死亡フラグは大抵小物とヒロインだとパターンが決まっている…気がする。
「…此処が、俺たちのギルドか」
「…ボロい」
「…酷い有様ですわね」
「……すみません」
ま、いいけど、と軽い返事を時雨は返した。だが、実際酷いものだった。月明かりに照らされた窓ガラスは割れ、建物のところどころが崩れ落ちてコケや蜘蛛の巣が張っていた。
ニヤリ、と不適に笑って見せた時雨は、振り向いてツバメに言う。
「…さすが、最下位のギルドだ」
ーーーーー
時は、遡る事一時間。
人間杭を打ち付け終わった時雨は相手のコペル (この世界の通貨)を根こそぎ剥ぎ取ったあと、ツバメへギルドへの案内を促した。
「…本来、コペルを賭けずに頂くのはルール違反なんですが…まあ向こうから仕掛けてきたんですし今回はいいでしょう」
「わーったわーったよ。で、とっとと連れてけ」
その言葉に、ギクリ、とツバメは身体を強張らせた。
いつも浮かべている笑みも、今は完全に引きつっている。もはや愛想笑い以下だ。
「…あ、あはは。いえ、それはですね…その……」
「なんだ。まだダメなのか?それとも、連れてけない理由でもあるのか?」
「…笑みをみるに、おそらく後者。何かある」
「……すみません」
そうして、語りだした。ツバメのギルドが、四百四十四あるギルドのうち、四百四十四位に位置している事を。
ーーーーー
ジャングルを抜けて、ギルドに着いたのは夜中だった。
真円の満月が、空に浮いている。
「…まあ、ボロいのはいいけど、なんだこの馬鹿みたいな数のガキは」
ギルドの中には、幼稚園か、とツッコミたくなるほどの子供がいたのだ。その数は、どう見積もっても二百はいるだろうに。むしろどっからもってきたのか。
そんな時雨の考えに気がついたのか、ツバメは子供たちがいる理由を語った。
「……みんな、捨て子なんです。転々と回っている間に、つい…」
「お人好しめ」
フン、と時雨は鼻で笑ってみせた。拾うのはいいが、明らかに設備と環境、それに環境がその数に見合っていない。子供たちのやつれた姿とボロボロの服をみれば明らかだ。さらに、突然の来訪者に会い、かなり怯えている。
「……何故、捨てられたの?」
「…ギルド抗争で、ウチは最悪の立ち位置です。なので、その…」
「押し付けられた、ってか?」
「ちょっと貴方!」
吐き捨てて二階に上がろうとした時雨の肩を、思い切り掴む真紀。
振り向いた時雨は、不機嫌そうな顔を隠そうともせずに真紀を睨みつける。
「…なんだよ」
「貴方は言い方というものを知りませんの!?」
「どう綺麗な言葉で取り繕ったって事実は事実だろ。それともなんだ。他にいいようが有るのか?」
「…っ!」
「…捨て子は捨て子だ。神様だろーと、悪魔だろーと、誰が言っても無駄なんだ」
次の瞬間、時雨の視界が閃いた。
同時に、右頬に痛みを感じて、視界には腕を振り切った真紀がいた。
「…ひとでなし!」
「そりゃ、どーも」
どうやら叩かれたらしい。が、実際のところあまり痛くは無い。
目を合わそうとも謝ろうともせずに、さっさと二階に上がっていってしまった。
ーーーーー
「…ごめんなさい。時雨があんな事をいってしまって」
「全くですわ!あの方には良心とかいうものがありませんの!?」
「………………」
しゅんと項垂れてしまったツバメに、二人は声を掛けた。二人ともまさか時雨があんな発言をするとは思っていなかったのだろう。
子供たちも、奥へ引っ込んでしまった。
「…いえ、いいんです。厄介払いというのは、本当ですから」
確かに、荒れ果てた広野にぽつんと残された彼等は、そういう扱いなのだろう。しかし、それがわかっていたがゆえにハッキリ言われるのはキツかった。
