わたしを倒す旅の二十五歩。
作戦は簡単なもの。
本体を孤立させてしまえばいい。
たくさんの分身と、本体を分離してしまえばいいのだ。
たった、それだけ。
ね、簡単でしょう?
「フランクとカーリナと儂は教会の後方に、この魔石を設置する」
「そして、アルとラヒーは教会の前方へ」
声を潜めて、作戦の最終確認をするのは、タイチョーとフランクだ。
「それぞれが二か所に魔石を設置し、合計四点に魔石が置かれる」
「俺達の設置が完了したら、合図としてカーリナが魔法で空へ魔法を打ち上げる」
「そして、アル達の方も完了したらラヒーが魔法を唱える。間違いはないな?」
タイチョーがわたしのことを真っ直ぐ見据える。
その視線を受け止めて、わたしは笑ったの。
「うん、合っているよ。魔石が輝きだしたら絶対に教会側にいるようにしてね。はじき出されちゃうから」
フランクはちょっと緊張からピリピリしてて、リナはちょっと不安そうな顔。
タイチョーは割り切った表情で、アルは無表情で何を考えているのか分からない。
わたしはみんなの顔を見て、心の中で思うんだ。
きっと、強くしてあげるんだって。
大丈夫。絶対失敗なんてしないんだから。
「作戦は頭に叩きこんだな。よし、いくぞ!」
声を出さずに皆頷いて、一斉にそれぞれ走り出した。
わたしはアルの背を追いながら、さっき作戦を告げた時を思い出した。
*****
「作戦って?」
作戦を聞いてってわたしが首を傾げた後、フランクが囁くくらいの声で尋ねたんだ。
あの狐は準備は終わったって言っていた。
何か行動を起こす前準備は、わざわざアイツが整えてくれたってこと。
じゃあ、それをちょこっと横から奪っちゃえばいい。
本体が何か余計なことをしてしまう前に、わたしが狐の準備を利用して、アル達を強くするの。
「わたしが魔法を使うよ」
全てはアル達の望みを叶えてあげるため。
わたしはカバンの中に入れていた魔石を取り出して、タイチョーに差し出した。
わたしの両手で持ち上げるくらいの大きさの魔石だ。
澄んだ透明の石の中に、不揃いの断面から反射した光が差し込んで揺らいでいる。
「なるべく同じくらいの大きさになるように四つに割れる?」
「まあ、できないこともないだろう」
タイチョーは魔石をしげしげと眺めなてから地面に置くと、おもむろに大剣の刃のない場所で叩きつけた。
それを二、三度繰り返すと、タイチョーはわたしの拳より一回り小さくなった魔石を拾い上げる。
「これでいいか?」
「うん、ありがとう!」
多少のバラつきはあるけど、サイズ的に大きな違いはない。
ほぼ均等な魔石は、この魔法の触媒にちょうどいいと思うの。
手の中で隠すようにして、魔石にちょっとだけわたしの魔力を注ぎ込む。
「アル、祭壇がありそうな場所を調べられる?」
「それは、おそらくあれだろう」
アルが顎で示したのは、アタリスの廃墟の中でも一際高い建物。
今ここからじゃ他の建物に隠れてしまっているけど、教会のように見える。
「力の強い何かの存在を感じる。あの建物の中には何かあるぞ」
「きっと祭壇だね!じゃあ、あの建物の中にきっと狐の本体もいると思うの」
わたし達は、狐にとって邪魔な存在。
だからと言って、簡単に殺せるほどひ弱な存在でもない。
きっと、狐はこう考えるの。
準備は終わっているんだから、力を手に入れてしまえばいいって。
手に入れた新たな力を試す実験台として、わたし達はちょうど良い。
「ラヒーちゃん?それでどんな魔法を使うの?」
リナが怪訝そうにわたしと同じ高さまで屈みこむ。
どうしてそんな顔しているのか、逆にわたしには分からない。
「おんなじことするんだよ」
「え?」
みんな見てたじゃんか。
魔法の効果も、わたしが魔法を解く瞬間も。
「このアタリスを隠していた魔法だよ。本体がいるであろう祭壇と、それ以外を隔離するの」
「何を言っているのよ、ラヒーちゃん。このタイミングで冗談かしら?」
全然信じてない様子のリナの態度に、わたしはちょっとだけムッとした。
冗談なんかじゃないのに!
