─雅美の中のシンデレラ─
俺は話を始めた。
俺たちは二人とも、天井を見る形で寝ている。
「なぁ、雅美」
「何?馬鹿カッズー?」
「馬鹿って言うなよ」
「うるさい、馬鹿カッズー」
俺はまだ許されてないようだった。
嘆息気味に俺は話を続ける。
「雅美はさ、怖いときって、どうやって恐怖を無くす?」
「それって、相談事?」
雅美がこちらを向いた。布団とベットには高低差があるので、俺は雅美に見下ろされている形になる。
「うーん?言ってしまえばそうかな」
「分かった。答えるね」
相談事になると、いつも雅美は真剣に聞いてくれた。今だってそうだ。
「私の場合は、『好きなことをして』パァ!と忘れる────かな」
「好きなこと?」
「うん」
少しの笑顔で、雅美は俺に言った。
月の光に照らされて、綺麗だった。
俺は恥ずかしくなって、雅美と反対の方向を見て、そっぽを向いた。俺は少し顔が赤かった。そのまま俺は話した。
「好きなことって?例えば?」
「うーん。難しいね」
そっぽを向いているので表情は分からなかったが、その声音は『難しいない』ことを意味していた。
「私なら、友達と話したり、遊んだりかなぁ~」
いつものほんわか声で雅美は言った。
俺は無言だった。静寂の一部になった気分だった。
「あとは、私の場合は─────────」
そのとき、雅美の声が途切れた。
いつものほんわか声で気づかなかった。
今の時刻は『12:00』なのだ。
普通の人なら、別に問題はないだろうが、
雅美の場合は別だ。雅美にとって、この時間は、
いつもの雅美が『シンデレラ』に襲われる時間帯を指している。
「しまっ────」
───────た、と言おうとした。がそれは叶わなかった。理由は明白。
『雅美が俺の首を絞めていた』からだ。
雅美は俺の上に馬乗りで乗り、俺の首をその細い両手で思い切り絞めていた。
「グパッ──ヶなァ♪──」
もうアイツが雅美の『表』に出ていた。
俺は奇声を言う雅美の体を馬乗り状態から蹴った。足を振り上げて、雅美の後頭部に直撃した。バコンッ!、と言う鈍い音がした。
「──グパッヶなァ♪───────ごはっ!」
雅美の手の絞めが弱くなる。そのまま俺は
チャンスとばかりに、右腕で雅美の左頬を殴った。これまた、バコンッ!、と言う鈍い音がした。
「──────ボハッ!───」
馬乗り状態の雅美が俺から見て、左に突き飛ばされる。
「─────ァア───あ」
左の壁にぶつかった。ずりずりと、壁に寄りかかったまま、床に落ちる。
「──アァ、───イァア─────」
光彩のない虚ろな目がこちらを見る。
そして、
「────ッ──グ?─」
自分の首を絞め始めた。弱々しいその細い雅美の両手が雅美の首を絞める。
「雅美ッ!」
俺は咄嗟にはねあがり、雅美が自分の首を絞めている両手を強引に離させる。
「しっかりしろ!雅美!」
俺は両手を無理矢理、首から離させ、
俺は雅美を抱き締める。雅美の顎を、俺の右肩に乗せ、俺の両手は雅美の背中に回り、雅美の後頭部を背中から撫でる。
「──────カッ─────ズー?」
涙を雅美は流した。俺の背中に雅美の涙が落ちる。
「あぁ!俺だ!良和だ!」
「まだ居てくれる?」
話が噛み合ってない、『このときは』いつもそうだった。話は噛み合うことがない。
「いつだって居てやるさ!そばに!」
「──────嬉しい」
そう言った後、雅美の意識は途切れた。
ぐた~と、全身から雅美は力を抜いてしまう。気絶したのだ。
「はぁ、───────雅美」
俺の声だけが、部屋で聞こえた。