②
「信じらんねぇ……」
「……ごめん、なさい」
静かに怒りを爆発させる譲流の手には空になったペットボトル。
足元には、枯れたような緑の皮膚を纏い、硬い甲羅を背負った『河童』が。
「わざとじゃないの!ゆずちゃんの分も買ったから、渡し間違えたの!」
譲流の左手(必殺利き手ビンタ)を警戒しつつ、慌てて袋からもう一本のペットボトルを出す。
「……ッチ。河童の皿は敏感だって言ったじゃん」
舌打ちを隠しもせずに北アルプスの天然水を引ったくり、炭酸の刺激で完全に伸びてしまった河童の頭へと注げば、しわしわの肌にしっとりとした分泌液が滲む。
「……譲流だって気付かなかったのにさ」
「密朧さん、何か言った?」
にっこり音がする程の綺麗な笑みを浮かべ、密朧を振り返った譲流の額にははっきりと青筋が浮かんでいた。
「ぃ、いいえ!言ってませんっ」
慌てて否定するが、もう遅い。
「……もう知らん。一人で大学行きやがれ!密朧さんのばーかっ!」
密朧の右頬が乾いた破裂音を立てた。譲流はさっさと踵を返し、来た道を戻って行く。
「っゆずちゃん酷い!……って、河童どーすんの!?」
残された密朧は、痛む頬を庇いながら傍らの河童を見下ろしていた。