真紀はいまだ怒り収まらず、といった感じで古ぼけたソファに腰掛けている。
「…そういえば、その時雨さんは何処へ?」
「知りませんわ。大方二階でノンビリくつろいでいるのでは?」
「…ちょっと、様子をみてくる」
真紀同様に、ソファに腰掛けていた凪が立ち上がったのを見て、慌てて向かいのソファから立ち上がってそれを止めた。
「い、いえ。わたくしが行きますよ。プレイヤーの動向を確認するのも、ナビの仕事ですし」
「………無理、しないでね」
「…はい」
ギシギシいう階段を登った先には、時雨はいなかった。
ーーーーー
「……ひとでなし、ねぇ…」
自分としては、本当の事を言ったつもりだったのだが。
パチン、パチンと指の上に載せたメダルを弾いて、屋根の上で時雨は遊んでいた。
オレンジに縁取られた美しいメダルだ。ゲームだからこそ出せる色なのだろう。
「…やれやれ。此処にいらしたのですね」
「…なんだよ、ワシ」
「…あの……ツバメです。ワザとやってますよね」
「当たり前。で、なんの用だ?お前も引っ叩きにきたのか?」
「…いえ。昼間のコペルを返そうと思いまして。これを」
ジャラン、と硬貨が詰まった袋を差し出してきた。
だが、時雨はそれを受け取ろうとはしなかった。
「…あの?」
「いらねーよ」
「……え?でも、これは時雨さんのですし。貰って頂かないと困るといいますか」
「じゃあもらう。んで、やるよ、そんなもん」
「そ、そんなもんって…」
ハア、とため息がでてしまった。
こいつ、どれだけお人好しなんだろうか。
「…あのなあ、お前はなんだ。アレか?馬鹿なのか?」
「…へ?ば、馬鹿って…」
「馬鹿だろが。この有様でよく金を人に差し出す気になるなあ。普通は忘れてると思ってそのまま自分の懐にいれちまうぞ」
「そ、そうなんですか…」
「…もういいや。とにかく、それはやるよ。じゃあ、寝るわ」
そういうと、時雨はゴロンと屋根の上で寝転がり、目を瞑る。
それを見て、慌てて身体をツバメが揺すってきた。眠れやしない。
「…んだよ」
「こ、こんなところでは風邪引きますよ!ほら、中に入ってください!」
「やだよ。第一、入ったらあのお嬢がうるせーだろ。ここでいいよもう」
「お、起きてくださいよぉ〜」
目を閉じると、再び身体を揺すってくるが、もう気にしない。完璧に眠りに堕ちる寸前、気配を感じ取って飛び起きた。
「伏せろっ!」
「え?は?ぎゃあ!?」
突然の時雨の行動と命令に対応出来なかったのか伏せなかった。慌てて時雨がツバメを抑え込み、押し倒す形になってしまったが時雨は気にした様子は無い。
「え、いえ、あの、ちょっと!?」
「黙ってろ!来るぞ!」
閃光と共に、赤い爆炎が空から舞い降りた。避けられないことも無いが、避けたらまず間違いなくギルドは崩壊する。と、いってもすでに半壊しているが。
「ちっ!面倒な!」
パチン、と指先でメダルを弾く。
そして落下してくるそれを手に収め、スロットにはめた。
ギルドに入った事により、スロットから合成音声が出てくる。要らなかったが。
『セットオン。オオスズメバチ』
ゴウッ、としたから扇風が巻き起こり、同時にオレンジのオーラが出てくる。が、それは一瞬だけだった。さらに、時雨の瞳が黒から濃いオレンジに一瞬で変化する。
『コンプリート』
「お……らああああああ!」
合成音声と同時に、右脚を振り上げて爆炎を掻き消した。
火の粉が飛び散り、当たりを照らす。当然、時雨にはダメージは無かった。
「…ちっ。ダメか」
月明かりと火の粉に照らされて出てきたのは、宙に浮く三十人近くのプレイヤーと、人間杭三本だった。
