わたしを倒す旅の七歩。
町に着いたの。
この前行った村とは違くて、もっと大きくて人間も多い。
でも、王都に比べれば小さくて、とても都のは言えない規模の集まり。
なんか、ここで一旦装備品の整備をする、とかなんとかリナが言ってた。
この前のでっかい腐狸もどきのせいで、タイチョーの鎧がボロボロになっちゃったからなんだって。
でもさ、わたしは装備なんてないから、どうしようかなぁって思ってたんだけど。
「リナ、本当に本当にあるんだね?」
「このくらいの町なら普通どこかにはあるはずよ」
「これ全部わたしのなんだよね?」
「ラヒーちゃんにあげたお小遣いだから、そうよ。でもちゃんと計画的に使わないとダメよ?」
リナがわたしに教えてくれたの。
町には甘いお菓子を売る店があるはずだって。これは食べるしかないよね。
甘いものは大好きだよ!
滅多に来ることもない人間の町。
王都じゃ自由に見て回る時間なかったし。
今まで行ったことのある村じゃ、見応えもなかったし。
ちょっと珍しいかもなって思ってキョロキョロと周りを見渡すの。
人間は弱い。
人間は脆い。
ちゃんと学習したから、今のわたしもちゃんと弱い。
旅に出てすぐの頃は身に纏っていた能力も、全て切ってしまった。
今わたしが発動してる能力は、自分の意思で切ることのできないものだけ。
わたしには体力はあまりない。
魔族にしては、あまりないって意味ね。
人間と比べればそれなりにあると思うの。
旅の中で他の人に遅れをとることはないし。
頑丈さもなくなった。
今なら崖から落ちたら、かつての騎士のようにどこかに怪我を負う。
わたしはラダヒー。
花は体力も頑丈さも持ち合わせてはいないもん。
「あっ、あった!」
適当に歩いていると、甘味という看板を掲げる店を見つけた。
甘い物、楽しみだなー。るんるん。
道を歩く人をかき分けて、その店だけを視界に入れて、小走りで近づいた。
そのせいで足元の注意が散漫になって、小石に躓きバランスを崩す。
あっという間だったの。
今までの何百年間ずっと能力に慣れ親しんできたわたしの体は無意識に能力に頼ろうとするけど、ほとんどの能力の効果を切っている今、その無意識に意味はない。
反射神経も能力頼りだったせいで、今のわたしでは反応も悪くなっている。
ドサッと大きな音がした。
わたしが盛大に転んだ音。
「うー、痛い」
久しぶりの感触だったの。
痛みなんて、いつ以来だろう。
膝は薄く血が滲む。
このケガ今治しちゃおうかな、と思ったけど止めたの。
どうせ治癒能力は切ることのできない能力だから、放っておいても、ものの数分で治るだろうし。
転んだ拍子に汚れてしまった箇所を手で払った。
さあ甘味処へ、と思って顔を上げた後ちょっと顔を顰めた。
だっていつからいたのか知らないけど、そこにはユウシャが立っていたんだもん。
ユウシャはわたしを睨んでいた。見下ろしていたの。
身長差があるから、いつでもコイツはわたしを見下してるけど。
わたしはユウシャになんて興味ない。
今の関心は甘い物、それだけ。だってすごく食べたかったんだもん。
だから、わたしはユウシャから視線を逸らしたの。視界の中にある背景の一つにしてしまう。
そこら辺にいる有象無象の人間と同じ。
甘味屋の店先には色とりどりの小さなお菓子が大きな瓶に入っていた。
今はそっちの方が大事だもん。
たくさんあってワクワクするの。全部買えるかな。
「甘いお菓子ちょうだい」
店先に立っているオバさんに声をかける。
「お嬢ちゃん、お金はどのくらい持っているんだい?」
「これ!」
屈んで私の目線まで下りてきたオバさんが笑って問いかけてきたから、わたしはリナに貰ったお金を全部見せた。
「これでたくさん欲しいの」
「この値段で量が欲しいんだね。甘いのとなると、コレとソレを袋いっぱいまで買えるよ」
「任せるの」
オバさんがお菓子を用意してくれている。
とっても楽しみなの。早く寄越さないかなー。
お菓子を袋に詰め終わったオバさんは、ゆっくり振り返りわたしの手のひらに袋を二つ落とした。
「あと、これはお嬢ちゃんにオマケだよ」
目線をわたしと同じ高さにしたオバさんが、顔の高さに上げたのは、棒にささったお菓子。
オマケだって!やったね。
「気をつけて舐めるんだよ」
「ありがとっ」
オバさんから奪い取るようにお菓子を手にして、早速口へ。
口内で広がる甘さ。滅多に使わない味覚をフルに活用して味わうの。
これを食べ終わったら、今買ったお菓子を食べようっと。でも手に乗ってる二袋しかないから大事に食べなきゃ。
リナに言ったら、もっとお菓子買ってくれるかなー?
