わたしを倒す旅のはじまりの前。
1話の前のお話です。
死体を養分にして、咲き誇る大輪の花。
魔族領では、墓地(という名の死体放置場、もといゴミ捨て場)でよく見る花だけど、人間領にはないんだって。
キレイなのに、見たことないなんて人間は損してる。かっわいそー。
その花、ラダヒーが咲き誇る中でわたしは誕生した。
てか、わたしはラダヒーだ。
ただの植物のはずが長い年月をかけて数えきれないほどの死体から魔力を吸い続けて突然変異した。
魔力っていうのは、この世界の生き物なら大なり小なり持っているものなの。
この力で魔法を使ったりする。
で、変異したわたしはなぜか植物の形をしてなくて、手足がある人型をしてた。
あとから分かったんだけど、その時食べてた死体が体を変えられる種族だったからみたい。
人型になってて混乱したけど、アレコレ頑張ったらもともとの花の形にも戻れたから、まっいいか、と気にしないことにした。
しばらくの間はそのゴミ捨て場にご飯があったから食事してた。
美味しかったよー。
んでね、その時に気づいたんだけど、死体から養分(魔力)を吸い取ると、一緒にその死体の能力や性質まで吸収してたの。
これにはビックリしたよー。
だって、もともとわたしはただの花だし。
ご飯を食べるだけの生活。
変異する前の花の頃は、何も考えずに本能的に養分を吸い上げる生活ができた。
けどね、変異して自我を得たことでその生活ができなくなった。
退屈で、退屈で。
ご飯の量はあるけれど、どれもこれも質に大差がない。
もっと美味しいものが食べたい、
もっと楽しいことがしたい。
そんな風に思って旅に出た。
魔族領には色々なものがあって、様々なご飯があった。
嬉しいことに血気盛んなのが多いから、戦って勝って、相手をそのまま食事としていただいた。
運動の後のご飯は格別だったよー。
美味しいご飯と退屈しのぎ、同時にできて最高だったんだけど、何十年もそんなことしてたら魔王すらも倒してた。
すげー美味しかった。
食を極めてしまったわたしは、新しい退屈しのぎとして魔族領の統一をすることにしたの。
一応、魔王倒して(というか、食べて)新しい魔王として君臨したわけだし。
楽しく魔族領の体制を整えたりした。
遊ぶって、きっとこういうことだよね。オママゴトってやつ。
定期的に来る挑戦者というご飯(いや、おやつかな)を食べながら、遊んでたんだけどすぐ飽きた。
真新しいことは起きないし、わたしには敵わないーとか言っておやつの数が減ったし。
だから、このママゴトを片手間に他のことをしようと考えたのだ。
他のことっていうのは魔法を覚えること!
能力はバカみたいにたくさんあるし、魔力もたくさんあるけど、わたしは魔法を使えなかったの。
魔法は練習して学習するものであって、わたしが吸収できる能力や性質というのは、その種族の特性やその個体の独自のものだけだったから。
つまり、オンリーワンやユニークなのは奪えるけど、みんなができることは吸収できない、みたいな。
あれ、分かりにくいかな?ま、いいや。
とにかくわたしは普通の魔法が使えない。
魔法じゃできないほど強力なことはできるのに。地盤剥がしたりとか、流星降らせたりとか。
で、魔法を覚えるために色々練習したんだよー。
魔力は今までご飯たくさん食べてたおかげで底なしかと思うほどあったからね。
寝る間も惜しんで練習したわけ。
ママゴトもしなきゃだから、分身作って(むかし誰かから吸収した能力)やってもらって、本体は魔法の練習。
できるようになってくると面白くなってきて、現存のものだけじゃなくて、滅びた魔法とか禁術ってやつにも手を出した。
こっちは習得するの難しかったんだ。だから頑張ったんだよ。
そして、だいたい二百年くらいかけて多分この世界のすべての魔法を覚えきって満足したわけなのよ。
でね、実は今、気になってることがあるんだよね。
次の退屈しのぎになるかな。
わたしは魔族領は征服したけど、人間領って行ったことない。
人間も死体しか見たことがない。
魔族領に本当にごく稀にユウシャっていうのが落ちてたけど、見たのはそれだけなんだ。
人間は魔族よりも美味しくないけど、数は魔族よりも多いって聞いたことがある。
探せばそれなりに美味しいのもいるかもしれない。
人間領に行って、人(美味しいご飯)探ししてこようかな。
魔族領のことはウィリアムに任せれば大丈夫だよね。
ウィリアムっていうのは吸血鬼でそこそこ強いやつなの。
わたしが魔王になってから来た挑戦者で、なんか知らないけど懐いた。
殺そうと思ったんだけど、戦って死ななかったからそのまま食べなかったの。
わたしのオママゴトに付き合ってくれるし、ご飯の調達もしてくれるしウィリアムに頼めばなんでもしてくれるんだよ。
だから、今回も大丈夫。任せれば頼まれてくれるし。
そうと決まれば、出かけよう。
美味しいご飯と退屈しのぎのために。