プロローグ①
真昼の太陽に照らされたアスファルトがゆらゆらと揺らめいている。
立ち上った陽炎が人々を呑み込んでしまったかのように、辺りに人影はない。
「もー……耳痛いわぁ」
盛大な蝉時雨に眉を寄せて譲流は呟いた。
「譲流ー……。こんな日でも大学行かんとダメ……?」
うっかり口走ってから譲流の視線に気付く。
「大学?行かんとダメ?……だ・れ・の補習だ、誰のっ!」
「ぉ、俺……?」
「疑問符付けんな!テメェのだろうがよ!」
ジリジリと詰め寄られむんずと掴まれた胸ぐらに、流れる汗が冷や汗に変わる。
(やばい!譲流怒らせたーっ)
世間は夏休み。それを満喫出来ないのは何故か?……全ては試験前に遊び惚けていた自分が悪いのだ、と密朧は二、三発殴られる覚悟を決めた。
その時だった。
密朧の視界の端に、人影がフラリと現れて消えた。
(消えた……?違うー!?)
「た、たたっ倒れた!」
「まだ殴ってないわ!」
「俺じゃなくて!うーしーろー!」
訝しげに後ろを振り向く譲流の手は、密朧を逃がさぬように握力を強める。距離を保とうとする密朧は、必然的に重心を後ろにかけた。
きっと、たぶん……それがいけなかったのだ。
「……やばいじゃん、あれ」
呟きと共に密朧の胸ぐらがすっと軽くなる。
「ぅえ!?……〜〜〜〜〜っ」
支えを失った密朧の体は重力の理によって落下した。ハロー、鈍痛……。
痛むお尻を擦りながら悶える密朧を後目に、譲流は倒れた人影に走り寄る。
「っ!?密朧さん、水!早くみーずーっ!」
「水!?ちょっ、コ、コンビニー!」
譲流の切羽詰まった声に、痛みを押しながら密朧は走り出した。いつもよりスマートに走れないのは大目に見て欲しい。
「すぐ水あげるからね。んー……かなり透けちゃってるねぇ」
倒れた体を日陰に運び、薄く緑に透けた腕に気付く。
普通の人では有り得ない肌色にも譲流は動じなかった。
「譲流、はいっ、水!」
近くのコンビニまで走った密朧が肩を上下させながら戻って来る。
「密朧さん遅い。息切れカッコ悪いし」
文句を言いながらも、つるりと丸みを帯びたペットボトルを受け取り蓋を開けた。そして、躊躇なく中身を倒れた人の頭にぶちまける。
「……っぴぎゃーーーー!」
弾ける刺激に、辺りには悲痛な雄叫びが木霊した。