表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/37

わたしを倒す旅の二十五歩。


作戦は簡単なもの。

本体を孤立させてしまえばいい。

たくさんの分身と、本体を分離してしまえばいいのだ。


たった、それだけ。

ね、簡単でしょう?


「フランクとカーリナと儂は教会の後方に、この魔石を設置する」

「そして、アルとラヒーは教会の前方へ」


声を潜めて、作戦の最終確認をするのは、タイチョーとフランクだ。


「それぞれが二か所に魔石を設置し、合計四点に魔石が置かれる」

「俺達の設置が完了したら、合図としてカーリナが魔法で空へ魔法を打ち上げる」

「そして、アル達の方も完了したらラヒーが魔法を唱える。間違いはないな?」


タイチョーがわたしのことを真っ直ぐ見据える。

その視線を受け止めて、わたしは笑ったの。


「うん、合っているよ。魔石が輝きだしたら絶対に教会側にいるようにしてね。はじき出されちゃうから」


フランクはちょっと緊張からピリピリしてて、リナはちょっと不安そうな顔。

タイチョーは割り切った表情で、アルは無表情で何を考えているのか分からない。


わたしはみんなの顔を見て、心の中で思うんだ。

きっと、強くしてあげるんだって。

大丈夫。絶対失敗なんてしないんだから。


「作戦は頭に叩きこんだな。よし、いくぞ!」


声を出さずに皆頷いて、一斉にそれぞれ走り出した。

わたしはアルの背を追いながら、さっき作戦を告げた時を思い出した。


*****


「作戦って?」


作戦を聞いてってわたしが首を傾げた後、フランクが囁くくらいの声で尋ねたんだ。


あの狐は準備は終わったって言っていた。

何か行動を起こす前準備は、わざわざアイツが整えてくれたってこと。

じゃあ、それをちょこっと横から奪っちゃえばいい。

本体が何か余計なことをしてしまう前に、わたしが狐の準備を利用して、アル達を強くするの。


「わたしが魔法を使うよ」


全てはアル達の望みを叶えてあげるため。


わたしはカバンの中に入れていた魔石を取り出して、タイチョーに差し出した。

わたしの両手で持ち上げるくらいの大きさの魔石だ。

澄んだ透明の石の中に、不揃いの断面から反射した光が差し込んで揺らいでいる。


「なるべく同じくらいの大きさになるように四つに割れる?」

「まあ、できないこともないだろう」


タイチョーは魔石をしげしげと眺めなてから地面に置くと、おもむろに大剣の刃のない場所で叩きつけた。

それを二、三度繰り返すと、タイチョーはわたしの拳より一回り小さくなった魔石を拾い上げる。


「これでいいか?」

「うん、ありがとう!」


多少のバラつきはあるけど、サイズ的に大きな違いはない。

ほぼ均等な魔石は、この魔法の触媒にちょうどいいと思うの。

手の中で隠すようにして、魔石にちょっとだけわたしの魔力を注ぎ込む。


「アル、祭壇がありそうな場所を調べられる?」

「それは、おそらくあれだろう」


アルが顎で示したのは、アタリスの廃墟の中でも一際高い建物。

今ここからじゃ他の建物に隠れてしまっているけど、教会のように見える。


「力の強い何かの存在を感じる。あの建物の中には何かあるぞ」

「きっと祭壇だね!じゃあ、あの建物の中にきっと狐の本体もいると思うの」


わたし達は、狐にとって邪魔な存在。

だからと言って、簡単に殺せるほどひ弱な存在でもない。


きっと、狐はこう考えるの。

準備は終わっているんだから、力を手に入れてしまえばいいって。

手に入れた新たな力を試す実験台として、わたし達はちょうど良い。


「ラヒーちゃん?それでどんな魔法を使うの?」


リナが怪訝そうにわたしと同じ高さまで屈みこむ。

どうしてそんな顔しているのか、逆にわたしには分からない。


「おんなじことするんだよ」

「え?」


みんな見てたじゃんか。

魔法の効果も、わたしが魔法を解く瞬間も。


「このアタリスを隠していた魔法だよ。本体がいるであろう祭壇と、それ以外を隔離するの」

「何を言っているのよ、ラヒーちゃん。このタイミングで冗談かしら?」


全然信じてない様子のリナの態度に、わたしはちょっとだけムッとした。

冗談なんかじゃないのに!


