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わたしを倒す旅の二十八歩。

結論から言うと、アル達の強化はうまくいった。

全てはわたしの望む通りに。

こっそりと、アル達だけ(・・)の強化を終えた。


丁度いいことに供物は大量にあったんだもん。

ここまで集めてくれた狐には感謝しかない。


でも、どうしてなんだろう?

わたしはどこかで失敗したのかな?


他の皆の様子が、どこかおかしいの。


「リナ?」

「……ええ。ラヒーちゃん、どうしたの?」

「……ううん。なんでもない」


悲しそうに眉を下げたまま、暗い雰囲気のリナ。

わたしを見ては、その眉を更に下げるの。


強化を終えて、アタリスを出たのが、昨日のこと。

無事に皆強くなった。

魔力量は桁違いに増えたし、きっとそれに付随して身体能力だってあがっている。


「フランク、体の調子悪いの?」

「いいや、大丈夫だよ」


でも、普段なら率先してお喋りするフランクが、アタリスの遺跡を出発してからはずっと静かなんだよ。


「昨日の祭壇の強くなった後、体に違和感があるって言ってた」

「ああ、それは力の加減が違うせいだよ。しばらくして慣れてきたら問題ないさ」

「そう?」


一気に強くなった分、その力が体に馴染みきっていないみたい。

これから魔族領に入って、色々な魔族と戦っていけば、近いうちに慣れるはず。

だから、そんなに心配しなくていいと思ってるよ。


「タイチョーは筋肉、もっとすごくなったね!」

「ああ。……まあな」

「筋肉カッコいいよ!」


タイチョーは、目に見えて体が屈強になった。

だから筋肉がすごいって誉めてるのに、タイチョーは全然嬉しくなさそうなんだ。


「アルは……」


先頭を歩いて進んでいくアルの背に視線を向ける。

わたしの声が聞こえたからか、ちょっとだけ振り向いた。

けど、


「どうしてそんなに不機嫌なの?」


その目は旅の初めの頃みたいにわたしを睨むもの。


みんな、強くなったんだよ?

嬉しくないの?

これでみんな、この旅の目的に近づいたっていうのに。


「みんなおかしいの」


アルの機嫌が悪い。

リナに元気がない。

フランクの調子がおかしい。

タイチョーの表情が暗い。


「なんで?」


もう目と鼻の先の魔族領。

わたしの城は、そんなに遠い場所じゃない。

旅の終わりは近いっていうのに。


強くなれて、嬉しいはずでしょ?


「アル。一度みんなで話をしましょう」


リナが急に足を止めた。


「きっとみんなが気になっていることは同じだと思うわ」


リナがゆっくりと周りを見渡す。

その台詞に共感するように、フランクが頷いた。


「ああ、アルにも説明してもらわないといけないこともあるしな」

「何?」

「アタリスで聖女の記録の説明をしろって言っていただろう?」


フランクがアルに、薄く笑いかける。


「そうだな。疑問があるならば解消すべきだ。魔族領へ入る前に」


タイチョーがその場で、ゆったりと腰を下ろした。

それに倣うように、武器を下ろしたリナまで座り込む。


「ほら、ラヒーちゃんも」


隣の地面をポンポンと叩いたリナに、わたしも素直に頷いて近寄る。


わたしも疑問をスッキリしたいもん。

なんで、みんながおかしいのか教えてもらわなくっちゃ!


「まずはアル、お前が隠してることを俺たちに教えてくれよ」


フランクが近くの木に寄りかかりながら、不機嫌そうなアルに投げかける。


「隠していることといっても、もうほとんどない。魔物と魔族のこと、アタリスのこと、ウィリアムという魔の者のこと。記録にあったのは、そのくらいだ」

「これから倒そうとする魔王も、当然魔族なんだよな?」

「ああ、そうだろうな」


仏頂面のアルは、フランクからの質問に肩を竦めてみせた。


「儂等は、未だかつて誰も成し得なかった魔王討伐を果たす」

「ええ、そうね。それがきっと可能なくらい、……私達は強くなったわ」


タイチョーの力強い宣言と、対照的なまでに暗いリナの囁き。

その言葉を聞いて、フランクやタイチョーがそっと顔を伏せた。

ただ一人、顔を上げていたのはアルだけ。


「俺達は、な」


アルが苛立ったように一言漏らした。


「一人だけ変わらない奴がいる」


けど、わたしにはよく分からなかった。

どうして、アルがこんなに苛立ってるの?


「なぜ俺達に全て譲ったんだ」


なんで、アルはわたしのことをジッと見ているの?


「俺達が分からないとでも思ったのか?!」


なぜ他のみんなも、わたしのことを見ているの?


「答えろ、ラヒー」

「……何に怒っているの?」


どこで失敗したんだろう?

何が悪かったの?


ううん。どこも、悪くなかったはずだよね?

だって、ほら。


「うまくいったよ。みんな強くなったもん」


わたし以外の皆で、狐の集めた魔力を山分けしてほしくて。

わたしはアタリスの祭壇で、「他のみんなに力を分配してください」ってお願いしたんだよ。


結果。

わたしは強化されることなく、他のみんなの魔力が濃くなったから、成功したんだって思ってた。


「何に怒っているの?アル?」


わたしには分からないよ。

分かるように教えて欲しいの。


「アルやフランク、リナとタイチョーも強くなったよ」

「……」

「これなら、ちょっと魔王に届く。人間は力を合わせて戦うから。みんなで協力すれば願いが叶うよ?」


みんなのこと、わたし気に入ってるから。

そのお願い叶えてあげるために、色々頑張ってるの。


「なぜ。俺達の中に、自分を入れないんだ」

「じぶん?」

「お前も、仲間だろうが!」


感情的に、アルが怒鳴った。

あまりの剣幕に、わたしも一瞬固まる。

本当に、どうしてそんなに怒るのはわたしには分からないから戸惑っちゃう。


「儂等は、あの祭壇で気がついたんだ。ラヒーだけが強化されてないことに」

「自分の魔力や、他のメンバーの魔力の高まりは感じるのに、ラヒーちゃんだけが変わらないって」

「ラヒーは、自分が強くなるよりも俺達を強くすることを望んだんだろう?」


口々に話しかけられる内容は、後悔しているような声音で。

まるで、強くならなきゃ良かったって考えているみたいで。


「……強くなりたかったんじゃないの?」


どうして後悔するの?