おそらく、報復にでも来たのだろうが、最下位ギルドを夜襲とはよほど暇なのだろうか。
おそらく、今の爆炎は中心にいるリーダーらしき奴が撃ってきたのだろう。
「よお。こんな夜中に襲撃とは、ずいぶんご挨拶じゃないか」
「…黙れ。最下位ギルド如きに、ウチのものが随分やられたようなんでな。完全に潰させてもらおうか、ツバメ!」
「あ、貴方はナビでしょう、ミイデラ!ゲームバトルには参加してはいけませんよ!しかも、昼間のはそちらが一方的に…!」
ふむ。どうやら真ん中の黒髪と茶髪が混じった奴はミイデラというらしい。そして、肩に構えているのは恐らく武器だろう。というか完璧にバズーカだ。
だが、あれは炎を撃ち出す武器なのだろう。火炎放射器のようなものか。
ミイデラはツバメの言葉に耳を貸そうともせず、視線を時雨に移した。
「聞いてるんですか!?」
「黙れ、と言っている。そんなに不満ならゲームにしてやろう。ルールは簡単。戦闘不能になった方が負け。賭けるのはギルドの存続権利。どうだ?勿論、ツバメも参加して構わんし、しなくてもいい。此方は全員だがな」
「そ、そんな不利な条件…!」
「ならば、問答無用だ」
ツバメは歯噛みした。
三十人vs二人。しかも、ツバメは戦力にならないのだろう、表情に出ていた。
時雨はニヤリと笑う。ツバメの肩に手を置いて、下がるように合図をした。
「一個だけ頼む」
「なんだ?賭けるものか?それは変えられない」
「俺等はそれでいいけど、あんたらの賭けるものだ。存続権利はいいから、金をくれ」
シン、と静まり返った。なにかおかしな事を言っただろうか。
直後、大笑いが敵軍から沸き起こった。面白くて仕方ない、とでも言うように。
「……なに?なんか変な事言ったか、俺?」
「は、はははは!いや、それでいい。まさかこの数に勝つ気か?」
ああ…そういうことだったか。
そこまで聞いて、やっと理解できた。別に、時雨は頭は悪くない。
が。
「…一つ言ってやろう。あんたらな、今のセリフ……」
時雨は、自分に、絶対的な自身が昔からあったのだ。
そして、だからこそこのセリフを言う。
「…死亡フラグ、立ってるぜ」
ツバメ(以下ツ)「はい!どうも皆さん、今回も『跪け。』を読んでいただいて有難うございました!ツバメです」
月影(以下月)「どうも、前回首を捻られて落ちた月影です」
ツ「はい、今回もダラダラやっていきますツキツバコーナー!では早速お便りを頂きましたので、読んでいこうと思います。えーと、『触っただけでかぶれる蛾を登場させて見てはくれませんか?』」
月「………えーと。それ多分貴方の体質だと思います。てか、大概は触ったらそうなりますよ。蝶でもかぶれますし」
ツ「え?蝶でもかぶれる事ってあるんですかね?」
月「はい。蛾や蝶の羽に付いてる鱗粉は、蛾の場合は強力な毒性を持つ種もありますが基本は蝶みたいなもんです」
ツ「ほうほう。では蝶と蛾の違いとは?」
月「腐るほどありますが、まあ触覚の形とか餌とか、蛾は成体でも糸をだせる点ですね」
ツ「あ。そういえばそーですね」
月「まあ違いなんてそんなもんですよ。さて、蛾はまあ登場させる予定ですけど、この設定の蛾だと…。かなり残念キャラですね」
ツ「では、ボツでしょうか」
月「いえ?コレはコレで面白いのでネタキャラとして使おうかとw」
ツ「…わたくしはそのネタキャラに同情しますよ…って、こんな時間ですね!シメにしましょう!」
月「そーですね。さて、皆さんも疑問点やら『こんなの出して欲しいな』という生き物が入たら気軽にお送り下さい。また明確な名前で無くとも、バッタとかカマキリとかの大雑把なのでもいいっす」
月・ツ「それでは!また次回もお楽しみに!」