私だけの特別な力
私には超能力がある。
強く願って眠ると、なんでも願いが叶うのだ。
最初に気づいたのは、五歳の頃だった。
ハンバーグが食べたくて仕方なくて、
「明日はハンバーグが食べたい」
そう願って眠ったら、その日の夕飯はハンバーグだった。
小学生の頃には、宿題をしたくなくて、
「宿題よ、終われ!」
と願ってから寝た。
朝起きると、宿題は全部終わっていた。
私はこの能力を疑ったことがない。
だって、願いはいつだって叶ってきたから。
ある日、その話をおばあちゃんにしたら。
「神様がくれたんだろうねぇ」
そう言って、頭を撫でてくれた。
私は生まれてすぐに両親を亡くした。
だから、おばあちゃんが一人で育ててくれた。
朝になると起こしてくれる。
お弁当を作ってくれる。
夜になると、温かいご飯を用意してくれる。
怒ることなんて、見たことない。
私にとって、世界で一番優しい人だった。
中学生になると、その能力はますます便利になった。
学年で一番人気のハヤト君。
彼と付き合いたいと思った。
だから、願った。
翌日から、なぜか彼は私によく話しかけてくるようになった。
数日後には、恋人になっていた。
当然だ。
私の願いは叶うのだから。
ただ、不満そうな顔をする子もいた。
リカという女子だ。
いつもハヤト君の近くにいた子。
「ハヤトは、あんたのこと好きじゃない」
いつもそんなことを言ってきた。
意味がわからなかった。
好きだから付き合っている。
そんなの、当たり前なのに。
しばらくすると、リカは転校した。
家庭の事情らしい。
よかった。
これで面倒なことを言われなくて済む。
部活の先輩に怒鳴られたこともある。
彼女はいつも怒ってばかりで、部の空気が悪くなる。
顔を見るのも嫌だった。
だから、願った。
会わなくなればいいのに、と。
翌日には、その先輩は退部していた。
みんな泣いていた。
変なの。
嫌な人がいなくなったのに。
先生に理不尽に叱られたこともあった。
とても腹が立った。
もう二度と怒られたくない。
そう思って眠った。
次の日から、その先生は学校に来なくなった。
急な異動があったんだって。
クラスのみんなは暗い顔をしていたけれど、私は気にしなかった。
本当に便利な能力だった。
成績も良かった。
テスト前に願えば、良い点が取れる。
先生にも期待された。
友達も多かった。
私は幸せだった。
そんなある日。
おばあちゃんと買い物をしているときだった。
突然、黒ずくめの男が飛び出してきた。
男の手には、刃物が握られていて、私には何が起きたのかわからなかった。
気づけば、おばあちゃんが私を突き飛ばしていた。
そして。
男の刃がおばあちゃんの胸に突き刺さる。
一度。
二度。
三度。
何度も。
悲鳴が響いた。
誰かが通報して、駆けつけた警官によって男は取り押さえられた。
そして、おばあちゃんは病院へ運ばれた。
その日の夜。
病院から連絡が来た。
おばあちゃんは助からなかったという。
先生は何度も謝っていた。
でも、私は平気だった。
だって、願えばいいんだから。
今までだって、そうだった。
だから、笑って言った。
「大丈夫です。おばあちゃんは帰ってきますから」
その夜。
私はこれまでで一番強く願った。
「おばあちゃんが生き返りますように」
そして、眠った。
翌日。
昼近くまで寝てしまった。
起こしてくれる人がいなかったからだ。
家の中は妙に静かだった。
階段を降り、居間へ行く。
でも、そこにおばあちゃんの姿はなかった。
私はすぐに病院へ電話した。
電話口の看護師は、優しい声で答えた。
「お気持ちはお察しします」
その言葉を聞いた瞬間、怒りで頭が真っ白になった。
違う。
話にならない。
私は特別だ。
願いは叶うんだ。
今までだって、叶ってきた。
なのに。
なんで、なんで今回は。
そのときだった。
ドンドンドンドン!
玄関が乱暴に叩かれる。
窓から外を見ると、学校の生徒たちが集まっていた。
クラスメイトも、他のクラスの生徒も。
ハヤト君もいた。
心配して来てくれたのだと思った。
だから、急いで玄関を開けた。
「みんな、どうしたの?」
しかし、返ってきたのは嘲笑だった。
「ようやく死んだんだってな」
「は?」
「お前のばあさんだよ」
意味がわからない。
なんで、そんなことを言うの。
「これでやっと終わりだ」
「終わり?」
「ふざけんな。どれだけ我慢してたと思ってる」
見知らぬ先輩が吐き捨てる。
クラスの女子が睨みつける。
みんな怒っていた。
「あのばあさんがいなかったら、もう怖くねぇ」
誰かがそう言った。
怖い? おばあちゃんが?
あんなに優しいのに。
「なぁ、リカのこと、覚えてるか」
ハヤト君だった。
「転校した子でしょ? ハヤト君に付きまとっていた」
「リカは俺の恋人だった」
私は首を傾げる。
「違うよ。私と付き合ってたじゃん」
「そうだな。そうするしかないって思ったんだ」
とても低く、冷たい声だった。
あれだけ優しかったハヤト君が、怒りに震えている。
そんなハヤト君を見るのは初めてだった。
「ごめん。私、怒らせるようなことしちゃった?」
「リカは死んだ。この街に居場所がなくなって、両親も職を失って、それで、責任を感じて首を……」
何を言っているのかわからない。
「その女と私に何の関係が……」
私を睨む彼の目は、これまで見たことのないものだった。
嫌悪。
憎しみ。
軽蔑。
「死んで償え」
その一言だけを残して、去っていく。
それを皮切りに、みんなが一斉に押し寄せた。
殴られる。
蹴られる。
髪を引っ張られる。
痛い。
痛いよ。
誰か、助けて。
ハヤト君。
おばあちゃん。
こんなの、おかしい。
こんな世界は間違ってる。
私は願った。
お願い。
「助けて! おばあちゃん!!」
その瞬間。
殴られた痛みが消えていき、頭に響く怒鳴り声も遠ざかる。
恐る恐る目を開けると、目の前に、おばあちゃんが立っていた。
なぜか、おばあちゃんは泣きそうな顔をしている。
でも、私は嬉しくて仕方なかった。
ほら。
やっぱり。
私の願いは叶うんだ。




