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わたしを倒す旅の一歩。

死体に咲く花のラダヒーは、死体から魔力を糧にして咲き誇る。


遠足で最初に困ったのは食事だった。



「飯食わねえとデカくなれねえぞ、チビ」


ユウシャっていうのは口が悪い人間のことなのだと初めて知ったの。

いつも口悪く何か言ってくるから、ユウシャ嫌い。


あと、このユウシャは王子らしい。魔法使いの女が教えてくれたんだ。


旅にすぐに出ることはさすがに出来ないから、王都で準備を整えてから出発するって言われた。

でも準備ができたらすぐに出発するからって、王都の端っこの宿に泊まってるけどね。


すぐ出れなくて残念、なんて思ってないよ。

いや、本音を言えば残念だけど、楽しみはとっておいた方が楽しくなるっていうから我慢するの。

でも、まあわたしは辛抱強くないからあんまり待てないけど。



ラダヒーは魔力を吸う。

咲き誇るのに必要な分だけ、なんて慎ましい性格じゃないから、吸収できるだけ吸い取ってやる。

そして、余剰分は体に蓄積して必要な時に少しずつ使っていくのだ。


わたしの体にはほとんど底なしと言っていいほどの魔力が保管されている。

食いまくってたからね。


だから、ぶっちゃけちゃうとわたしに食事は必要ない。数百年先まで必要ないの。

だから、人間領でいつも通りの食事ができなくても問題ないんだけどなー。


「さっさと食え」


目の前にドンと肉を焼いたやつを置いてくるユウシャ。

睨んでくるから、睨み返す。ホント、こいつ嫌い。


「アル、お前もう少し優しく言えよ。女の子相手なんだから」


ごめんね?とユウシャの代わりに謝ってくるのがユウシャの親友の騎士。

赤銅色の髪の優男。対するユウシャは黒髪の目つきが悪いやつである。


「でもアルの言うようにいっぱい夜ご飯を食べてもらわないとだわ。ラヒーちゃんには、元気でいてもらわないと」


そう言ってきたのは、魔法使いの女。

金髪の長い髪を一括りにして、長いローブを着てる。


ちなみに、ラヒーと言うのはわたしの名前なの。

ウィリアムがわたしを呼ぶ時に、そう言うから多分名前なんだと思う。

新しく考えのも面倒だし、そのまま使ってるんだ。


「フランクとカーリナは喋ってないで飯食え。ラヒーも食える分だけでいいから食え。アルは子供には優しくしろよ、な?」


でっかい声で喋りだしたのはゴツいおじさん。筋肉すごいんだよ。

わたしは声の大きい気さくなおじさんだと思ってるんだ。

でもなんか、偉い人らしくてタイチョーって言われてた。



わたしの前におじさんが小皿で取り分けた料理を出された。

え、食べなきゃダメ?


「ゼルマン隊長、それは量少なすぎるでしょ」

「フランクはこれの十倍は食えよ」


ガハハと豪快に笑いながら会話してるけど、多いよ十分。


わたしは口を使って物を食べた経験がない。もともと花だからね。

死体に根を下ろし魔力を吸収するのが、わたしの食事なの。

つまり、口を使った食事は初めての経験なんだ。


恐る恐る口を開いて、少量の肉を食べてみる。


……まずぅ。


美味しくないよ。全然美味しくない。

味覚?っていうのかな。よく分からない感じがするけど、好ましくない。


「これ、全部食べないと――」

「おい!勇者様達はいるか?!魔物が一匹街に紛れ込んだ!探すのを手伝ってくれ」


宿の食堂に息を切らせながら一人の男が飛び込んできた。

その切迫詰まった声に、わたしの声が重なって消えた。むー。


弾かれたように立ち上がったユウシャ。食堂の空気が一瞬にして凍る。


「フランクとゼルマンは外で捜索を手伝うぞ!見つけ次第殺せ。カーリナとチビはここにいろ」


早口に指示を出し、外へユウシャが飛び出した。

それに続くように騎士とおじさんが走っていく。


なんだか、楽しそうでいいなー。


「ラヒーちゃん、心配する必要はないからね」


出て行った扉を見つめてたら、魔法使いが優しく声をかけ、頭を撫でてきた。

別に心配なんてしてないんだけどな。

てか、わたしも行きたい。楽しそうなことには参加しないとね。


「わたしも行ってくる」

「なにを、えっ!?」


魔法で転移して、街に飛ぶ。探索魔法を発動させる。

一応人間のフリしてるから、能力が使えないのは面倒だなー。能力を使えばすぐ分かるのに。

探索魔法はあんまり効率が良くないからイライラするの。


「いた」


魔法で見つけて、その場所に転移すると、そこにはすでにユウシャがいた。

魔物とユウシャが睨み合って対峙している。


あ、あの魔物はあんまり美味しくないやつだ。影に潜るから夜は厄介なんだよね。

わたし、この魔物嫌い。


「死んじゃえ」


光の針でひと突きにしちゃった。

あんまり、手応えなくて楽しくなかったな。戻ろーっと。


「おい、チビ」


また転移をして宿に戻ろうとしたら、ユウシャが呼び止めた。

なんで?


「宿にいろって言ったよな。なんで来てんだよ!」

「楽しそうだったから」


そんなに大声出さなくたって聞こえるのに。怒りで顔を歪めている。

こういう表情を般若って言うんだよね。


「この旅は命懸けなんだ、分かってんのか!今だって下手したら怪我してたかもしれねえんだぞ!楽しいとか楽しくねえとか、そんな軽い気持ちでやるもんじゃねえんだよ」


怒鳴らないでほしいなー、ホント。

言ってることも理解できないし。


「軽いものでしょ?退屈しないことと美味しいもの、それだけが行動原理だもん。それ以外に理由なんかないよー」


絶句したユウシャ。

もう言うことないなら、戻っていいよね。


転移を発動する瞬間、ユウシャの声が低く小さく聞こえた。


「死ぬぞ、お前」



一瞬にして宿に戻ってきた。


ユウシャには聞こえないだろうけど、答えてあげるね。


「わたしは死なないよ」


死ぬのは楽しくなさそうだもん。

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