さてさて、変態カマキリの行く末は?
「よく来たな、クズギルドども」
三日後、キナギによる立会いのもと、バトルゲームが開始された。
バトルエリアは、《タイタンズ》に襲撃された森の一定範囲。倒れたプレイヤーの数で勝敗が決まる。
正直、勝てるかどうかは微妙だった。
時雨は、蓮、凪はまず負けると予想している。真紀、蘭は勝てるだろう。
問題は。
「…………繭次第、か」
ちなみに、先ほどの数に自分を入れなかったのは、負けるなどとは微塵も思っていないからだ。
対する六人。もう見るからに強そうだ。
時雨は内心、焦っていた。
「では、ゲームルールを説明しようか。六対六の変則ゲーム。引き分けの際は、ふたたび一人ずつ代表でバトってもらうよ」
パチン!
言い終えたキナギが指を鳴らすと、時雨たちはワープした。
ーーーーー
「……よ、っと!」
空に放り出されてしまったが、時雨はなんとか受身をとって草まみれの地面に降り立つ。
「ヒヒッ」
タンッ、ともう一つの降りる音。
目の前にはいやらしい笑いを浮かべた長髪の男がいた。
こいつ、確かチラチラ凪のコト見てたな。変態確定だな。
「ヒヒヒッ、クソギルドにも可愛い娘はいるのなァ、ヒヒ」
「…………あっそ。てか、早く始め……」
『セットオン。オオカマキリ。コンプリート』
刹那。
時雨の左手の薬指、小指が『消失』した。
それは宙を舞い、ボトリと紅い尾を引いて落下する。
「ーーーー、ッ!?」
瞬間的に、時雨は思い切り後ろへと跳んだ。一秒後、先ほどまで自身の首があった場所に風切り音がした。
「クッソ……不意打ちかよ!」
『セットオン。オオスズメバチ。コンプリート』
振り下ろされた鋭い手刀を、両腕をクロスさせて受け止める。受け止めた箇所から血が飛び散る。とんでもない斬れ味だ。
「ヒヒッ、このまま腕切り落としてやる!」
「ぐっ……舐めんなコラァッ!」
さらに力をいれて来たカマキリ野郎だったが、時雨はそれを押し返し、態勢を崩させた。
よろけたカマキリに、時雨はアッパーをたたき込む。
「ぐげ!こんの……!」
だが、吹っ飛ぶワケでもなく、時雨にまた手刀を振り下ろす。が、時雨はそれをひょいと避けた。
「そういや、カマキリって武器、その斬れ味しかないよな」
「ぐ……あ、《武器召喚》ッ!」
カマキリ野郎のスロットが光った。と、思えば次の瞬間にはその手に鎖鎌が握られていた。
ヒュンヒュンと嫌な音をたて、回転する鎖が時雨に向かって飛んでくる。
「うおっと!」
咄嗟に時雨は、イナバウアーのように後ろに反り、それを躱す。
だが、鎖鎌は変幻自在だ。巻き取るかの如く舞い戻る鎖鎌は、カマキリ野郎の手に収まる前に、浅く時雨の左腕の肉を抉った。
「いって!こんの……クソ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」
だが、時雨もやられっぱなしでは無い。引き戻される鎖を掴み、力任せに引っ張る。
予想だにしていなかったのか、カマキリ野郎はなんの抵抗もなく、逆に時雨に引き寄せられる。
「ぎゃあああああああああああああああああ!?」
情けない悲鳴をあげながら、真っ直ぐ直線に飛んでくるカマキリ野郎。
そして。
『フルチャージ。エクゼキューション』
「くたばれ」
五指をまるでフォークのように、カマキリの腹に突き刺す。
それは深々に刺さり、まるで蜂の針が五つ刺さっているようでもあった。
「いぎっ!」
ズブリと奇妙な感覚。
そして、オオスズメバチの毒がカマキリ野郎の体内に潜り込むかのように広がってゆく。
一言で表すならば、地獄の痛み。
「うぎぃああぁぁぁぁぁぁッッッぁぁッ!!!い、いだ、いだあ、痛いぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁ!」
刺されて、五つの穴が穿たれた腹部を抑え、激痛にのたうちまわる。
時雨は、その頭を蹴飛ばした。
「いぎ!」
「やかましい。こっちは指、斬られてんだ。お前よりよほど痛いわ。……ったく」
まるで他人事のような口調のまま、その辺に転がっていた指二本を拾い上げる。
凄まじく綺麗な切り口だ。おそらく、キナギに医者でも紹介してもらえばすぐくっつくだろう。
時雨の手の元に、勝利をしめす紙が降りた。
「……さて。あいつらはどうかな」