─メールとジャージの混雑騒動─
俺は今、またもや、気だるい階段を上がって自室に来ていた。
そう言えば、パジャマ姿だったことにさっき、気が付いたのだ。
部屋着に着替えようと、部屋をはいって右の前方の角にあるタンスを開こうと思い、歩き近づいていく。
(服は……適当にジャージかなぁー)
適当に服を決めてタンスを開ける。中には、ジャージ・制服・私服と大雑把に分けると三種類だけだ。
しかも、三種類ともにおしゃれの欠片も感じるものはない。
そうはいっても、着替えなくてはいけないので、当初の予定通りに黒いジャージを選択した。
黒いジャージを手に取り、着替える。
そのとき、
『プルルルルル♪』
と、俺の部屋に置いてある勉強机(仮)の上に誇らしくも鎮座しているケータイが、甲高い音を出した。
ちょうどズボンから着替えて、まだ、半分しか履いてない形だったために、黒ジャージに足が拘束される。
気にせずに、ぴょんぴょんとジャンプするように、勉強机(妄言)まで移動する。
移動中に若干、こけそうになりながらもケータイまでたどり着き、手に取った。
俺のケータイは折りたたみ式の青いケータイだ。パカッと、ケータイを開く。
そこには【メール二件】と表示されていた。
はて?誰か?、と思いながら俺はメールボックスを開けた。
メールボックスを見ると、二つのメールがあった。
ひとつ目のメールを見てみた。晴樹からだった。メール内容は、
【あ、良和?僕だけど、学校に宿題の答えを忘れてきたから、貸してくれない?】
だった。短い文で一般的な言葉使い。いかにも晴樹だった。だが、メール内容を見るに、このメールはレアだった。
あの晴樹が答えを忘れるなんてそんなにない出来事だろう。
まぁ、答えなら後で貸しておこうと思う。
このメールは、別に大丈夫だったのだ。
問題は二つ目のメール。
菜谷からのメールだった。
内容は、こんなものだった。
【良和さんですか?菜谷です。悩みのことはどうしたらいいですか?】
現象について──────つまりは、昨日の約束のことだった。
そういえば、昨日、俺は幼馴染み様のなんやらかんやらで、メールをしていなかった。
いや、別にメールの約束や俺からメールすることを言ったわけではない。
でも、昨日、俺からあんな約束をしておいて、報告とか連絡をしないのは可笑しいってものだろう。
「ちょっと悪いことしたな…」
早めにメールを返そうと俺は思った。
なので、俺はまだ完全に履いていない黒ジャージを片手で腰の位置に持ちながら、
【昨日はメールせんで、ごめんな!じゃあ、今日は一応、昨日の公園に今日の12:00に待ち合わせな!】
と、明るい感じで自分の出せる最高速度でメールを返信した。
「ふぅ、公園か。」
今の時刻は11:25くらいだ。支度の時間をいれても、余裕だろう。
あとは、菜谷に用事がなければ公園で待ち合わせということになる。
もしかしたら、菜谷にも用事があるかもしれないので、俺はメールの返信を待つことにした。
と、思った矢先に菜谷からの返信がきた。
あまりのその速度。結果は一分も経っていなかった。
「菜谷って、…案外、神なのな…」
その速度を敬意をもって、俺は神速と呼ぶことにする。《神速の菜谷》なんてどうだろうか?
そんな可笑しなことを考えながらも、俺はメールを開いた。
【はい。分かりました。先に待ってます。】
そう書かれていたメールだった。
一行の返信とはいえ、ボタンで打つ折りたたみ式のケータイで菜谷は返信しているはずだ。速度的には速い分類だろう。
だが、とにかく、これで待ち合わせということに決まった。そういうことだから、支度をしようと俺は思った。
だが、そこで俺は気づいた。
「ジャージに着替えた意味ねぇ…」
そんなことを思いながらも俺は仕方なく、完全に履いていないジャージ姿のまま、またもや、ぴょんぴょんとジャンプしながら、タンスに近づいていくのだった。