第1話。『パパの転勤と、我が家の大移動』
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ガラケーすら怪しい機械音痴のおじいちゃんと、スマホを使いこなす現代の孫。二人のジェネレーションギャップから生まれるドタバタな日常を、クスッと笑えるAiと一緒に小説にしてみました。
ほのぼのした家族の空気感と、賢い柴犬コテツの冷ややかなリアクションに癒やされていってください!毎日読める長編を目指して、1話ずつ大切に更新していきます。
天然な私と、天然じいちゃんとオレ、時々コテツ。の天然の物語楽しんでもらえたら嬉しいです。(難しいことはあまりわからないので、暇潰しで読んでもらえたら...と思います(笑))
第1話。『パパの転勤と、我が家の大移動』
カチャカチャ、カチャカチャ……。
我が家のリビングには、一年三百六十五日、朝から晩まで小気味よいキーボードの音が響いている。
僕の両親は、都会の真ん中にある高層ビルにオフィスを構える、IT企業で働く。
いわゆる『バリバリの共働き夫婦』だ。
パパもママも、起きている時間はだいたいパソコンの画面を見つめているか、耳にワイヤレスイヤホンを突っ込んでカタカナ混じりの難しい仕事の話をしている。
僕――小学二年生のタカシも、その遺伝子をしっかり受け継いでいる(と、自分では思っている)。
学校が終われば、友達と公園で泥だらけになって遊ぶなんてことはしない。
すぐに家に帰って塾のテキストを広げ、分単位で組まれたスケジュール通りに算数の計算ドリルを解く。
自分の部屋のデスクは、常にきれいに整頓されているし、鉛筆の削り具合まで完璧じゃないと気が済まない。
一分の狂いもなく計算通りに行動することこそが、僕のアイデンティティであり、自慢だった。
そんな僕の足元では、我が家で一番の常識犬である柴犬のコテツが、「お前も子供のくせに大変だねぇ」とでも言いたげに、ふんっと鼻を鳴らして畳の上で寝返りを打っていた。
コテツは賢い犬で、僕たちのデジタルな生活に一番馴染んでいる。
そんな、完璧に計算され尽くしていた僕たちの都会でのスマートな生活が、ある日の夜、パパの口から放たれた、たった一言の『アナログな大爆弾』によって、音を立てて崩れ去ることになった。
いつものように、ママが買ってきたデパ地下のおしゃれなお惣菜を並べた晩ご飯の最中、パパが突然お箸を止めて、いつになく真剣な顔で僕を見た。
「タカシ。ちょっと大事な話があるんだ」
僕の手から、シャープペンシルがぽろりと落ちて、お皿のフチに当たって高い音を立てた。
パパがこんな顔をする時は、だいたい僕の塾のテストの成績が悪かった時か、パパが仕事でとんでもないバグを出した時だ。
「て、テストのこと? 僕、次のクラス分けは大丈夫だと思うけど……」
「いや、違うんだ」
パパはゴクリと唾を飲み込んで、一転して、太陽みたいにニカッと笑った。
「パパな、地方の支社への転勤辞令が出たんだ!」
「ええっ!? 転勤!? じゃあ僕、学校も塾も辞めて、引っ越さなきゃいけないの?」
せっかく都会の進学塾で上位クラスにいるのに、ここで田舎に行くなんて僕の人生設計が狂ってしまう。
焦る僕の手を、ママが優しく包み込んだ。
「落ち着いて、タカシ。パパもママも、今の仕事を辞める気はないし、タカシを無理に知らない土地の学校に行かせるわけじゃないの。実はね、パパとママ、二人そろって会社に『完全リモートワーク(在宅勤務)』の申請を出したのよ。そしたら、二人ともパソコンさえあればどこでも仕事ができるってことで、特別に許可が下りたの!」
「ということは……?」
パパが身を乗り出して、声を弾ませた。
「そう! わざわざ家賃の高い都会の狭いマンションにしがみつく必要がなくなったんだ。だから僕たちはこの機会に都会を離れて――郊外にある、じいちゃんの家でみんなで暮らすことに決めたぞ!」
「……え?」
じいちゃんの家。
都会と田舎のちょうど真ん中あたりにある、あの緑に囲まれた古い家。
思い浮かぶのは、豊かな自然……ではなく、あの、耳が遠くて年中とんでもない勘違いばかりしている、天然100パーセントのおじいちゃん、茂じいちゃんの顔だった。
去年の正月に遊びに行った時も、
「タカシ、お前がいつも観とる『ゆーちゅーぶ』っちゅうのは、新しい豆腐のブランドか?」
