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あの道で

作者: 葵
掲載日:2026/08/27

中学校に入ると同時に、その場所に住むことになった。


そして、初めての夏休みが始まる少し前。

友達と遊んだ帰り道。


50m先の十字路を右に曲がれば、家まであと200m。

そこに、一人のおじいさんがいた。


おじいさんは、私の方を見てニコニコしながらゆっくり歩いてくる。


私は不審な人かもしれないと、足を止めた。

少し体が硬くなったような感じがした。


すると、

「この辺に住んでるの?

おじいちゃんもそこを左に曲がって、2軒目の家に住んでるんだけど。」


そう話しかけてきた。


うちと近い。


近所の人なんだと、安心した。


「そうなんですか。私の家もすぐ近くです。」

と答えると、


「そうかぁ。

早く帰らないとダメだよ。お家の人が心配するから。」


おじいさんの言葉を聞いて、さらに体の力が抜ける。


「はい。」


「この辺は、変な奴もいるからね。


おじいちゃんの孫もね、怖い思いをしたことがあるんだよ。

だからね、気をつけて帰るんだよ。


今度ね、

お友達も一緒にうちに遊びにおいで。


またね。」


あれ、声が途中で——


おじいさんの声が、この道の中で響いているみたいな……。

優しい声なのに。


驚いて辺りを見渡した。


周りには、道路より少し高いところに建っている家もあるけれど、

広くて開けた普通の道。

壁に囲われた場所ではないのに、声が……。


「……はい、帰ります。」


そう答えてから、家に向かった。


家に着いて、大きく息を吸って、

ゆっくりと吐き出した。


少し走ったせいなのか、汗をかいている。

なのに、頭が冷えていくような感じがした。


その感覚が、しばらく消えなかった。


それから、一週間くらい経った後のことだった。


おじいさんの言う、十字路を曲がって2軒目の家。

私の家から、たった300mくらいしか離れていない。


その家で、

ぽくっ、ぽくっと規則的に鳴る木魚の音と、

お経を読む声が、外まで響いていた。


お葬式?

喪服を着た人が、外にも集まっていた。


話したことのある近所の人もそこにいたので、声をかけた。


「おはようございます。

ここのお家の人、亡くなったんですか?」


「そうだよ。おじいさん。

でも亡くなってからはもう、一週間くらい経つみたいだけどね。」


「え……。」


一週間前って……。


「優しいおじいちゃんでね、近所の子どもたちにおやつをあげたり、

子ども好きだったみたい。

お家に呼んで遊んであげたりしてたって。」


「……おじいちゃんに、お孫さんはいますか?」


「あぁ、何年か前に亡くなったって聞いたことあるけど。」


孫も、亡くなった?


この前の、おじいさんなの……?


「お孫さんもここに……。

あ、遅れちゃうので行きます。」


「あぁ、そうだね。気をつけていってらっしゃい。」


「はい。ありがとうございます。」


また、頭が冷えていくような感じ……。


これからもこの場所で暮らしていく。


その未来が、怖い。


きっと毎日、この家の前を通る時は、緊張してしまう。


そう思っていたけれど、

しばらくしたら、そんな気持ちも薄れていた。


その出来事が、私の中からなくなることはなかったのに。


中学を卒業するまでの間は、そこに住んでいた。


おじいさんの声は、今も耳に残っている。


「今度ね、

お友達も一緒に、

また……うちに遊びにおいで。」


優しい声だった。


なのに、今でも思い出すと、少し怖い。

遊びに行ったことなんてなかった、はずなのに。


生前のおじいさんだったのかもしれないし、

亡くなった後だったのかもしれない。


最後まで、わからないまま。


もう、おじいさんの顔も、思い出せない。


だけど、別人じゃない。

そんな気がした。


あれから、時間が経った。


今になって、考えてしまう。


あのおじいさんはただ、助けたかった。


あの道を通る子どもたちを、

守ろうとしてくれていた。


怖い思いを、しないように。






最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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