天上天下唯我独尊
「……何処だ、ここ」
「だから、ゲームの中です」
……。
とてもそうは見えなかった。凄まじくリアルなジャングルと、その奥に佇む城跡。
ちなみに、その城跡はかなり不気味だった。半ば無理矢理連れて来られたゲームは、まるで異世界だった。
「……まあいいや。で、具体的にはどんなゲームなんだ?」
「あ、ハイ。今説明いたします」
パチン、とツバメが指を鳴らすと共に、時雨の掌に一枚の紙が空から舞い降りる。
「……ふん。要するに、なんか生物の力が使えるのか」
「ハイ!それと、与えられる生物の力は完全ランダムです。シンクロ率も、です」
「完全に運だな」
「運です」
なんだそりゃ。だが、時雨はこういうのも嫌いじゃあ無かった。
時雨は読み終えるとビリビリと掌の紙を引き裂き、その辺にポイと捨てた。
「あー!何してんですかぁ!ゴミのポイ捨てはいけませんよ!」
「突っ込むところはソコかまあいい。で、俺の能力は…「うきゃああああ!」「きゃああ!」よっと」
空から降ってきた女二人を、また片手で受け止める。二回目だ。
ちなみに、今回受け止めた箇所は後ろ頭と腰だったりする。
「お、おろせ!」「おろして」
「あいよ」
「きゃぅっ!」「…痛い」
ツバメの時とは異なり、二人とも叩きつけた。理由は簡単。
口調が、上から目線なのとユルかったからだ。受け止めてもらっといて偉そうに。ユルそうに。
のらりくらりと立ち上がる無表情女。ガバリと一気に立ち上がり、胸ぐらを掴んでくる金髪。
「あ、貴方いま叩きつけたわね!何のつもり!?」
「言い方がムカついた」
「な……っ!ふざけないで!服装を見る限り庶民ね、貴方。庶民が貴族に楯突いていいと…」
「思ってる」
「この……っ!」
「………………」
「ハイハイ、そこまででぇす」
パンパン、と手を打ち鳴らし、ツバメが仲裁に入る。放っておけば殴り合いにまで発展しそうな雰囲気だったからだろう。
「お二方落ち着いt「「引っ込んでろ!」」………落ち着いてください。今わたくしのハートが簡単にブレイクされました…。取り敢えずメダル渡しますからホント落ち着いて…!」
若干涙交じりに懇願し、膝を着くツバメ。と、その崩れ落ちたツバメの目の前に手が差し出された。
その手は、時雨のものだった。
「ぐすん…ありがとう、ございま」
「メダルとやら、とっとと渡せ」
……………。
この場にいた、誰もが思った。
こいつ…空気読めよ、と。
「…なんでしょうか。今一瞬でも恋に落ちかけたわたくしを、殴り飛ばしたくなりまs「いいから渡せ」…渡しますよぉ。だからこれ以上わたくしを虐めないで」
チャリン、と時雨と女二人に一枚ずつメダルが渡る。
時雨には、蜂の絵柄が彫ってあるメダルが渡された。
ロングヘアの無表情と高飛車金髪貴族には何が渡ったのだろうか。
「おい」
「はい?なんですか?」
「もっと寄越せ」
………。
再び、空気が硬直した。
誰もが考えなかった返しだったからだ。普通、もらったら有難く懐に仕舞って説明を聞くだろうに。
「…規則ですから、一枚だけですよ…。あと、これ以上わたくしのハートは砕けませんからね…」
「意地でも砕いてやろう」
「何ですか!?なんでそんなにツバメを虐めるんですか!?」
「訂正しよう。コナゴナのメタメタに壊す」
「悪化しました!?」
「…いいから、説明をして」
「…ハイ。すみません。まずは、そのメダルですが、皆さんホルスターが腕についてるでしょう?」
皆が一斉に自身の右腕をみると、そこには確かに腕時計の文字盤だけがすっぽり抜け落ちたようなものがついていた。
その抜け落ちた部分は、メダルと同じくらいの大きさだ。
「その《スロット》にメダルをはめ込む事でそのメダルに描かれた生物の力を使えるようになります。中にはマジで!?っていうようなのも」
「ゲームのルールはなんですの」
「あ、そうでしたね。基本的には三対三のメダルを使ったバトルです」
「……というと、このメダルを賭けるの?負けたら失格、とか?」
「あ、いえいえ。確かに、そのメダルを賭ける事はできますが、それはあくまでも出来るだけです。他にも、お宝を賭けたり、人を賭けたり、罰ゲームとかでも双方の合意が得られればいいんですよ」
「ふうん…。で、三対三ってこたぁ、俺らってチーム扱いになってんの?」
「あ、そうです」
「………ちっ。使えねーコンドルだな」
「ツバメですよ!?てか、わたくしも含めて四人一組のチームなんですから、まずは自己紹介とか」
そういって、グルリと三人を見回すツバメ。
見た感じはイケメン三割、毒舌七割の高校生。
金髪のタカビーお嬢。
無口なクールビューティ。
…なんだろうか。クールビューティ以外弱い気がしてきた。
タカビーと高校生はチームワークは取る気ゼロだろう。
「では、僭越ながら私から。私は《天嵐 真紀》ですわ。メダルは多分蛇ですわ。種類まではちょっと…」
「……………ちっ。俺は《前条時 時雨》。メダルは蜂。俺も高飛車金髪と同じく種類は分からん。アイデンティティは《泣く子も蹴飛ばす鬼野郎》だ」
「ホントに鬼ですわね!?」
「しかも『も』って事は泣く子以外も蹴飛ばすんですか!?」
「さて、次だ。おい無表情女。お前の番な」
二人のツッコミをスルーして、隣の無表情女に自己紹介を促した。
コクリ、と頷くその姿はセーラー服にも関わらず、日本人形を思わせた。
「……《嵯峨 凪》。メダルは犬で、種類はパピヨン」
「…使えね。一番戦力になりそうにないなあ」
「ちょっと!貴方には空気を読むという事ができませんの!?」
「うん」
「…………もはや、わたくしは何も申しません…」
即答した。
それにゲンナリするツバメと真紀だったが、『泣く子も蹴飛ばす』鬼野郎の時雨は平然と頬杖をついていた。
日本人形、もとい凪は相変わらずの無表情。正直、面白くない。
時雨としては、ツバメのようにリアクションが面白い奴がいいのだが……。
「で、ですね。これから皆さんにはギルドに来てもらうんですけれども」
「…そりゃいいが、あれはなんなんだ?」
「…え?あれ?」
空を高速飛行してくる物体が三体分。おそらくは他のプレイヤーだろう。
しかも、空中で武器を取り出したかと思うと、狙撃してきたのだ。
……時雨を。
当たりこそしなかったものの、見事に時雨の足下の土を深々と抉った。それだけならまだしも、微かにだがスニーカーも抉った。
「「「「…………………」」」」
しばし沈黙。そして。
「…ちょっと行ってくる」
「待て待て待ってくださぁい!まだギルドに登録してないんですからバトルは…ってちょっとぉ!」
問答無用。時雨は無言でスロットにメダルをセットした。
一瞬、オレンジのオーラが時雨を包んだかと思うと、次の瞬間には天空へと舞い上がっていた。
「………もぉーーーっ!少しは人の話を聞いてくださぁぁぁぁぁぁぁい!!」
ツバメの叫びは、虚しく虚空へ消えていった。