と大真面目に聞いてきたあのじいちゃんだ。
「コテツ、僕たちどうなっちゃうんだろう……」
僕が不安げに足元を見つめると、コテツは静かに僕から目をそらした。
犬のくせに、これからの生活に待ち受けるであろう、果てしなき苦労を察したような、とても深い目をしていた。
それから一ヶ月後。
僕たちは、山のように積み上がった段ボール箱と一緒に、トラックに揺られてじいちゃんの家に到着した。
都会のマンションとは違い、見上げるほど高い木々に囲まれたじいちゃんの家は、築五十年を超える立派な日本家屋だ。
バリバリのIT夫婦であるパパとママは、さっそく大量の精密機械やパソコンを運び込み始めた。
出迎えてくれたじいちゃんは、色あせた麦わら帽子をかぶり、縁側で相変わらずのんびりとお茶をすすっていた。
「おお、タカシ! よく来たなぁ。都会の生活で『ゲリラ』にでも襲われたんか? ずいぶん痩せたのう」
じいちゃんは僕の顔を見るなり、目尻のシワを深くして破顔した。
「じいちゃん、それを言うなら『ゲリラ豪雨』だよ! 都会にゲリラ部隊はいないよ! あと、別に痩せてないから。塾のストレスでちょっと顔色が悪かっただけ!」
「何ぃ? 『塾のドレスが派手』じゃと? 小学生のくせに、都会の学校は進んどるなぁ」
「ドレスじゃなくてストレス! ほら、もう聞き間違いが始まってるじゃん!」
僕の、ツッコミだらけの新しい毎日が、ついに勢いよく幕を開けたのだった。
じいちゃんの家は、天井が高くて風通しが良いのは素敵だけど、一歩中に入ったパパとママは、部屋のあちこちを見回して同時に頭を抱えることになった。
「……あなた、これ、壁じゃなくて全部『襖』と『障子』よ」
ママが呆然とした声で、部屋と部屋を仕切る格子模様の障子を指差した。
「ああ。これじゃあ、僕がこっちの部屋で大事なリモート会議を始めたら、じいちゃんがリビングで観るテレビの時代劇の音が、全部マイクに拾われちゃうな……」
パパたちの仕事は、画面の向こうのクライアントや、大企業の社長さんと難しい交渉をすることが多い。
だけどこの家は、すべての部屋が薄い襖一枚で繋がっている。
じいちゃんが爆音で時代劇を観ようものなら、パソコンの向こうの社長さんに
「この紋所が目に入らぬか!」という効果音が大音量で筒抜けになってしまう。
仕事のシリアスな雰囲気が一瞬で台無しだ。
「よし、こうなったら大リフォームをしよう!」
パパがリビングの真ん中で、拳を力強く握りしめて宣言した。
「僕たちの仕事部屋は、完全に外の音が漏れない、最新の『防音ワークスペース』に改造するんだ。ついでに、じいちゃんがガスコンロの火の不始末をしたら危ないから、キッチンもすべて電気で動く最新の『オール電化』にリフォームしよう!」
「それがいいわね。タカシ、パパたちが仕事に集中できるように、この古いお家を最新のデジタルハウスに変えちゃいましょう!」
ママも大賛成で、スマホでリフォーム業者を検索し始める。
「うん……。でも、じいちゃんがそんな最新の家に納得してくれるかなぁ」
僕は心配になって、縁側の方を振り返った。
じいちゃんは僕の心配なんてどこ吹く風で、柴犬のコテツに向かって、
「おいコテツ、お前も都会の『えすえぬえす』っちゅうやつで、近所のメス犬と繋がっとるんか? ワシにもやり方を教えてくれんか」
と大真面目に話しかけている。
コテツは完全にじいちゃんを無視して、畳の上に気持ちよさそうに背中をこすりつけ、ゴロゴロと転がっていた。
この二人には、デジタルなんて言葉は一ミリも届いていないらしい。
「よし、それなら心配いらんぞ! パパさん、ママさん!」
じいちゃんが突然、お茶をズズッとすすりながら立ち上がった。
「ワシに任せておけ。明日、この町で一番の、腕の良いベテラン大工さんをここに呼んでやるからな!」
じいちゃんは嬉しそうに、パチパチと自分の胸を叩いた。
デジタル最先端の快適なリモートワーク環境を作りたいパパたちと、昭和の生き字引である天然のじいちゃん。
この時点で、僕の頭の中には嫌な予感(というか、大トラブルの予感)しかしていなかったけれど、翌日、じいちゃんが本当に連れてきた大工の『ヨシオさん』の姿を見た瞬間、僕の予感は確固たる確信へと変わることになるのだった。(第1話・終わり)




