなかった普通の出来の姉の対応はこんなものでしょう。

かれこれ一時間ほど経っていますし、飽きてきたのでしょう。

少し位は怯える子供の心境も察して欲しいですが、かえってこの反応で落ち着きましたからね。

反応の悪い両親に溜め息を吐きつつ、私が数十人ほど先を譲ったので一番最後になってますが魔法陣に乗ります。

儀式中の時間と此方の時間は違いますが、おおよそ数分で帰ってこられるので苦労はしないのですよ。


「では始めます」


神父さんの詠唱が始まり目を瞑って心を落ち着かせていると、私の意思が体から離れた、と感じた瞬間に周囲の環境が一気に変わった。



◇◆◇◆◇◆


「え?」


儀式の魔法陣が彫られた祭壇の安定感や、神殿特有の歴史を感じる匂いや、儀月の女神が慈愛の表情で見守っている様子を表したステンドグラスから注ぐ太陽の温もりを一切感じなくなり、逆にどこまでも沈んでいきそうな不安感を煽る砂の大地に、肺を刺激する冷気の冷たさが鼻を突き、生物を拒絶するほどの寒さが体を吹き抜ける。

その急激な変化に驚いて目を開けると、前評判で聞いていた太陽の光が射し込む穏やかな宮殿ではなく、生命の存在を一切感じない深い闇が辺りに重くのし掛かる夜の砂漠に私は立っていた。


「え、これは、どういう……」


両親からもお茶会に招いてもらった大人からも年の近い友達からも聞いた状況に混乱して、いつの間にか持っていた砂漠の月の光を反射する黒い長刀や、その長刀に反射して写る自分の髪や瞳が黒くなっているのにも気付かずにどこまでも続く砂漠を見回す。


「あれは…?」


その行いが功を奏したのか、いち早くその存在に気付けました。

足場の悪い砂漠にもかかわらず白雷を帯び、風を切ってこちらへ迫ってくる一匹の巨大な銀狼の存在に。


「っ!、まさか、アレが?」


冗談でも質が悪いです。理性の色が見えない赤に瞳の色を変えて銀の残光を背後に残しながら迫る軽く見積もっても三メートルの大きさの狼を打ち倒せ、というのが私の最初の試練であるなんて。


「は、ははは………」


見たところあの大虎は東方の四神の模造品。

神格は得ていないものの、西にいた虎の地霊が似たような属性を帯びていてもおかしくはない。

だけど、模造品とはいえ方角を守る神にまつわる存在に私なんかが相手になるわけがない。


私が羨んだ銀の色彩を持つ存在に殺される?


私をさんざん蔑んできた銀に?


「フ、フフフフ」


私の目前にまで、上段を振った白刃の切っ先のような軌跡で重力が乗った牙が迫って来ていた。


思考する暇なんてなかった。


膨れ上がった私の意思に反応するかのように、死なない精神体が黒刀を一閃した。

重力に逆らうように打ち上げるのではなく、だらしなく下げていた黒刀が満月の真円を描いて大虎の顔面を襲撃した。


「ガァァァ、!!!!」


私の無意識の一撃は効果的ではあったが、斬激としての効果はなく、大虎の鼻を暫く効かなくさせる位の効果は出ている。

そして、大虎の速度に重力の乗った重い攻撃を私の軽い践む込みの降り下ろしで相殺できる訳もなく、軽い私の体は遥か上空に舞い上がっている。

大虎の纏っていた白雷で痺れた両手の痛みは気にせずに、このまま落下する流れで、ーー


「っ!、もう立て直した!」


既に、私の真下には鼻の痛みに顔をしかめつつも血のように赤い相貌で私を睨む大虎がいる。

もう少し黒刀が長く、太ければ、と思ってしまう。

すると、雷で火傷しているだろう両手に感じる重さが変わった。


「え?」


向けるべきでないと思っても顔をそちらへ向けてしまった。

そこには、私が望んだ形に姿を変えている黒刀があった。

………確かにここは魂が来る世界ですからね?

