わたしを倒す旅の三歩。
崖から落ちて、騎士が怪我をしたの。
だから森を抜けたところにあった小さな村で療養するって。
「ラヒーちゃん、もう危ないことはしないでね」
村にいる間は魔法使いと一緒に行動するよう約束させられ(騎士に)、それからずっと共にいる魔法使いはそう繰り返した。
危なくないよと答えたら、一般的な人間領での魔法使いのことを教えてくれた。
一般的に魔法使いは遠距離で攻撃するから後ろの方にいないとダメなんだって。前に出るのは騎士とユウシャとタイチョーの役目だからって。
魔族領では、そもそも連携ってものがなかったからその話を聞いて驚いたの。人間は色々とめんどくさいね。
けど、同時にわたしは人間のフリを上手にできていなかったんだと反省もしたの。
人間に紛れて遊んでいるんだから、ちゃんと人間のフリしないとダメだよね。
じっくり反省をして、魔法使いに聞いてみることにした。
なんで魔法使いかっていうのは、他の人間がいなかったから。
ユウシャとタイチョーは村のために周辺の魔物討伐をしているし、騎士は寝てるし。
それに、近くにいるから聞きやすい。
「魔法使い。わたしには何が足りない?」
不足点を補えば、人間のフリが上手になるよね。
「え、急に何?ラヒーちゃんに足りないもの?質問の意味がよく分からないんだけど、危機感とか子供らしさとかかしら?」
危機感っていうのは理解できる。
危ないことを感じる力だよね。
けど、
「コドモラシサってなに?」
魔法使いは困った顔して笑った。
なんで、困るの?
「なにって聞かれると答えにくいんだけどね。例えば、大人に甘えてみるとか、こういう風に村に滞在するときは思い切り遊ぶとか、かしら」
定義がよく分からない。
それに、アマエルって何?
遊びにしても、今している人間ごっこの遠足が遊びなんだけどな。まあ、バレちゃダメだから言わないけどね。
「アマエルってなにをすれ――」
「ああ、いたいたー!勇者様の魔法使い様!」
わたしの質問を遮るように、遠くから声が呼んだ。
むぅ、なんか前にもこんなことあった気がする。
声の方を向くと、木の下の木陰で休んでいたわたしたちに、離れたところから村の女が手を大きく振り大声で言った。
「申し訳ないんだけどさ、人手が足りなくてね。こっち手伝ってくれないかーい?」
「もちろん、いいですよー。お安い御用です」
魔法使いは立ち上がって、女の方へ向かった。
……わたしの手を引いて。
あれ、わたしも行くの?
手伝いとして何をするのかっていうと。
「木の実の収穫さ。そのままだと渋いんだけどね、うまく加熱すると甘くなるんだよ」
「甘い物ですか、いいですね」
魔法使いが目を輝かせた。
「手伝ってくれるからね、後で少し分けたげるよ。まあ、王都で売ってるような立派な菓子には負けるけどね。この村の唯一の甘味なんだよ」
アマイとかカンミって何?
よく分からない言葉ばかりだよ。
「ラヒーちゃん、頑張ってお手伝いしましょうね」
「お嬢ちゃんも甘いのが好きなのかい?なら、腕によりをかけて甘くしてやらないとね」
鼻息荒くやる気を示す魔法使いと、わたしの頭を撫でてハハハと笑う村の女。
だからね、アマイってなんなのー!
木の実自体は結構すぐに見つかった。
木の高いところになっていて、村の女が道具を貸してくれようとしたけど、魔法使いが風の魔法で落とした。
道具を使うからいつもは時間がかかるのに魔法ってスゴイね、って女は喜んでいた。
それなら女も魔法を使えばいいのに。
「どうして、あの女は魔法で実を取らないの?」
わざわざ手間がかかるやり方でやらなければいいのに。
「ラヒーちゃん、それ本気で言っているの?」
すると、目が取れそうなほど見開いて魔法使いが驚いた。
「ラヒーちゃんに魔法を教えた人は基礎的な部分、いえ常識をあなたに教えてくれなかったのね」
わたし魔法は自分で勉強したから、教えてくれた人なんていないよ。
「人間は魔力が少ないのよ。けど、たまに多く持った人が生まれるのよ、私やラヒーちゃんのようなね。そういった一部の人しか魔法は使えないの」
そうなのか。人間ってすごく不便だね。
魔力が少ないから、人間は食べてもあんまり美味しくないのかな。
たくさん木の実を取って、村の女に渡したらすごく喜んでた。
そして、わたしの目の前にはその実を加熱したものが差し出させている。
「疲れただろ?おやつに食べてみな」
ニッコリと笑顔の女と魔法使いに、わたしも軽く微笑み返すけど、顔が引き攣りそう。
人間の食べ物美味しくないもん。
けど、わたしが食べないと引き下がりそうにない様子を見て取り、意を決して口に木の実を放り込む。
「!!」
「甘いだろ?小袋に木の実を入れておいたよ。勇者様たちと食べとくれ」
魔法使いが女から木の実の入った袋を受け取った。
「魔法使い、もっとちょうだい!」
これ、美味しいよ!前食べた肉とかとは違う。
きっと、これがアマイってことなんだね!
「気に入ったの?」
「気に入った!」
これがご飯ならちゃんと食べるのに。
なんでタイチョーや騎士は不味いものをご飯として勧めるのかな。
「ラヒーちゃんは女の子だし、やっぱり甘い物は好きよね。ちょっと待ってね」
魔法使いは数個木の実を取り出して、小袋をわたしに差し出す。
「アル達の分はコレだけで充分だから、残りは全部あなたにあげるわ」
やったー、この袋の分はわたしのだ!
魔法使いが気を変えて、やっぱりもっと欲しいと言われる前に、食べちゃおう。
「貰って行くからね」
小袋を握りしめ、魔法使いから離れ木陰を目指す。
後から貰いに来ても、絶対あげないもん。
美味しいものは、わたしのもの。
パタパタと走り去るラヒーを見て、
「甘い物を欲しがるなんて、子供らしいワガママ言えるのね。旅を始めてまだ日が浅いけど、心を開きだしてくれたのかしら」
小さく微笑みながら呟いたカーリナの声は風に流れて消えた。