─秘密の秘密は困惑の証─
何はともあれ、雅美と二人で下校中である。
「考え事?カッズー?」
「う?あ、あぁ。まぁな」
クラスが違うため、あまり学校では話さないが大抵は登校・下校は一緒である。
「カッズー、考え事は頭に悪いよぉ~」
「それを言うなら"体に″だろ?」
「そうでしたぁ~!うっかり☆!」
「はいはい」
"体に"でもおかしいけどな。
明るく陽気。それが俺の幼馴染みの特徴であり、長所だった。
その性格だからこそ、友達も多く、人望も厚かった。
(俺とは真逆だな)
根暗な俺とは違っていた。
妬ましくもあるが、誇らしい気持ちの方が大きい。俺にとっては雅美は妹みたいな存在だった。
(態度とか、話し方とか、な)
昔は雅美が俺に頼ってきたのに。今ではその真逆だ。俺が雅美に頼りっきりだ。
「で、カッズーは何をお悩みで?」
「世界の不思議について」
「ほ?」
あながち、間違ってはいないはずだ。
「まぁ雅美の頭じゃあ、分からないよ」
「ぷぅぅ!カッズーのケチ助!」
子供みたい。これ、禁句。
「はいはい。悩み相談はまた─────」
──今度で、と言うつもりだった。
だがそんなことよりも由々しき事態が起きた。
(あの子───だ)
さっきの夢(?)に出た、あの子だった。
赤い翼を背中から生やしていた。あの子だった。だが、見た目は同じなのに、翼はなかった。
それでも俺の脚は勝手に動いた。走ってすらいた。
「雅美、先に帰ってて!」
「え!で、でもさ!」
「いいから!先に帰ってて!」
「うぅ、早めに帰ってよ!」
そんなに遠くない距離なのに大声の俺ら。
走っていくと容易にその少女の元に着いた。
背後からなので、声をかける。
「あ、あの!」
「?」
少女がこちらを振り返る。
あの時の女の子の容姿だった。
栗色の短めの髪、小さい身長。可愛いらしい顔立ちに綺麗な瞳の女の子。
「君さ!さっきの─────」
「『どちら様』ですか?」
どちら様、つまり俺とは面識がない。
──────いや、待てよ。屋上であの距離。
しかも、異能現象まで合ったんだ。
顔が見かった可能性もある。
「ほら、さっき屋上にいた、俺だよ」
自分の顔に指を差して少女の反応を待つ。
「────屋…上?」
「そ、そうだよ!」
探るような、疑るような、目を向けてくる。
「貴方は、屋上の『アレ』を覚えてると?」
アレ、とは異能現象が起きたときの屋上なのか?ならば、
「あぁ、覚えてるぜ」
俺は答えた。
「───────ッ!それは!本当なんですか!?」
大声で少女は答えた。
俺、どころか周りの奴らも驚いた。
「いや、どうしたの?」
制服から見るに中等部の子だろう。
ダンッ!、と俺の胸を叩く。
「だから!貴方には『私が分かるんですか!?』」
何を言ってるのかが分からなかった。
大きく涙声を伴った声を張り上げて女の子は俺に叫ぶ。
と、そうやって俺が硬直している。その時、
「ね、ねぇ?」
背後から肩を軽く叩かれる。誰かが俺に話しかけてきたようだった。
俺は声に反応して後ろを振り向いた。
「えっ…と、何か用事?」
俺は不器用ぎみにそういった。
なぜなら、その話しかけてきた人は俺が全く
知らない人だったからだ。男の人だった。制服から見るに、俺と同じ高等部の生徒だと思う。
「君はさ…、さっきから、『一人で誰と話してるの?』」
おどけた声でその男は俺に問う。
しかし、はぁ?、という気持ちしか俺にはなかった。
明らかに俺の目の前の女の子がいるのだから。それを見て何を言ってるのかの理解が出来なかった。
「いや、…へ?俺の目の前に女の子がいるじゃん…」
俺も少し驚きとおどけの入った声を出してしまった。
「え?えと、僕には見えないな、ハハ」
苦笑気味に言われた。
だが、苦笑はどうでも良かった。
コイツには、いや、"俺以外には"この子は見えていない───のか。
驚愕というより、信じられないというのが
心境だった。
「じゃあ、僕はちょっと……」
なにも言わず固まっている俺を見越して、
話しかけてきていた男は何処かへ行った。
たが、そんなことはどうでもいい。
今はそれよりも──────────。
俺は俺の胸に寄りかかって泣きそうな女の子を見ていった。
「君は───まさか」
「はい、…私は、…」
──────異色者です────
俺の耳に女の子の声が響いた。