ここに存在する武器が特殊なのは、察する暇はなかったですけど、思ってはいましたけど。

まさか、こんなものだとは………。


「ええい!どうにでも、なりなさい!!」


どう考えても私には振り回せない両手剣を空中という足場も何もない場所で再度上段の構えを取る。

少しでも力が乗るように体を捻って全身に力を込めていたら、体の内側にある何かが黒刀へ流れていくのが解った。

黒刀の変化は凄まじかった。

黒刀に金色の脈が走り、残っている黒い部分から闇が溢れでた。


「!?」


見開かれた大虎の両目に映っていた私からも黒刀から溢れでている闇が漏れだしているが、それを気にせずに精一杯の力を込めて降り下ろす。


「グ、、、ガァァァア!!!」


何か不思議な力を、って魔力よね、うん、魔力を使った私の一撃は丸太のような大虎の横凪ぎの降り払いで逸らされ、砂漠の砂を大きく吹き飛ばした。

柔らかい砂漠の大地ではこの一撃を受けるには不十分だったのか、私の魔力とおぼしき闇が暴発して、軽い私は砂もろともやはり吹き飛び、大虎はその爆発範囲からその速度でもって逃れているのを確認した。


「ふぅ………まだやるのね。とはいえ、これで仕切り直しよ、大虎さん?」

「グルル……………」


元の長刀に戻った後、私に合わせるように短刀になった黒刀を未だに唸っている大虎に突きつける。


そして、二つの影が砂漠の大地を蹴って相対した。



◇◆◇◆◇◆◆


あれから七日間経った?

消耗の無いこの儀式中だから出来る長時間戦闘だけれど、最初の目的を忘れそうで困る。

体感で1日毎に戦う場所は変わった。

最初の夜の砂漠から視界が遮られ方向感覚を狂わせる樹海。

そこに瞬きする間も無く変化したので、温度と湿度の変化に精神体に負荷がかかって目眩がしてる間に数回の死の危険があったが何とか凌いだ。

視界は最悪で虫がわくことはなかったが湿気の多い空間に気をとられると銀色なのになぜか迷彩のきく大虎の襲撃を受ける。

その襲撃を必死でかわしていくと、周囲の樹木を使った立体起動で戦闘が出来るようになっていた。

もちろん、木陰に紛れて奇襲するために気配もなんとなく消せるようになった。

それが二日目。


三日目は、樹海から溶岩が溶け進めた山のなかだった。 

流石に配慮しているのか、いきなり溶岩の中に出される事はなかったが、かいた汗すら蒸発していく気温にいきなり放り出せれたのだ。精神体に水分なんてものがあるのかは分からなかったが、体内の水分が足りないまま戦闘していた。

ただの地面でさえ熱い地形でゆうゆうと走り回る大虎に、憎しみと嫉妬を込めた一撃で溶岩に叩き出したのはいいが、溶岩すらも魔力を使って泳ぎ出す大虎を見て遁走したりしていた。

不規則に流れ出る溶岩が網目のようになっている下降よりも、多少の暑さを我慢すれば火口すれすれの既に溶岩の道ができている方が安全と解るまで火山を何周も登り降りしたのは苦い記憶だ。

精神体に疲労は無いが、私に速力は無いので不思議に思っていたが黒刀から流れる魔法の知識で出来る限りの強化を行っていたらしい。

それで溶岩に数瞬の間は入れるようになり、溶岩の滝を破って奇襲できたのは楽しかった。

それが三日目。


四日目は火山から吹雪が吹き荒れる雪山の山頂。

だいたいの目安で変化の瞬間を狙って後ろに跳んだら、暴風に体を巻き込まれてあっという間に上空へ飛ばされてしまった。

当然、そんなスキを体が重くて暴風なんかお構いなしに山を走破する大虎は見逃すはずもなく、魔力を纏った突進と重く鋭い牙で襲撃された。

その一撃を黒刀の両手剣形態で弾き飛ばせたのは大きかった。

なにせ、長刀形態だと噛み砕かれるのを幻視したもの。

その衝撃で更に下降して大虎に上を取られたものの、そもそも人間の私に猛烈な吹雪が吹くこの場では上下の優劣なんて関係ない。

私には当然不利に、大虎には当然有利に。

もはやそれが前提で戦闘を押し進めているので、精神体に疲労や四肢欠損を無視できるとはいえ、回復魔法を早めに黒刀から取得できたのはよかった。なぜか私の体が闇にほどけて、闇となった私の体に魔力が補填され、再び体に戻るという、奇抜というか特異というか、便利な回復方法だったのもありがたい。

