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白の友達  作者: temso
6/12

 朝焼けがまぶしい。

 真次は早朝のすがすがしい空気を思い切り吸い込んだ。

 「ああ、朝って良いな」

 目を潤ませていると、そこに声がかかった。

 「ねえ、聞いてんの?」

 「はい。聞いてます聞いてます」

 あちこちに痛々しい生傷を作った真次は慌てて正座した。

 話の最中に居眠りをしまくってその度に起こされた結果だった。

 「……でも、しゃべる猫なんてのが本当にいるなんてな」

 「そんなに不思議なの?」

 白猫はきょとんとした目を向けた。

 昨日見たときも思ったが、ノラにしてはきれいな猫だった。ところどころ薄汚れてはいるものの、毛並みは純白。とても高級な質感があふれていた。

 「田舎じゃ、じいさん相手によくしゃべってたんだけどなあ」

 「へえ。っていうことは、ここら辺の猫じゃないの?」

 「そう。母さんを探しに来たの」

 「母さん?」

 白猫はうなずいた。なんだかコメディーかCMにでも出てきそうな光景だった。

 「そう。ちっちゃいころはぐれた母さん探してんの。もう五年も前になるかな」

 「五年って……。あの、年いくつ?」

 「十六」

 真次は持てる限りの常識を動員して考えた。

 猫の寿命ってそんなに長かったっけ?

 十六ってもうばあちゃんなんじゃないか?

 「あの……」

 「ああ、言いたいことはわかるよ」

 猫は前足をぴらぴら振った。

 「あたしらの寿命ってのは、基本的に人間と一緒くらいなのよ。しゃべる猫だから」

 真次の脳裏で、常識とかそういったものが音を立てて崩れていった。

 「……じゃあ、その、お前らみたいなしゃべる猫は、単に言葉をしゃべるだけの猫じゃないってこと?」

 なんだかわかりにくいことを口走るが、白猫は真次のいわんとすることがなんとなく分かった。

 「そうそう。つまりあたしらとただの猫はまったく別の生き物ってことになるね」

 「ははあ」

 真次は息を吐き出す。

 改めて考えてみれば、これはいったい何と奇妙な光景だろうか!

 早朝、朝焼けの中で、変なしゃべる猫と会話している!

 何より、こんな時間(AM6:00)に起きている!

 異常だ。この上なく異常だ。

 自分でそう思うところがたくましかった。もしくはバカともいう。

 ふと気づいて、彼は尋ねた。

 「っていうか、なんでここに来たの?俺って何か関係あんの?」

 「ああ」

 猫は真次に向き直った。

 「まずはお礼、かな。ほんと、助かったから」 

 「はあ」

 「マジで死にかけてたのよ。あのとき。どこを探しても水飲めるところがないし、周りはもっさり暑いし、コンクリは鉄板みたく熱くなるし、犬には追い回されるし」

 「……のど渇いてただけなのか。結局」

 真次はなんとなくげんなりした。

 「バカ言わないでよ。あれがどれだけ苦しかったことか」

 変な猫は大仰に前足を振り回して語った。

 「ああ、も、もういいよ。よく分かった。大変だったねえ。かわいそうに」

 「……ふん。わかりゃいいのよ」

 ふんぞり返って腕を組もうとするが、構造上無理だった。

 「で、本題なんだけど。アンタ今、困ってんだよね?」

 真次は目をかっぴらいた。

 「何で知ってんの!?」

 「アンタがあの交差点から歩いて帰る途中で『困ったなあ。困ったなあ』って独り言ずっと言ってたから」

 「………そうですか」

 「ね、何困ってんの?話すだけ話してみてよ、ね?」

 「……なんか、たくらんでる?」

 「簡単なことだよ」

 猫はこともなげに言う。

 「母さん探してるって言ったよね。正確に言うと、母さんの事知ってる人がこの町にいるって言うから、その人を探してるの」

 「猫?」

 「ああ。うん。その人ってのは猫だよ」

 ややこしいな!

 「で、その人はこの町にいるらしいのよ。おととい着いてからずっと探してるんだけど、全然見当たらない、と」

 「はあ」

 「でもこのままの調子で探してたら、正直きついんだ。あたしこの町に不慣れでさ、水が飲める場所もものが食える場所も全然分からない」

 「はあ」

 「こういうときには、人間に頼るのが一番!」

 「……つまり、俺に世話をしろって?」

 「ただとは言わないよ」

 そいつは猫のくせに、やたらとかっこよく言った。

 「その見返りにアンタの悩みを解決してやろうってこと!」

 猫が解決できる人間の悩み。

 本当に猫に解決してもらったなら、かなり情けない奴ということになりかねない。

 なりかねないが―――

 「このまま単位落として『来年もよろしく。しかも実家からね』みたいなことになるよりはずっと良いよな」

 真次はうなずいて、白猫に事情を話した。





 しゃべる猫も呆れ果てた。

 普通、そんなことで悩むか?

 猫の目は如実にそう語っていた。

 「じゃあ、なんだ。その。これから二週間、アンタを朝八時きっかりに起こす。ってことでいいの?」

 「ああ。助かるよ」

 掛け値なしにそう思う。

 再来週にテスト週間がある。今日の金曜日を含め、来週の授業には休まず出席しなければテストを受ける資格を失ってしまう。

 もしそうなったら……

 へたしたら、留年だ!それだけは、それだけは避けなければ!

 何度も言うが、彼は本当に必死なのだ。

 「じゃあ、今晩から早速泊めてもらうね。サンキュー」

 白猫のウインク。

 真次はふと冷静になって考えてみた。

 これって、考えてみたらすごいことだよな。

 自分のほっぺをつねってみる。

 古典的な方法ながら、効果は覿面だ。


 「痛い」


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