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終活クラブ 〜あなたの来世選んで下さい

作者: ゆなりん
掲載日:2026/07/25

わたし、小鳥遊小鳥は60年以上の人生のほとんど、休むことなく働いて働いて働く人生だった。そんなわたしの命が尽きる時、目の前に現れた女神様がこう言った。

次はあなたの好きな人生を歩きなさい。と。

そこでわたしは考えた。

それなら、わたしと同じような、働く女性の来世を導く存在になりたい、と。

都内のマンションの一室、60歳以上の女性しか入れない秘密クラブがある。

その名も「終活クラブ」


そのクラブに入ると、来世は自分で好きに選べる。

という噂が広がって、今や会員が83名。


そんな終活クラブのオーナーを務めるのが、

現在◯◯歳の小鳥遊小鳥。


時々、詐欺やエセ宗教だと、高齢者の家族や警察がやってくるけれど、高齢者にひどいことをしているのは、果たしてどちらか?


まあ、わたしも働かない人は嫌いなので、仕事をしている、またはずーっと仕事をしていた人しか受けない相談だけど。


午後4時。

「今日も、とても楽しかったわ。それではまた来週。ご機嫌よう。」

内田美佐子さん、82歳。

彼女は元看護師。

早くに息子さんに先立たれ、数年前ご主人も亡くした。

彼女自身、がんの宣告を受け、身辺整理を始めたころ、ココの存在を知ったという。


内田さんが希望する来世は、子どもが先に亡くならない親。そして、家族みんなが、平均寿命をまっとうする。という、あまり難しくない、そして結果が早くにはわからない設定だった。


とりあえずは、女神様に、その希望を送ったから、大丈夫だろう。

わたしは、残りの人生が短くなった女性に、希望の来世を提供する、という仕事をしているのだ。


わたし、小鳥遊小鳥は60年という短い生涯を閉じるはずだった。

仕事、育児、家事、そして介護。

働いて働いて働いて、そして終わった人生だ。

しかも、年金一銭ももらってない!


ところが、最後の眠りに着くとき、なぜが枕元に現れた人に、新しい人生の選択肢をもらってしまった。

これが、頑張ったご褒美かな?


せっかくわたしがもらえたなら、他の人にも同じ権利をあげたい!

そこでわたしが選んだのが、最後を迎える人に、次の人生を選べる権利、それを与えられる仕事がしたい、という摩訶不思議な願いだった。


わたしがなぜ、そんな願いを持ったか、というと、この世の中の理不尽さに、わたしがいつも苛立っていたからだ。


仕事、家事、育児、介護と追われながら、年金も雀の涙くらいしかもらえない女性もいれば、家事と趣味で生きているのに、何百万というお金を湯水のように使う専業主婦もいる。


中でも、扶養ギリギリとお小遣い分働き、あとは1円も払わずに、病院行って、年金もらって、という人がどれほど多いか!


中には仕事したら負け、と言わんばかりで家の中から出ることも、働くこともしない人もいる。


働かざる者食うべからず!だ。


そんな世の中、なくなれば良いのに!

どんな人も、働いた分だけ、お金がもらえれば良いのに!

どんな人も、頑張った分食べることができたら良いのに!

みんな、自分が好きな時に生涯を閉じることができたら良いのに!