その回復魔法を駆使して、視界が遮られる吹雪の中から襲ってくる大虎に傷つけられた体や、いきなり火山から雪山に変化して凍傷となり壊死し始めた手足の指なども切り落とした後修復するなどして戦闘継続に努めていた。

その最中、回復魔法の誤差動で闇を中核にすることで雪を操れることに気付いて、雪柱やら雪針やらを新しく攻撃動作にすることができた。

それが四日目。


五日目は、まさかの水中。

精神体なので窒息しないが、口の中に入った塩辛い水から陸のはてにある海の中だと推測。

異様に緩慢になる私の動きにたいして、大虎も少しは遅くなっているが比べ物にならない。

こちらが手足で水を掻かなければならないのに、大虎は足で水を掴んで走るように泳いでいた。

白雷は暗い水中の中で唯一大虎を視認する方法だが、その雷撃範囲が広がってさらなる窮地に立たされていた。

そこはやはり黒刀からの魔法知識が役に立った。

白雷の範囲が広がるので不利かと思われた水中は、闇に包まれているからこそ私の魔力が奮起して雷撃を凪ぎ払い、魔力が行き渡った水は私の意のままに堅くなって私の足場となり、盾となり、壁となる武器でした。

地の利を握ったところで大虎の優勢は変わらなかったけれど、一番攻勢に回れたのはこの地形だった。

水中なんて、現実の肉体では数分持てば良い方なんですけどね。

それが五日目。


六日目は、足場なんて皆無の石柱の上。しかも、雲海が遥か下に見えて空色は青と黒の二色空だった。

足場の石柱が大きくなく、大虎は4つの石柱を使わなければ立てもしないこの場ならば有利に戦えると思いましたけどね?

五日目の水中で程ほどに戦えると思い上がってたんでしょう。

あの大虎、空中を掴みやがりましたよ。

石柱に立つしかない私は、左右は当然として上からも下からも高速で襲いかかってくる大虎に翻弄されましたよ。

黒刀を短刀から長刀への切り替えを素早く行ってリーチを惑わさなければあっという間に落とされて、石柱を蹴ることでしか移動手段が無くなるところでしたよ。

そうして時間を稼いでる間に黒刀から貰った魔法の知識から大虎の空歩を解析して、戦いながら一から魔法を構成したりもしてましたね。いえ、大虎が使っている魔法を構成することは既にしていたのですが、あの大虎、どうやら身体能力だけで空を翔ているみたいで、その現象を魔法で再現することは始めてでしたよ。

そんなこんなて私も空を翔て激しく、それはもう激しく戦いながら六日目が過ぎました。

流石に、六日目も、つまりは140時間ほど続けて闘っていれば攻撃の予測、反撃なら出来るようになります。

まぁ、黒刀から貰った知識で予測像を視界に写し出す魔法のお陰ですが。

取り敢えず、六日目。


7日目は、最初の夜の砂漠に戻っていた。

正直、環境的には今までのと比べて最高で、最初の頃は大分恵まれてたんだな、って思ってたら大虎の様子がおかしくなった。

なんかもう、紅い目からは燐光が迸って、散々私を悩ませた銀の色彩の体毛も三日目の溶岩よりも赤黒くて、今にも弾けそうな魔力は砂漠に砂嵐を巻き起こして、最終決戦?って感じだった。

せっかく作った予測像の魔法も、観測出来ない速度で攻撃されて効果がなくなり、紅雷となった雷撃は更に鋭く速く私を襲い、それを帯びた爪撃は岩のごとく重くのしかかる。

ただ、今まで僅かにあった知性もどこかに置いてきたのか、動きは単調で直線的だった。

それで見きりやすいとはいえ、桁違いの速さと強さがその欠点を無くし、大振りで範囲の広い攻撃と、どんな体勢からも繰り出される重撃に移動範囲が無くなっていって本当に危なかった。

単調で重い攻撃には、やはり単調で重い攻撃だろうと、黒刀をガンドレッドに変形させて、攻撃を受ける時には手甲部を盾に、攻撃を攻撃で反らす時には拳を厚くしていなしていった。

