doara
寂れた田舎にある小さな街、シナッド。その上空にはいくつかの黒点を確認できる。
気分のいいものではない。頭上に『ドラゴン』が飛んでいるというのは。
例えば、ドラゴンの存在しない世界、何かの創作の世界でしかありえないのだけれど、そんな世界であるならば、そのフォルムから持て囃されていてもおかしくないだろう。そう思うほどに外見はカッコイイ。
まあ、そんな世界が空想である以上、ドラゴンは害獣にちがいないのだが。
ドラゴンは街を襲い、時には人にも襲いかかる。そんな忌避すべき存在なのだ。
警鐘が鳴っている。リトルサイズのドラゴンの群が街を襲撃しに来ているのだ。
人々は慣れたもので、混乱もなく避難場所に誘導されている。
そんな人々に交わることなく、俺は、ドラゴンバスターである俺は召集を喰らうのである。
▲▽▲▽▲▽▲
「失礼、遅れました」
俺は言葉とは裏腹に失礼とも思っちゃいない声質で言う。
部下が遅刻したにも関わらず、隊長はさして気にも留めずに話を進める。
「今、来襲しているドラゴンは、『サイドラ』リトルサイズの草食ドラゴンの群だ」
なんてことはないドラゴン。隊長の態度も穏やかで、遅刻を気にするまでもない、ということなのだろう。
「おいーっす」
俺は自分の席に向かいつつ、幾人かと挨拶を交わす。ちなみに、ドラゴンバスターは総勢25名、シナッドのような小さな街では割合に大きい部隊であり、隣村のカバーも任されている。
「おいーっす」
俺は臨席の少女に声をかける。
「あっ、先輩っ、おはようございますっ!」
女性のドラゴンバスターは数少ない。その中でも10代、確か17と言っていたか、になると、この子ともう一人しかいないらしい。らしい、というのはこの部隊の所属ではないから。
「緊張してんのか? ま、初任務だからな、無理もない」
「はいっ、がんばります!」
受け答えが微妙に成立していないが、緊張とやる気の顕れだと理解する。
「ははっ。そう気負うなよ。今日のは草食のリトル、って言ってたろ?」
はい、と小さく返事をする。
「お前も学校出てるならわかってるだろ? 新人の初任務は、よっぽど人手に困ってない限り、このサイズが出るまで待たされる」
やる気に満ちた表情で、ギュッと下唇を噛む。
「ほら、もう出撃だ。行くぞ!」
「はいっ!」
そう威勢よく、少女、エディカは応えるのだった。
「おい。いい先輩気取って、ご満悦なところ悪いが、ランドル、お前、遅刻これで10回目だよな? 後で反省文だから」
「まじっすか隊長!?」