わたしを倒す旅の九歩。
またわたし達は旅に出発した。
ちなみに町で買ったお菓子はもう無くなってしまったんだよ。甘い物がなくて悲しい。
ああ、何でもいいから甘い物食べたいなー。
落ちてたりしないかな、お菓子。
お菓子じゃなくても、甘いキノコとかならあってもいいと思うんだよね。
魔族領に帰ったらウィリアムに甘い物の製造を命じなきゃ。それで、目一杯食べるんだよ。美味しいもんね。
今は旅の道中。森の中。
なんか、野営の準備をするんだって。
今のわたしは休憩中。
わたしにも分担はあるんだけど、薪拾いだからもう終わっちゃったんだよね。だから勝手に休憩中なの。
「おお、ラヒー。もう終わったのか。早いな」
「タイチョー」
木の間からノッソリ出てきたのは猪を担いだタイチョー。
かっこいいよね。タイチョーの筋肉が勇猛に唸ってるよね。
「タイチョーもお仕事終わったの?」
「そうだな、肉はこれで問題ないだろう。ラヒーも好き嫌いせずしっかり食うんだぞ」
「ええー……」
肉は不味いから嫌い。
焼いても、煮ても甘くないんだもん。
よくこんな物食べれるよね、人間って。
「そうだ、すぐ近くで食えそうなキノコを見つけたんだ。暇なら一緒に拾いに行こう。飯は多い方がいいからな」
「それ甘い?」
甘いキノコなら行く。むしろいっぱい採ってくる。
「甘くはないな」
「なら要らないよ」
甘くないキノコなら増えたってしょうがないから要らない。不味いのが多くなるだけだもん。
「ああ、そういえば近くに花が咲いてたな。ほんの僅かしかないがあの花の蜜は甘かったはずだぞ、確か」
「なら行く!」
甘い物!
お菓子がなくなっちゃった今、甘いのは大歓迎だよ。
タイチョーもそういう大事なことなら早く言ってくれたらいいのに。
「はやく、はやく」
「待て。ラヒー、肉を獣に横取りされないよう結界だけ張ってくれ」
タイチョーの手を引っ張って急かす。
動物達に先越されたら大変だよ。早く行かなくっちゃ。
タイチョーが薪の横に猪を置くと同時に結界魔法を組み上げる。
リナよりも短い時間で魔法行使してしまったけど、こんな場面だからいいよね?甘い物より重要なことなんてないもん。
タイチョーがちょっとだけ目を開いたけど、すぐに優しいおじさんの顔で笑った。
「さすがだな」
出来て当然なの。
だってわたしは魔法を極めてるから。
普段が手を抜きすぎなのだ。
「花、どこ?」
「こっちだ。行こう」
場所を尋ねれば、タイチョーが苦笑いで手を引いてくれる。
タイチョーは強く握って、わたしの手を痛くさせたりしない。
タイチョーは、わたしの歩幅に合わせてくれるから、この前のユウシャみたいに慌ててついて行かなくても大丈夫。
というか、木の根に足をとられたわたし(能力切っちゃったから鈍臭いの)を抱き上げて、途中から抱っこして運んでくれたんだよ。
本当に筋肉すごいよね。タイチョー、かっこいい。
「ラヒー。ほら、この花だ」
「甘いやつ?」
途中からタイチョーに乗っていたから、すぐに着いた。
タイチョー、歩くの速いのに揺れなくて快適だよ。
「そうだ。この花を摘んで、この部分を吸うんだ。こんな風にな」
「へー」
タイチョーが見本として一花摘んでから、吸って見せてくれる。
わたしもタイチョーのやった通りに吸ってみる。ラッパのような花の細い方をそっと吸った。
「甘いね」
「そうだろう」
やっとまともな物を食べた気がするよ。
町でのお菓子以降は甘い物と巡り会えなかったから。
「美味しい」
わたしは次の花を摘む。
量が少ないのが難点だね。
「お菓子みたいに沢山貯めておければいいんだけどな……」
これは花。
わたしも花だから分かってる。
茎から離された花の寿命は長くないの。だから花を摘んで集めても、その花の蜜は長期間楽しんだり出来ない。
わたしと違ってこの花は脆弱だから、この場だけの短い楽しみにしかならない。
持ち帰ることも、明日に取っておくことも出来ないのだ。
「花だからな。貯めておくのは無理だろうな」
