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白の友達  作者: temso
10/12

 金曜日、夕方。

 「はい。じゃあ、今日はこれまで。来週はテストだから絶対に休んだりしないようにな」

 言語学の教授がそう言って教室を出て行った。そのとたん真次は机に突っ伏した。

 乗り切った。

 無遅刻、無欠席でこの一週間を乗り切った。

 達成感でいっぱいだったが、もう一度気を引き締める。

 いや、来週こそが大事なんだ。テストなんだから。

 「おい。真次」

 一人拳をにぎって気合を入れていた彼に、晃一が声をかけた。

 「何してんだ?かえろ〜ぜ」

 「あ、うん。おう」

 慌てて立ち上がる。二人は教室を出た。

 「何か最近、お前顔色悪くないか?」

 晃一が聞いてくる。実際、真次の顔色はあまりよくはなかった。

 「ああ、毎朝起きるのに苦労してんだな」

 「……っていうか、なんだ。起きるまではいいんだけどさ。その、起き方が問題なんだ」

 「は?」

 「いや、いいんだ。思い出したくないから……その話題、やめよう」

 あの音は、それくらいインパクトがある。

 近隣住民はいい迷惑だった。

 げんなりした友人を横目に、晃一は首をひねった。

 どんな起き方してんだ?

 気にはなったが、真次があまりにもグロッキーな様子だったから訊かないでおいた。

 その程度には気の利くやつだった。

 「よし。疲れてんなら、カレーが良いぞ。食いにいこうぜ」

 別に栄養に詳しいわけではない。雰囲気だ。

 「カレーかぁ」

 そういえば最近食べていない。考えたら腹が減ってきた。

 真次の脳内でインド人が手招きをしていた。とても魅力的だった。

 「いいね。行くか」

 「よーし。うまいとこ知ってんだ。任せろ」

 






 「ここだよ。ほら」

 真次が連れて来られたのは、大学から歩いて十分ほどのところにあるカレー屋だった。

 掘っ立て小屋みたいな外装に、汚い看板。『カレー』という表示がなければそれとは分からないだろう。

 人通りのあまりない、閑散とした通り。このカレー屋以外にもいくつか店が立っているが、どれもこれも景気は悪そうだ。

 「こんなとこがあったのか」

 「だろ?このへん面白い店とかはないから、大学の連中もあんまり来ないんだ。でも、うまいんだぞ?ここのカレーは。隠れた名店ってやつ」

 真次と同じでまだ入学して半年も経っていないのに、すごい古株みたいに言う。

 「へぇ〜え」

 脳裏でインド人が踊りはじめた。テンションが上がってくる。

 「では、いざ」

 二人は掘っ立て小屋に歩を進めた。





 うまい!うまい!



 この言葉が店内を埋め尽くした。

 極上だった。

 「なんてこった」

 俺はこんなおいしいものの存在も知らなかったのか。

 無愛想な店のおやじに感謝を述べ、二人は店を出た。

 代金を払い忘れていたので、おやじに怒鳴られた。

 「うまかった」

 店を出た真次は述懐した。というか、まだ言ってる。

 「だろ?ここらはこういう店が多いんだ」

 そう言って晃一は、通り沿いの店たちを指差した。

 お好み焼き屋、ラーメン屋、食堂、居酒屋……

 居酒屋のところで真次の目が止まった。

 『かんちゃん』

 「あれって」

 「ん?知ってるのか?」

 「あ、いや」

 晃一が訊いて来るが、真次は首を横に振った。

 さすがにあの猫のことを話すのは気が引けた。

 頭のイタイ子だと思われたりしたら嫌だからだ。

 (それにしても、偶然ってあるんだな)

 こんな近くで見つかるとは。

 確認してみようかとも思ったが、やめておいた。

 お腹はぽんぽんなのだ。酒も飲めない。

 居酒屋に入る動機がまるでないのだ。

 焦ることもないだろう。

 「まあ、帰ってきたら教えてやりゃあいいか」

 「え?」

 「あ、いや。なんでもないよ」





 

 しかしその夜、白猫は帰ってこなかった。

 夜の十二時を回っても。それから一時間経っても。

 こんなビッグニュースがあるというのに。

 ミアがいつ帰ってきてもいいようにと、その夜は網戸を空けて布団に入った。

 


これを書いた時、無性にカレーが食べたかったです。

そのせいでこんな文章が出来上がってしまいました。

というか、いつもの感じですね。

楽しんでいただければ(笑)

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