─考え中の苦悩、日常の平和─
そのまま、授業は進んでいった。
六時間目は数学だった。
「え~、この式は────────」
先生が前で何かを言っている。
だが、俺は真面目に聞く気は全くなかった。
というより、聞けなかった。
頭には、二つの言葉が巡っていた
(『夢』と『深紅の翼』───か)
例え、夢だったとしても何故か気になる
数学の授業も頭にはいってきなさそうだ。
俺はそのまま、授業放棄をしていた。
[4.ちょっとした日常のアレ]
そのまま、授業は終わった。
下校の準備と帰りの会がまだ残っている。
俺は机の横に掛けてある、鞄をとった。
そして、机の引き出しの中にある
教科書・ノート・筆箱・本を出そうとした。
が────────
(──────あれ?)
教科書がなかった。ノートもなかった。
筆箱もなかった。本もなかった。
あったのは、
(これは──────羽?)
それは真紅の羽だった。あの時の、女の子にあった翼の羽の一部のような感覚がした。
だけど、血のついた羽にも見えた。
●●●
ともあれ、教科書やら、何やらは見つかった。
(まさか、靴箱の中とはな)
"苛め"と思うかもしれないが、俺には違う気がした。
「あ、そうだ。」
俺は鞄から紙を出す。一枚の紙だった。
普通にノートの切れ端だ。定規を使ったのか、切り口は綺麗だった。
「今日はここか」
この手紙は、待ち合わせの場所を書いたものだ。
(『アイツ』もよくするよ)
アイツとは幼馴染みのことだ。
俺は若干、急いで歩いていた。教科書・ノートを探すのに時間がかかったために、下校時刻、ギリギリなのだ。
(『この紙』を見る限り、2-3 の教室か)
俺は通り過ぎるクラスの中の壁に掛けてある時計に目を向けた。
(やべぇ、時間が!)
俺はあと少しで下校時刻になる時計を見て、慌てて走った。
2-3の教室は三階にある。俺は今、一階だった。階段の角に差し掛かった。このまま、前にいって、右に階段がある。角になってるので、階段の様子は分からない。
(良し、この階段を三階まで一気に上れば2-3はもうすぐだ)
階段を上ろうと角で右を向いた瞬間。
ドッ!と、俺は『誰か』にぶつかった。
「きゃ!」
「うわぁ!」
二人して後ろに倒れた。
「いててて、あ、すいません!」
「いたたぁ、あ、はいぃー」
俺は立ち直しながら、『誰か』を見た。
その人は
「あ!一葉!」
二人とも立ち上がり終わった。
「あれ?良和君だ。お久しぶりだね」
ウチの学校の生徒会長だった。
名前は『干野一葉』(ほしのかずは)
俺の家のお隣に去年、引っ越してきた。
黒い長髪で、綺麗な顔立ち。背は俺よりも何センチか高い。
「久しぶり。今日も仕事か?」
この頃は一葉が生徒会の仕事が忙しくて、一葉とはあまり会うことがないのだ。
「うん。もうすぐ体育祭でしょ?それの用意をね」
「ふぅん、忙しいんだな」
「まぁ~ね。あ、良和君は何してるの?」
その時、俺は元々の目的を思い出した。
「あ!そうだった!俺、2-3に行かなきゃだった!」
「2-3?・・・もしかして、幼馴染みさんと一緒に帰るの?」
「あぁ、そうだぜ───って、一葉さん?」
へぇー、そうなんだー、と何故か暗黒のオーラを出しながら、光を失った目で俺を見ていた。
何となく、怖かったので、早く行くことにした。
「じ、じゃあな!一葉!俺!急いでるから!」
なおも一葉の目は怖い。
「はぁーい。幼馴染みさんによろしくねぇー」
まだ一葉の目は怖かった。
俺は慌てて駆け出した。
●●●
2-3 に到着した。もう下校時刻は10分を過ぎていた。
「おーい。雅美、帰るぞ」
席についていた、俺の幼馴染みに声をかける。
「あ!遅いよ!カッズー!」
こちらに振り返り、陽気に声を返してくる。
「遅い、て。お前があんな面倒に待ち合わせるからだろ?」
シュタ、と立ち上がり、
「女の子はロマンチックが大好きなんだよ!!」
エッヘン気味に、胸を張る。
『八島雅美』(ヤシママミ)。俺の小さい頃からの幼馴染みだ。水色の短髪で同じ身長。顔立ちは可愛い方だろう。
一葉よりも、俺との友達付き合いが長い。
「はいはい。帰るぞ、雅美」
「はーいだよ!カッズー!」
いつもの雅美の陽気な声が聞こえた。