と、色々と納得できない世の中に、不満を抱えていた。そんなわたしに女神様?と、呼んでいるのだが、が好きなことができる人生をくれた。


その時願ったのが、次の人生を自分で選べる、それが他人に与えられる仕事、だった。

なんか嘘くさいが。


でも、実際にその権利を持って亡くなった人が、わたしのところにお礼に来てくれた。


ある人は、子どもの頃の虐待が原因で、結婚しても子を産めず、苦しんだまま最後を迎えたバツイチの女性だ。

彼女は新しい人生の親は、厳しいところもあるが、すごく優しいと、まだ7歳ながら、お礼に来てくれた。


その後も、早くに両親を失った人。

先天性の生涯を持っていたことで、やりたいことの選択肢を限られてしまった人。

など、色々な人がお礼に来た。


人生はまだ長いのに。


そんなことが続くうちに、ココの存在が口コミで広がっていた、らしい。


おかげで、こんな怪しい秘密クラブなのに、初めてからもう20年以上が経過していた。


まあ、秘密クラブといっても、表向きは終活サポートをするFPの事務所だ。


元々家庭科の非常勤講師だったわたしが、仕事の合間に取った資格。孤独死、孤立死が多い中、一人暮らしの高齢者の終活アドバイザーとして、この事務所を作った。


一度死んだわたしは、表立った活動はできない。わたしの今の身体も、20代で20年以上止まっている。

そのため、誰か表立って取り仕切ってくれる人が欲しかった。

でも、なかなかそんな奇特な人はいない。


そうやって、事務所を立ち上げて、もうすぐ20年。

コここ数年、誰かが評価してくれなくても、自分の実績に自己満足するようになってきた。


しかし、世の中は相変わらず、働く人から税金やら年金やら、社会保険やらを搾り取れるだけ取って、働かない人たちにばら撒いている。


でもわたし、幽霊?なので、何もできない。悲しい。


いかんいかん、これではいつまでだっても良くならない。マンネリ化してしまう。


いつものように、会員の人の話を聞く。

近江春江さん、83歳。40代の時に介護していた姑と舅が相次いで亡くなり、ホッとした時、夫は離婚届を置いて、浮気相手と消えてしまった。


彼女は残された2人の息子と、働いて、子育てして、生きて来た。夫は自分の親を看取ってくれた女性をなんだと思っていたのだろう!


そして今は、血圧が高いくらいでお元気だが、二人の息子に頼らず、自立して生活している。

自分の経験から、自分よりも妻を大切にしろ!が口癖。


ここに来ることは、一つの息抜き、と言っていた。

春江さんは、最後まで添い遂げられる男性と結婚できる。そう言う来世を望んでいる。


午後3時のお茶の後、夕飯の買い物をすると言って、帰って行った。


そんな終活クラブに、突然若い女の子がやって来た。

若い子はお断りなのに!


エントランスにあるインターホンで、その姿を見て丁重にお断りした。


しかしその子は、その後もたびたび現れた。


わたしが頭を抱えていると、その日のお客様、高橋郁恵さんが声をかけてくる。

「あら、でも生まれ変わった人がお礼に来ることもあるのでしょう?もしかしたら、そう言った子なのではなくて?」


そう言われた。が、それはなんとなくわかるのだ。生まれ変わった人には、前世の姿が見える。


しかし、その子にはそれが見えなかった。

ただ、少し気にはなっていた。


郁恵さんはまだ65歳。数年前に脳梗塞で倒れ、次はいつかわからない、ということで、ここに来て話すようになった。


彼女の来世の希望は、都心生まれの都心育ちになること。わたしには理解のできない希望だったが、田舎育ちの彼女は、色々コンプレクスを抱えた人生だったらしい。


大学の時東京に出て来て、そこで知り合った男性と結婚。今は高級住宅街に住むプチセレブだ。

それなのに、なぜ?と疑問は抱くが、きっと彼女なりの苦労はあるのだろう。


夕方になると、郁恵さんもいそいそと帰って行った。

そして、その日も例の女の子は、やって来た。


わたしは観念して、彼女を部屋に招き入れる。

すると、その子は、椅子に座りとすぐ、おしゃべりを始めた。


「ここのことは、大学の友だちに聞いたんです。来世は大学で勉強したいって願った。そうしたら、願いが叶った、って。」


わたしは記憶を掘り起こす。

今大学生ということは、きっと初期の頃の会員さんだ。


「はじめはね、そんな漫画みたいな話、って馬鹿にしてたんです。」

(まあ、普通はそうだよね。)

わたしはお茶を淹れるために立ち上がった。


「でもね、色々聞いていたら、本当にその子って話し方ババ臭いし、古いこと、すごくよく知ってるし。」

そこまで言って、彼女の様子が少し変わった。


「で、ここの人の名前聞いて、ビックリしたんです!小鳥遊小鳥さん。こんなふざけた名前、そうそうあるものでもないですよね?」


ふざけた名前で悪かったわね!

