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わたしを倒す旅の五歩。

ああ、なんだかお腹が空いた。

食べる必要なんてないけれど、まだまだたくさん魔力のストックはあるけれど。


ご飯が食べたい。久しぶりに。

たくさん食べたい。お腹いっぱい。


えっと、こういうのをセイチョウキって言うんだよね。

育ち盛りで食べ盛りなんだよ、わたし。


「早くそれ食って寝ろ、ガキ」


ユウシャはご飯を食べているけど、目の前にあるご飯は美味しくないことをわたしは知っているの。



旅の移動中、突然の雨。


岩がゴツゴツしたところに雨を遮るものなんてなくて、わたしたちは雨宿りの場所を探したの。


ずぶ濡れになった時、見つけたのは洞窟。

そこに逃げ込んで、雨が止むのを待ったけど止みそうもないの。


だから、今日はここで夜を明かして明日に備えることにしたんだって。リナが言ってた。


魔法使いの女は結局、リナって呼ぶことにしたんだ。本人の希望で。

代わりに、もうグリグリ抱きついてこないって約束させた。

グリグリしたらもう呼ばないもん。


騎士はフランク、タイチョーはタイチョーのまま。


ユウシャは嫌い。すごく嫌い。

シタシミを持つ必要がないから名前じゃなくても別にいいの。ふんっ。


今だって、わたしが嫌がるのを知っててご飯を食べさせようとするの。

甘くない人間の食べ物なんてマズくて食べれたものじゃないのに。


「ラヒーはまたそんだけしか食わんのか」

「倒れちゃうわよ」


わたしは一口だけ食べて食事を終える。

脆弱な人間とは違うのだから倒れたりなんてしないもん。


「寝る」


一人洞窟の少し奥に行き寝袋に包まる。


洞窟はかなり深い。

けど、奥の探索はしないんだって。

入り口付近だけ使って朝には出て行くから必要ないって。


奥には何かあるかもしれないのに。

つまらないなぁ。ああ、退屈。



夜中、ふっと目が覚めた。


周りでは全員寝ている。

リナの結界に安心しきって。

もちろん、何かの気配があればすぐに起きるだろうけど。


どうしようかな。


人間にとっては睡眠は必須だけど、わたしには必要ない。寝ることは娯楽と同じ扱いだ。


退屈、退屈、退屈、退屈、退屈。


ああ……何か食べたい。



そうだ、奥に何かあるかもしれない。

何か、楽しいことが……!


気配もなく、音もなく、スルリと立ち上がり、リナの結界を越える。

普通なら物理、魔法、音すらも遮断できて、何かが通過しようとすればリナが気づくけど、知覚できないように通る。

ちょっと弄ればこんな結界、わたしにとって容易いもの。


奥に行くほど暗くなる。

人間の目なら、とてもじゃないけど認識できないと思う。


わたしは平気だけどね。

だってラダヒーだもの。人間じゃないの。


能力が視力を底上げしている。昼間のようによく見える。

さらに魔力遮断も行い、魔力を辿ってわたしを探したり出来なくさせる。この世界の誰一人にも。

わたしは一応魔王なのだ。

このくらい出来て当然なのである。えっへん。


退屈。

退屈っていうのは罪なのだ。

楽しくなくちゃならない。


だから今日だけは能力を使っても許されるはずなの。

楽しいことを探すためだから。


正体がバレたら殺すだけ。

そして、また楽しい遊びを見つけるだけ。



洞窟はドンドン険しく、そして細く狭くなっていく。

コドモの大きさだから平気だけど、大人だと通れないかもしれない。


「行き止まり……」


進める道がない。


「いや、――」


口角が上がる。ああ、面白そうだ。


「――下だ」


ヌルリと足から地面に飲み込まれる。

岩だと思っていた足元は、幾重の糸が重なった繭。

片足に絡まった糸がわたしを下へと強引に誘う。


糸の地面に落下。

さきほどいた洞窟の下のエリア。

暗い中でさえ、糸の白さが分かるほどに、壁も天井も見える範囲全てが糸に覆われている空間。


わたしを招いた主は目前に姿を現す。

それは、大きな大きな蜘蛛。

人間なんて丸呑みにできそうなほどの。


ああ、どうしよう。ゾクゾクする。

久々の興奮に、どうにかなってしまいそうなわたしに奇妙な響きの声が届く。


「問ウ。キサマ何ヲシニキタ」

「楽しいことを探して」


その探し物は、もう見つかった。

楽しそうで、美味しそう。


「探ス?ナラヌ。ココハ我ノ空間!我ノモノ!!」


探すという言葉に反応して蜘蛛が激昂する。

それに応えるように、あちこちの糸の隙間から人の顔ほどの大きさの蜘蛛がワラワラと出てきた。


「ああ、最高」


語尾にハートマークがつきそうなほど、ウットリと。



食いちぎろうと、糸で拘束しようと、数多の蜘蛛がわたしを狙う。


「あはは、どうしよう」


殺し方が決まらないよ。


「串刺し?」


わたしの近くにいた蜘蛛の体の中心を光の針が貫く。


「爆発?」


わたしを狙っていた遠くの蜘蛛が爆ぜる。


「バラバラ?」


ランダムに選んだ蜘蛛の体が細切れになる。


「あ、潰すのも面白そう」


大蜘蛛を守るようにしていた蜘蛛達が、見えない何かに押しつぶされ厚みを失くす。


この数秒でほとんどの蜘蛛が生き絶えた。

体液を撒き散らせ、体の欠片を飛ばして。

わたしにとっては、軽いお遊びの程度なのに。


「キサマ許サヌ!我ガ子ラヲ、ヨクモ!」


どうして怒るんだろうね。


でもね、


「あなたのコドモだったんだね!安心して」


たくさん死んじゃったから、


「ちゃんとみんな殺して食べてあげるから!」


みんな一緒。だから寂しくないでしょ?

わたし優しいからね。


指を鳴らして、少しだけ残ってるコドモ蜘蛛を殺してあげる。

一瞬で凍りつかせて、その体はキラキラと砕け散る。


「キサマー!!」


巨大な蜘蛛の脚がわたしの頭上に振りかぶる。


「やっぱり、一番ステキな死に方はこれだよね」


わたしを貫く前に、触れることすらなく、大蜘蛛は枯れ果てた。


体中の水分を体液を奪われて。

ついでに内臓や脳の一部までゴッソリと抜け落ちて。


「いつもいつも、ちょっと枯れすぎちゃうんだよね。わたしのおっちょこちょい」


けど、まあ、いいや。

今はとにかく。


「いただきます」


人型から本来の姿へ。

死体だらけの中、一輪だけ咲き誇る。

茎も花びらも全てが真っ白な花。


たくさんの枝分かれした根が長く這っていき、全ての死体に根を下ろす。

そして全部残らず吸い上げる。魔力も能力も。


死体は体の端から砂となり、崩れ落ちて自然へ還る。

わたしの食事の後には何も残らないの。


一面を覆っていた糸すらも砂になり、岩肌の空間に戻った。

ただ一箇所の色付きの岩だけが目立つ。


「あ、コレ魔石だ。これを探してると思ったから最初怒ったんだね」


こんなものには興味ないのに。


「お腹いっぱい!帰ろっと」


また人間のフリを頑張るんだー。



戻ったらまだみんな寝てるから、わたしもまたちょっとだけ寝ようと思って横になる。

お腹いっぱいだと眠くなっちゃうよね。

おやすみなさーい。


ラヒー空腹のために大暴走、の巻。

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