「あの魔法は大規模魔法よ。いくら魔石を利用しても、優秀な魔法使いでも、たった一人で使えるものではないわ」

「この魔石はね、メルから貰ったもので、聖女の魔石なの。これは特別な魔石だから、これを使えばできるはずなんだよ……」


メルが魔の者を払うために利用していた魔石で、メルから貰ったというより奪い取ったもので。

特に特別なものではないけど、これからわたしがかける魔法によって、特別な魔法の核になる。

だから完全な嘘ってわけじゃない。


嘘ってわけではないけど、わたしの声はどうしてか次第に小さくなってしまった。

どうして、こんな後ろめたい気持ちになるんだろう。

嘘なんかじゃないっていうのに……。


「そんな強大な力を秘めた特別な物なの?」

「リナはわたしがこれを使って、魔法が使えるって信じてくれないの?」


疑うような視線で魔石を覗き込むリナに、わたしは眉を下げる。

やっぱりちょっと説明に無理があったかな……?

でも他に良い説明が思いつかなかったし、他の魔法だと時間がかかっちゃうから、狐が強くなっちゃうかもしれないし……。


早急に行動できるような、都合のいい言い訳が思いつかなくって、わたしはそのまま下を向いた。


「……いいえ」

「?」


ポンと置かれたリナの手に合わせて、わたしは顔を持ち上げる。

そこでリナは笑っていた。


「ラヒーちゃんが出来るって言っているのだもの。信じるわ」


リナがゆっくりと立ち上がっていく。


「信じるのが仲間というものでしょう?」

「駄目だったときのプランも練っていこう。仲間の作戦が失敗したとしても、それをフォローするのも仲間の役目だよ」


清々しい表情で言い切ってウィンクしてみれたリナに、頷いたのはフランクだった。

タイチョーも腕を組んで頷ているし、アルも仕方ないというように溜息を吐いている。


「大規模魔法が本当に使えるのかラヒーちゃんだって不安だっただろうに、私が信じなかったから悲しい思いをさせてしまったわね。ごめんなさい、ラヒーちゃん」

「ううん」

「ラヒーちゃん、頼りにしているわ」


軽く頭を撫でるリナの笑顔に、わたしもつられて笑顔になる。


「ありがとう、みんな!」


胸の奥が、ポカポカあったかくなって、とても嬉しかったの。

この気持ちはなんて呼べばいいんだろうね。


*****


教会の前には、異常な程の数の女がいた。

それぞれが攻撃に邪魔になる間合いには近寄らないようにして、辺りを警戒して目を光らせている。


そこに突如躍り出たのは、わたしとアルだ。


アルは止まることなく、女の隙間を走り抜ける。

普段の剣ではなく、魔力を纏わせた腕や脚で女に攻撃を加えているの。

異様な光景のように、アルが腕を振り下ろせば地が揺れ、足を水平に薙げば狐の分身が飛び散る。


「すごい」


わたしはアルの姿に見入ってしまったの。

魔族の鬼と同じく、とがった耳が覗き、素早く振るう腕には模様が浮かんでいる。


何度見ても、アルの強さは美しいと思うの。


「ラヒー、魔法を!」


どれだけ見惚れていたんだろう。

アルが鋭く叫ぶ声で、空を一瞥すれば輝く閃光を放つ玉が飛んでいた。


アルが狐を建物から遠くに押し下げてくれたから、教会の建物とわたし達の間にいる女はほぼいない。


わたしは魔石の一つを握りこんで深呼吸した。


「結界よ、四つの核を認識せよ」


握っていた魔石が輝きだす。

魔石の中央で、真っ白な花びらがふわりと靡いたのを見届けて、わたしは魔石から手を離す。


「核の外と内を隔絶し、外から内を知覚できなくせよ」


輝く魔石同士は、共鳴して魔石間に魔力の壁が築かれる。


この魔法が完成すれば、分身に邪魔されることはないだろう。

外側から隔離した教会へ入れる者はいなくなるのだから。


「拒絶せよ、拒絶せよ、拒絶せよ。何者も踏み入れることを許しはしない」


結びの呪文と共に、魔力の壁から光が消えていく。

壁の向こうは見えなくなり、壁の外と内は隔絶される。


「もういっこっと」


ここからはわたしのオリジナルなの。


先ほどとは違って、心の中で唱えて命じる。

これは能力だから。

魔法みたいな詠唱は必要ない。

狐の使っていた術を全て模倣し返すのだ。


四つの分身。

役割は排除で、敵対者は殲滅なの。


この旅の途中から、能力を使わないように気をつけていたけど。

こんなチャンスを棒に振ってしまってはいけないから。

わたしはこっそり、バレないように能力を使うって決めたの。


割ってもらった魔石の中に染み込ませたのは、わたしの花びら。


教会は結界で閉じ込めて、外の敵はわたしの分身が殲滅し尽くす。

核を壊されたら、この魔法はダメになっちゃうから。

核に手出しされないように、手は打っておくの。


心の中で命令すれば十分なんだけど、

わたしはあえて声に乗せて、外のわたし達に命令を下した。


「制限は付けないから、自由に枯れ殺してね」


邪魔なんてされたら困っちゃうもん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