─現象の現れは、世界の現れ─
───『異色者』────
今、日本で起きてる『異色事件』の感染者の名前だ。
人によって症状が違い、持ってしまう『異能』も個人で違う。
「私は"人に覚えてもらえない"『異色者』な、……なんです」
今、俺とその女の子は近くの公園のブランコに座って話している。
右のブランコが俺。左のブランコが女の子だという風に座っている。
女の子の名前は『遠松菜谷』(トオマツナヤ)。
中等部の二年の女の子で、読書部に入ってるらしい。
「いつから、異色者に?」
俺は遠松さんに質問した。
「六ヶ月前……から」
そんなに前だったとは。
「親に姿は見えるの?」
「見えないよ。貴方が……初めて」
俺が"気づくまで"、今までこの子はひとりぼっちだったのだろうか。
「どうやって生活してたの?」
「普通に。部屋には、親は寄ってこないの。食べ物は……冷蔵庫から。お風呂は…深夜に」
"寄ってこない"のではなく『寄ってこれない』のだろう。
このケースは異能現象で言うと、
第一の現象[異状]にそっくりだった。
第一現象の場合、適用される自然現象は人の心である。
感染者の『一番強い思い』が異能となり、現象として現れる。
「君さ、─────」
「──────────な─」
「え?」
「菜谷って・・あの、・・その、・・呼んでくださ…い」
恥ずかしそうに、遠松さんは言った。
顔が赤いのがこちらからでも分かる。
公園の電灯で顔は少し見えるのだ。
「え!いきなり呼び捨ては!─────」
俺は焦りが言葉に出ながらそう言った。
後輩といえど、相手は女の子だ。
呼び捨てはキツイ面もあった。
だが、遠松さんは弱々しい声で、
「お願い…します。この頃、呼ばれてない……から」
と、俺にいった。でも、そう思うのも当たり前なのかもしれない。
一ヶ月、人に話されなかったら、そう思うだろ。
「分かった。な、菜谷」
「は、はい」
緊張感が伴った。何でだよ。
「二つ質問していい?」
「は、…はい。わ、分かりました」
菜谷に聞きたいことがあったのだ。
「まず一つ。何で俺が話しかけたとき、『とっさに驚いた表情』をしなかったの?」
まず一つ目だ。六ヶ月間も誰とも話されないなか、話しかけられたら、驚いた表情はつくるはずだ。
「それは…ですね。前にも…な、何回かあったんです」
「何回か?」
「はい」
そのあと、菜谷はこう告げた。
"何回かは話しかけられたが、会話はあまり続かず、30分後には、話しかけてきた人でも菜谷のことを忘れてしまう。"、と。
「何で『どちら様』って言ったの?」
「その言葉の始め方が一番会話が続くのが、…な、何回か話しかけて気付いたんです」
「成る程ね。二つ目の質問だけど」
「はい」
どちらと言うと、二つ目の質問の方が重要だった。
「異色者になる直前でもなくていい。異色者になる前は『どんなことを心』に思ってた?」
これが重要だ。第一の現象ならば、人の心は必要不可欠だ。その心によって現象が変わるのだから、その心の種類が分かれば現象の方向性も分かってくる。
「確か、『恐怖』ですかね」
「『恐怖』────か」
そうだとしたら、多分、人を怖がる気持ちが人を近寄らせない現象に変化したのだろう。
つまりは、『恐怖』が現象の正体なら菜谷の『恐怖』を消してあげればいいんだ。
そうすれば、必然的に異能も消える。
「分かった。俺が君の『現象』を無くしてあげるよ」
俺は言った。
「は、はい!ありがとうございます!・・・えっと・・・」
そう言えば、俺は名前を言ってなかった。
「俺の名前は良和だ。三崎良和」
「は、はい。よ、良和さん」
菜谷は安心そうにそう言った。
七色の笑顔と共に。