「おい」
「ん?」
どうすればもっとお菓子を食べられるか考えてたら、低い声が聞こえたの。
あ、まだユウシャいたんだ。絶対にこのお菓子は分けてあげないからね。
買ったお菓子を隠すように体を捻る。
もしも奪われたら、即刻反撃しなきゃね。
「お前菓子ばっかじゃなくて、ちゃんと飯も食えよ」
その言葉にわたしは頬を膨らませた。
だって、お菓子とその他の食べ物なんて、比べるまでもなくお菓子の方が美味しいのに。誰が好き好んで不味い物を食べるの?
「イヤだ」
「チッ」
リナやフランクが平然とあんな不味い物を食べていることの方が、わたしには疑問なの。人間は変な生き物だ。
あーあ、やっぱりユウシャと話してるとイライラしてきちゃう。
睨むし。怒鳴るし。嫌なことばっかり言うし。
買いたいのは買えたし、リナのところに戻ろうかな。どっちにいらかわからないけど、適当に歩いてればなんとかなるよね。
魔法を使えばすぐに分かるけど、ユウシャの前ではなんだか魔法を使いたくない。絶対に何か言われるもん。
ユウシャの脇を通って、なんとなく人の少ない方へ歩いていく。人が多い方でも良かったんだけど、本当になんとなくね。
後ろにいるユウシャなんて無視だよ、無視。ぷんぷん。
にしてもさ、コッチの方は建物も微妙に減ってきて、カッキ?っていうのがなくなってきた。まあ、昼間だし疎らに人はいるんだけどね。
お菓子屋さんを探している最中に、通った町の中心部とは雰囲気が違うの。
この雰囲気が違うっていうのは、後ろの奴のせいかもしれないけど。
チラッと後ろを振り返るまでもなく、ユウシャが無言でわたしについて来ているのが分かる。
なんなの、なんなの、一体。うっとおしいったらないんだよ。
「お前」
うっかり殺してもいいかな、と考え出した頃に後ろのユウシャが声を出した。
でもちょっと声に違和感を感じたんだよ。
今までみたいにトゲトゲした感じじゃない。まるでフランクやタイチョーに話しかける時みたいな声だったの。
「なんなの?」
「なんで俺を助けた」
助けた……?
わたし、ユウシャなんかを助けた覚えはない。
「知らない。気のせいなの」
とうとうユウシャは頭がおかしくなったらしい。
「チッ」
さっきから時々する舌打ち、止めて欲しいの。頭おかしくなったのはユウシャなのに、わたしに八つ当たりしないでよ。
短気なユウシャを横目で見れば、気に食わなそうに目を細めていた。
嫌ならついて来なきゃいいのに。
「なら感謝はしない」
トゲトゲや、フランク達に対するものとも違う、冷ややかな声でユウシャが吐き捨てる。
一瞬目と目が合った。
わたし達は目を逸らすことなく、何気なしにその場に立ち止まった。
自分の意思で切れない能力→目が良く見えちゃう能力・自然治癒しちゃう能力