わたし、喜んで欲しかったのに。


「それは、一人を置き去りにして得るべきものではなかったんだよ」

「私達はね、みんなで強くなりたかったのよ」


フランクは教え諭すように告げた。

リナがわたしの頭をそっと撫でる。


「ラヒーちゃん。一人だけ仲間外れにならないで?貴女もみんなと一緒で、立派な旅の仲間の一人なのよ」


わたしも……、仲間……?

わたしも一緒?


「でも、でも……」


わたしの頭の中がグチャグチャしてる。

ここにいるのは人間で。魔王を倒したくって。

わたしはラダヒーで。アル達は、わたしを倒したいの。だから、わたしは強くならなくても良くて。


「旅の最後までしっかりついて来い、と言っただろう」

「……アル?」


アルに魔族だってバレた後、大岩の上で話した会話を思い出した。


「何者であろうとも、お前はもう仲間だ。死ぬまで、俺達から離れられると思うなよ」

「ずっと?死ぬまで……?」

「仲間だからな」


わたし達は仲間。

どうしてかな、その言葉がこんなに胸をポカポカさせるの。


「儂等は全員仲間だ」

「そっか。みんな、仲間。だから仲間外れはダメ、なんだね」


わたし、分かってなかったみたい。

みんなを強くするのは大切だけど、わたしも強くなったフリをしなくちゃいけなかったんだね。


「そうよ。ラヒーちゃんは私達にとって大切なのよ」

「分かったよ」


何が悪かったのか、分かった。

わたし、まだ人間のこと分かり切ってないね。

本当、難しいなぁ。


「リナ。……わたしも強くなったら、なんの心配もなく、みんな旅ができる?」

「ええ、そうね。もしそうならきっと……」


リナが眉を下げて、わたしを見る。

すごく困った顔してる。


「……うん。なら」


わたしはゆっくり頷いた。

この一瞬で考えたの。


わたしのせいで、みんなが困るのは嫌だなって。

みんなで旅できなくなるのは悲しいなって。

まだ旅して欲しいなって。

旅を終わらせたくないなって。


「わたし……、隠してたことがあるの」


みんなが進めるようになるなら。

ここから、憂いなく魔族領へ行けるように。


わたしはそっと決意したの。


その場に立ち上がって、大きく息を吸い込む。


「わたし、本当は……」


わたしが魔族だって、もうみんなに知らせてもいいよね?

ずっと隠してたことを、打ち明けてもいい……よね?


わたしは、人間に見えるように制限していた部分を、解除する準備をしたんだ。


「……もっと強いの」


わたしの囁き声と共に、これまで隠してきた力の一端が滲み出る。


見た目の、姿形は変わらない。

でも制限をなくせば、魔族として身体能力は上がる。能力も使える。


「みんな」


どうしてかな。

怖かった。

本当にとっても怖かったの。

不思議なくらい、声が震えたんだ。


「……わたしのこと、嫌いになる?」


前を見ていられなかった。

他のみんなの顔を見られなかったの。

胸が痛くて、苦しい。


「お前は本当にバカだな」


アルの声が響く。


「お前が何者であろうとも、変わらないと言っているだろうが」

「アル……?」


ゆっくり顔を上げると、リナがアルに向かって、ちょっとだけ笑っているのが見えた。

フランクとタイチョーは困惑したままアルを見ていて、アルだけがまっすぐわたしを見ている。


「強さを偽っていたことには、色々言いたいことはあるが。別に嫌ったりはしない」

「ええ、そうね。ラヒーちゃんはラヒーちゃんだわ」


リナが、立ち上がっていたわたしの手を撫でた。

横を向けば、リナは穏やかに微笑んでいる。


「強さが変わるっていうのは、ちょっと状況が飲み込めないんだけどさ、アルは知っていたの?」

「こいつは魔族だ。まあ、そういうこともあるんだろう」

「魔族?!」


フランクが怪訝そうにアルを問い詰めれば、

あっけらかんとアルが答えた。

フランクは驚きの表情のまま、わたしとアルを見ている。


「アルとラヒーは、本当に信頼しあえるようになったんだな」


タイチョーが、アルの肩を抱き込んで、強引に頭を撫でている。


「旅の最初はどうなることかと思っていたが、本当に良かった。お前も大人になったな」

「おい、ゼルマン。離せ」

「儂は嬉しいぞ!」


わちゃわちゃしているアルやタイチョーの姿を横目に、リナがわたしに目線を合わせてくれた。


「ラヒーちゃんが魔族だっていうのは驚きだけど、でもラヒーちゃんだもの」

「リナ?」

「他のみんなも、別に嫌ったりはしないわ」

「うん……」


みんな受け入れてくれた。

目を見れば、それが本当なんだって、わたしでも分かるの。


「ありがとう」


ああ、これで。

みんな進める。


*******


「おや。微かですが、近くで、あの方の魔力反応がありますね。では、(わたくし)はお迎えに参りましょう」


魔族領の城で、一人の魔族が呟いた。


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