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白の友達  作者: temso
11/12

10

 真次がくだんの居酒屋『かんちゃん』を発見する少し前。

 実は少し離れたところにミアはいたのだ。

 「いつも少し、遠出し過ぎてる気がする。今日は近目を攻めてみよう」

 なんて感じで、彼女は薄暗い路地をぶらぶらしていた。

 狭苦しいが、日の当たらないこの道は涼しくて気持ちいい。

 捜索という名目の散歩を楽しみながら、猫は昔のことを思い出していた。

 思えば昔からやんちゃだった。

 小さい人間のガキを連れ回して途中で置き去りにし、ガキが泣くのを楽しんでいた。

 そのたびにひどく怒られたものだった。

 泣きながらおもらしまでしたガキんちょもいた。

 懐かしいなあ。

 ミアは遠い目をした。実に悪質な犯行だった。

 「そういえば」

 周りを見回す。

 風に揺れる木の葉。

 ささやかな木漏れ日。

 そしてこの、薄暗い細道。

 コロネさんやあのひとに初めて会ったのも、こんな感じのところだったな。

 コロネさんのぽってりした動きを思い出す。少し笑えた。

 「……ん?」

 前方に、ぽってりした背中が見えるような気がする。木陰から抜けた陽だまりの中に。

 目を凝らしてみる。

 茶色と白の、ぽってりした背中。大きな体を左右にゆする歩き方。

 あの猫は。

 白と茶色は、どんどん前に進んでいってしまう。ミアは追いかけた。

 「待って!」

 声を上げても、止まってはくれなかった。

 白猫は走り出す。しゃらしゃらと首の鈴が鳴った。

 裏路地を抜け、交差点に飛び込んだ。

 



 大きなトラックが、迫っていた。



 

 けたたましいブレーキの音。迫りくる巨大な車体。

 ミアは動けなかった。




 

 「んん?」

 茶色と白が大きな音に振り向いた。

 



 

 トラックはミアの鼻先で止まった。

 運ちゃんはあわててドアを開け、飛び出してきた白猫を確認しようとした。

 その眼前を、白猫が逃げるように走り去っていく。

 よかった。轢いてなかった。

 

 



 死ぬかと思った。

 心臓がとれたての活魚みたいに暴れまわっている。

 「ああああ」

 ミアはうつむいて思い切り息を吐き出した。

 でも、まだ生きてるよ。よかった。ありがとう神様。

 「大丈夫か?」

 いきなりかけられた声に、彼女は何とか答えた。

 「ああ、うん。なんとか」

 顔を上げる。

 ミアは目を見開いた。

 白と茶色の、ぽってり。

 「久しぶりじゃないか。嬢ちゃん」

 「コロネさん!」

 

 



 さっきの裏路地にて。

 二匹の猫が語らっていた。

 比喩じゃなくて、本当に語らっていた。

 「そうかぁ。大変だったな、本当に」

 真次と同じ反応でコロネさんは涙を流した。

 「まったくだよ」

 ミアはまたまたふんぞり返った。

 「コロネさんは、元気だった?」

 「ああ。毎日のように近所のネズミどもと戦ってる」

 コロネさんはかっこつけて言った。

 本当は縁側で寝てるだけなのだが。

 「へぇ。変わってないね」

 「ああ……」

 沈黙。

 「……?」

 快活なコロネさんが黙りこくっている。珍しい。

 「コロネさん?」

 「……あいつを、探しに来たんだったな」

 「うん!」

 本題を切り出されたミアは身を乗り出した。

 「あいつとうちの達也が結婚……再婚か。したの、知ってたか?」

 「そうなの?」

 確か達也とは、『かんちゃん』の跡継ぎ息子のことだ。

 「三年前の引越しでな。一緒に越してきたんだよ、この町に」

 「そうなの!?」

 ということは、母さんはこの町に。

 「ねえ。母さんは?家にいるの?」

 にわかに勢いづいてミアは尋ねた。

 「……ついてきなよ」

 コロネさんはぽってりと歩き出した。





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