「うん。ちゃんと分かってるよ、タイチョー」
久しぶりの甘い物だから、何日か分を手に入れたかったのになー。出来そうにない。
やっぱり日持ちさせると考えたらキノコの方が良いのかもしれないね。
後でその辺のキノコの味見をして、甘いキノコを探してみようっと。
「ラヒーはこの前の町で菓子を買わなかったのか?あれならいくらか日持ちするだろう?」
「買ったけどもう食べちゃったの」
早く次の町に着かないかなー。
お菓子屋さんがあるくらい大きな場所に早く行きたいよ。
「そういえば、アルと仲良くなれたんだな」
「ああ。わたし達を見てたもんね、タイチョー」
ちゃんと向けられた視線には気が付いてたよ。
近寄ってくる気配もなかったから無視してたけどね。何がしたかったのか分かんなかったし。
「気づいてたのか」
「まあね」
タイチョーが僅かに目を見張る。
でも別に気づくのは不思議なことじゃないと思うの。
だってわたしはラダヒー。花は鑑賞されるものだもん。
向けられた視線には普通に気がつく。
「バレてないと思ったんだがな……。まあ、それはさておき、ラヒーとアルが仲良くなれたなら安心した」
「ユウシャとなんて仲良くないし」
今吸った花をペッと地面に捨てる。
タイチョーがとっても不愉快なことを言ってくるんだもん。
「素直じゃないな。まあ、アルも素直じゃないがな」
「ユウシャと一緒にしないでほしい」
「だが、儂の目には二人ともそれなりに仲良さそうに見えたぞ?」
「えー」
勝手に顔が嫌な表情に変化する。
ユウシャは人間にしては面白いし興味も出てきたけど、仲良しにはなりたくない。
だって嫌なヤツだし。
「そんな顔するな。儂らは仲を深めて信頼関係を築くべきだ。魔王討伐のためにもな」
タイチョーが真面目な声で続けるから、わたしも花の蜜を吸う手を止めた。
けど、わたしを倒すことと信頼関係ってどう繋がってるの?
「前にも少し話したが、このメンバーの中でお前だけ付き合いが浅いからな。カーリナやフランクとは打ち解けたようだが、アルとは一向に上手くいかない。だから儂も心配していたんだ」
「タイチョーが心配?」
なんで、タイチョーがわたしとユウシャの仲を心配するの?
自分のことじゃないのに。
この前の盗賊討伐や、町で見た親子もそうだったけど、どうして人間は他人のために動こうとするんだろう。
理解がとっても難しいよ。
「そうだ。アルは命を軽く扱う奴が嫌いでな。歳若いのに、旅に参加したお前が気に入らんのだろう。だがラヒーは大きな才能を秘めとる。きっとこの旅の中でお前の力が必要になる時が来る」
「才能……」
あんまりわたし自身に才能はない気がする。
あっ、人の能力を取る才能はあるね。
「だからこそ、アルと打ち解けてほしかった。あいつがこのパーティーの中心だからな」
タイチョーがわたしの頭を軽く撫でた。
その接触で、わたしは自分の才能っていう思考から現実に引き戻される。
あ、そういえば。
さっき魔王って言葉も出たし、タイチョーにも聞いてみようっと。
「ねぇ、タイチョー。タイチョーはどうして魔王を倒したいの?」
ユウシャは憎いからだと言った。
タイチョーもわたしが憎いから?
「倒したい理由か」
タイチョーは驚いた顔をしたけれど、片手でわたしの手を握って、反対の手で顎をさすった。
タイチョーに手を引かれて、花の前から移動する。あ、わたしまだ満足できてないのに。
わたしが未練がましく後ろを振り返った時、タイチョーが穏やかな声を出した。
「平和に暮らせる世の中にしたいからだな」
「ヘイワ?」
森の中をゆっくりと移動しながら、わたしはタイチョーの顔を見上げた。
するとちょっと恥ずかしそうに、でも静かにタイチョーは笑っていたの。
「なんの脅威にも怯えなくて済む世界。夢のような考えだが、そういう理想に近づけたいと儂は思っとる」
「ふーん」
脅威のない世界。
なんだかおかしな考えだね。
そんなもの全然楽しくないのに。