「あの魔法は大規模魔法よ。いくら魔石を利用しても、優秀な魔法使いでも、たった一人で使えるものではないわ」
「この魔石はね、メルから貰ったもので、聖女の魔石なの。これは特別な魔石だから、これを使えばできるはずなんだよ……」
メルが魔の者を払うために利用していた魔石で、メルから貰ったというより奪い取ったもので。
特に特別なものではないけど、これからわたしがかける魔法によって、特別な魔法の核になる。
だから完全な嘘ってわけじゃない。
嘘ってわけではないけど、わたしの声はどうしてか次第に小さくなってしまった。
どうして、こんな後ろめたい気持ちになるんだろう。
嘘なんかじゃないっていうのに……。
「そんな強大な力を秘めた特別な物なの?」
「リナはわたしがこれを使って、魔法が使えるって信じてくれないの?」
疑うような視線で魔石を覗き込むリナに、わたしは眉を下げる。
やっぱりちょっと説明に無理があったかな……?
でも他に良い説明が思いつかなかったし、他の魔法だと時間がかかっちゃうから、狐が強くなっちゃうかもしれないし……。
早急に行動できるような、都合のいい言い訳が思いつかなくって、わたしはそのまま下を向いた。
「……いいえ」
「?」
ポンと置かれたリナの手に合わせて、わたしは顔を持ち上げる。
そこでリナは笑っていた。
「ラヒーちゃんが出来るって言っているのだもの。信じるわ」
リナがゆっくりと立ち上がっていく。
「信じるのが仲間というものでしょう?」
「駄目だったときのプランも練っていこう。仲間の作戦が失敗したとしても、それをフォローするのも仲間の役目だよ」
清々しい表情で言い切ってウィンクしてみれたリナに、頷いたのはフランクだった。
タイチョーも腕を組んで頷ているし、アルも仕方ないというように溜息を吐いている。
「大規模魔法が本当に使えるのかラヒーちゃんだって不安だっただろうに、私が信じなかったから悲しい思いをさせてしまったわね。ごめんなさい、ラヒーちゃん」
「ううん」
「ラヒーちゃん、頼りにしているわ」
軽く頭を撫でるリナの笑顔に、わたしもつられて笑顔になる。
「ありがとう、みんな!」
胸の奥が、ポカポカあったかくなって、とても嬉しかったの。
この気持ちはなんて呼べばいいんだろうね。
*****
教会の前には、異常な程の数の女がいた。
それぞれが攻撃に邪魔になる間合いには近寄らないようにして、辺りを警戒して目を光らせている。
そこに突如躍り出たのは、わたしとアルだ。
アルは止まることなく、女の隙間を走り抜ける。
普段の剣ではなく、魔力を纏わせた腕や脚で女に攻撃を加えているの。
異様な光景のように、アルが腕を振り下ろせば地が揺れ、足を水平に薙げば狐の分身が飛び散る。
「すごい」
わたしはアルの姿に見入ってしまったの。
魔族の鬼と同じく、とがった耳が覗き、素早く振るう腕には模様が浮かんでいる。
何度見ても、アルの強さは美しいと思うの。
「ラヒー、魔法を!」
どれだけ見惚れていたんだろう。
アルが鋭く叫ぶ声で、空を一瞥すれば輝く閃光を放つ玉が飛んでいた。
アルが狐を建物から遠くに押し下げてくれたから、教会の建物とわたし達の間にいる女はほぼいない。
わたしは魔石の一つを握りこんで深呼吸した。
「結界よ、四つの核を認識せよ」
握っていた魔石が輝きだす。
魔石の中央で、真っ白な花びらがふわりと靡いたのを見届けて、わたしは魔石から手を離す。
「核の外と内を隔絶し、外から内を知覚できなくせよ」
輝く魔石同士は、共鳴して魔石間に魔力の壁が築かれる。
この魔法が完成すれば、分身に邪魔されることはないだろう。
外側から隔離した教会へ入れる者はいなくなるのだから。
「拒絶せよ、拒絶せよ、拒絶せよ。何者も踏み入れることを許しはしない」
結びの呪文と共に、魔力の壁から光が消えていく。
壁の向こうは見えなくなり、壁の外と内は隔絶される。
「もういっこっと」
ここからはわたしのオリジナルなの。
先ほどとは違って、心の中で唱えて命じる。
これは能力だから。
魔法みたいな詠唱は必要ない。
狐の使っていた術を全て模倣し返すのだ。
四つの分身。
役割は排除で、敵対者は殲滅なの。
この旅の途中から、能力を使わないように気をつけていたけど。
こんなチャンスを棒に振ってしまってはいけないから。
わたしはこっそり、バレないように能力を使うって決めたの。
割ってもらった魔石の中に染み込ませたのは、わたしの花びら。
教会は結界で閉じ込めて、外の敵はわたしの分身が殲滅し尽くす。
核を壊されたら、この魔法はダメになっちゃうから。
核に手出しされないように、手は打っておくの。
心の中で命令すれば十分なんだけど、
わたしはあえて声に乗せて、外のわたし達に命令を下した。
「制限は付けないから、自由に枯れ殺してね」
邪魔なんてされたら困っちゃうもん。