「あ、わたし名乗るの忘れてましたね。はじめまして、わたしは小鳥遊美鶴、父の名は小鳥遊由鷹、50歳で、あなたの息子です。」


小鳥遊由鷹。

わたしはその名を知っている。

わたしが死んだ時、まだ30歳で、良い加減に結婚しろ!とか、自立しろ!と言っていた、一番上の息子だ。


「もっと言いましょうか?祖父は小鳥遊千歳で、叔父は小鳥遊飛鳥です!」

わたしは震えた。


誰もわたしのこと、気づかなかったのに。

20年も、こうしていたのに。

どうして?

「あなた、わたしの、まご?」


少女は泣きそうな顔で笑った。

「はい!」

わたしは、同じ歳くらいにしか見えない孫を両手でしっかり抱きしめた。

でも、なぜ今。


「わたしも、来世のお願いをしに来ました!」

「ちよ、ちょっと待って?あなた、生きてるわ、よね?」

わたしは

慌てて尋ねる。

「んー、たぶん、生きて、る?今のところ。」

なんだか歯切れが悪い。


「わたしね、やらかしちゃったんです。」


美鶴の話はこうだった。

彼女は家庭教師と、洋服のお直し屋さんで、アルバイトをしている。

その日も大学の後、アルバイト先に急いで向かっていて、自転車ごと車にぶつかってしまった。

痛くはなかったけれど、そこから変な感じ。


病院のベッドの上に眠る自分を上から見ている。

両親はその傍で泣いている。

どうやったら戻れるんだろう?

と何度も考えた。


つまり、ここにいるのは美鶴の生霊⁈


その時に思い出したのが、ここだった。

ここなら願いを聞いてくれるかもしれない。

でも、ここは60歳以上の人だけ。

前世の時にお世話になった人なら、会えると聞いた。

おばあちゃんに会いたい!

お父さんを助けてあげて欲しい!


でも、おばあちゃんは会ってくれなかった。


「お父さんね、おばあちゃんが早く死んじゃったこと、すっごく後悔して、悲しんでたんです!

ちゃんと結婚すれば良かった。早く孫とか見せてあげられれば良かった、って。


そんなお父さんが、今度は娘のわたしが死んじゃったら、って思ったら、怖くなっちゃって。

だから、男の人だけど、お父さんの来世は、家族が長生きできるように、してあげたいんです。」


わたしは、美鶴の願いに疑問を持った。

「あなたが助かることじゃないの?」

泣きじやくる美鶴に言ってみた。

「そ、それはきっと一番です。だけど、きっと、もう、無理だと、思う、から。」


わたしは考えた。

女神様は、どうやってここにいる人の願いを叶えているのだろう。

来世の願いしか叶えられないのだろうか。


「でも、あなたはまだ生きているのよね。」

美鶴は初めてコクンとうなづき、その後に、大きく顔を横に振った。

「ダメです。お医者様が、明日呼吸器を外すから、一晩最後のお別れを、って、言ってました。」


「最後の。」

わたしは考えた。

この仕事をしているわたしは、たぶん幽霊だ。

まだ、自分の来世になっていない。


それなら女神様に願ってみる?

来世は子や孫が長生きできること。


しかも、その子や孫は今、ここにいるこの子。

と。


美鶴には

「わかったわ。由鷹の来世を願います。」

そう言って別れた。

考えてみれば、わたしは美鶴を抱きしめることができた。幽霊のわたしが!

その時に、美鶴が普通の身体ではないと、気付くべきだった。


でも、女神様!できることなら、あの子の命を救って欲しい。


ーーーーーーーー


あの日から3ヶ月が過ぎた。

わたしは相変わらず、死相の浮かぶ女性の話し相手になり、彼女たちの希望の来世を女神様にお願いしている。


周りは秋から冬に変わっていたが、幽霊のわたしは寒くない。


そんなある日、

「アルバイトの応募に来ました!」

と一人の女子大生がやって来た。


元気に生きてる、美鶴だった。


「おばあちゃん、わたし、生きている!ありがとう!」

もうわたしは、美鶴を抱きしめることはできない。

でも、美鶴は、わたしの代わりに、ここの正式なオーナーになって、お茶を飲むことはできる。





あれから3年。大学3年になったわたしは、父に就職のことを、どう考えているのか聞かれた。


わたしは、FPの資格をとって、人生の最後に悔いが残らないようアドバイスをする、アドバイザーになりたい、と答えた。

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