そうして7日目が過ぎたらしく、大虎から赤黒さがなくなり、元の紅色の瞳で止まるかと思いきや深い青色に変わったのは驚きですよ。まだ、続きがあるのかと。


思わず黒刀を構える。


「っ!?」

《あぁ、落ち着きなさい。試練は終わりました》

「へ?」


なにやら幻聴が。


《私ですよ。貴女の目の前にいる虎です》

「っ!、貴女、知性があったの!?」

《神獣ですよ?当然です》

「貴女、あれだけ私を追い回した癖に知性があったと言うのですか!」

《いえ、あれは凶化を施されていたのですよ》

「……つまり基礎能力は上がるけど技は無い?」

《いえ、凶化に抗う為に身体能力の制限はかかっていました》

「うそ、でしょ?」

《そもそも、凶化とは理性も本能も薄くして肉体のダメージ・消耗・欠損を頭で無視するだけのスキルです。もとより、それらが薄い精神体では意味がないです。あれは、貴方を襲うことを渋る私に、遠慮を無くす為に付与されただけです》

「あははは………」


笑うしかないわね。

あんなに強かったのにまだ先が見えるなんて………。


《取り敢えず、今は休みなさい》

「うひゃい!」


小虎の様に首根っこを噛まれて丸まっている大虎の中に抱え込まれる。後、その反動で地面に落とした黒刀が今までの存在からは考えられないほどあっさりと砕けた。


「あ、」

《心配しないでください。あれは貴女の魔法の能力が具現化した刀なのです。今回の儀式は、私と戦うことであの剣を磨耗させて、少しずつ体に馴染ませることが目標でしたので砕けるのは自然です》


今までの戦闘の心の支えが目の前で壊れたのだ。

ちょっとした喪失感があったが、すぐにそれは塗り変わった。

粉々になった黒刀の破片が風が無いにも関わらず私の方へ流されてきて、私の中に入ってきたのだ。

有るべきものが帰ってきたような安心感がじんわりと染み込んできて、それがきっかけとなったのか精神体の疲労が襲って眠気が出てきて瞼が落ちてきた。


《ふふふっ、こうして契約がなったので私はいつでも貴女の夢に行けるようになりましたので何時でもあえますよ》

「ふぁ……、わかりました。おやすみなさい……」


安心して任せても良い大虎の体に身を任せて、暖かくてふわふわなモフモフ包まれて意識が闇に沈んだ。


◇◆◇◆◇◆


「ふわぁ……………、あら?」


起きたらベッドでルナと寝ていた。

あのまま寝ちゃったのね。

メイド服から寝やすい格好に着替えているルナと、魔力を鎧にするためその下は普段着な私がいつも着ている寝間着になっている格好を見るに、ルナが着替えさせたのだろう。


「ふふふ、相変わらず完璧ね」


思わず頭を撫でてしまうのも仕方ないと思う。

普段の凛々しい顔つきが、魔人族の王から献上された最高級のベッドで蕩けて口の端が緩んでいるのだ。

私が体を上げたので、腰に抱きつく形になっていたのを膝にゆつくりと持っていき、満足いくまでさらさらな銀髪を撫でる。


「これからもよろしくね、ルナ」

「はぃ………ァリサぁ……」


うっ、本当にこの子は私を殺す気なのかしら!!

寝てる間は変化が緩むのか、私へのサービスなのか、触り心地の良い尻尾と耳が現れているのだ!

更に、手足も少し獣化していて、手のひらが肉球の様になっていて背中に接触している感触が正に至福っ!!

我慢。我慢よ、アリサっ!!


「フフフッ、ちょろいですね」


己の内の溢れでそうななにかと格闘していたため、その呟きは聞こえなかった。

変わりに、必死に全神経をルナとの接触している部分に集中していたので、寝相なのか、ばっと飛びかかって抱きついてきて思わず悶死しかけたが、なんとか持ちこたえて気絶した。


信じられるか?これ、五歳の幼女が経験してるんだぜ?

こんなのを幼児期に経験していたので、婚約破棄の時は、はぁ…そうですか?、で済ませたはず。


前作で「夢」という単語がありましたが、この儀式とルナさんが出てくる夢のことです。

普通の記憶整理の夢では金髪です。



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