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『小さな戀のメロディ』再訪

〈冬岳に冷凍保存の狩人が 涙次〉



(前回【ⅶ】參照。)

 猫の事ばかり書いてゐたが、たまには犬を取り上げてみやう、と思ふ。



【ⅰ】


杵塚春多が撮つた映画*『小さな戀のメロディ』はタロウと玉乃の純愛を描いたもの。其処で物語られてゐる通り、タロウと玉乃はテレパシーでの交信を欠かした事はなかつた。「なかなか會へないわね」-「マア、オ宅ノ『オ父サン』モ忙シイミタイダシ...」-じろさん、決まつて晝前、タロウと白虎を散歩に連れて行く。雪川正述は玉乃の散歩には自ら着いて行つてゐたのだが、上述の通り雪川組組長として昨今多忙(雪川自身が盃を授けた、某組組長が内乱を起こし、雪川組との抗爭を始めたのだ)を極めてゐて、若い者が替はりに玉乃を散歩させてゐる。時間が合はなくなつてしまつたのだ。犬、と云ふのは飼ひ主には從順なもので、普通人間の事情に合はせて行動する。



* 前々シリーズ第158話參照。



【ⅱ】


其処に【魔犬】シンタの登場。シンタは【魔犬】の呼び名の通り、【魔】の飼ふ犬である。玉乃はタロウへの純愛は(映画の通り- 杵塚の第1作めの作品である、彼らがモデルの『小さな戀のメロディ』は、既に名画の仲間入りをしてゐた)守つてゐたけれども、シンタはそのセックスアピールに拠り、玉乃を強く惹き付けてゐた。「そのシンタちやん、とてもいゝ匂ひがするのよ」(タロウはロボットだから、機械油の臭ひがするのだ。)-玉乃に打ち明けられたタロウは困惑してしまつた。じろさんに相談し、玉乃の戀犬の坐を賭けて、シンタと決闘する事になつた。タロウは初めての喧嘩と云ふ事で、緊張してゐる。「セコンド」に着いたじろさん、「先手必勝だ」と励ました。



【ⅲ】


因みに安保さんに訊くと、「俺がタロウを造つた時、他の♂犬に負けないパフォーマンスを込めた積もりだ。だからきつと大丈夫さ」



※※※※


〈きみを買ふ大枚出してきみを買ふ世のシステムとはそんなものだよ 平手みき〉



【ⅳ】


だが、シンタにタロウはずたぼろにやられてしまふ。シンタは見掛け甚だ風采の上がらない雜種の犬だつたが、♀犬を籠絡する事と喧嘩だけは得意だつたのだ。玉乃「タロウちやん可哀想...」-「負ケテ迄キミノ氣ヲ惹キタクハナイヨ」-同僚として見ちやゐられなかつた白虎は、タロウに必勝法を傳授した。それは何か。自己暗示だ。白虎は實戰に際してそれを欠かさない、と云ふ。「があお」(自分ノ祕メラレタぽてんしやるヲ抽キ出ス為ノ、精神ノとれーにんぐガ必要不可欠ナンダ)。白虎の許で研鑽を積んだタロウ、シンタにリヴェンジする。見事勝ちを収めたタロウ(仕事で【魔】逹に吠えてゐる通り、氣迫を込めてシンタに向かつて吠え、シンタは氣押されてそれ迄髙く掲げてゐた尻尾を、股の間に挾み込んだ)、白虎に「オ蔭デ勝テタ。何トオ禮を云ヘバ良イカ...」-白虎「があお」(ナニ、僕ハ別ニ何モ何モシテイナイヨ。氣ニスルナ)。こゝで一つ教訓。喧嘩はメントレの成否如何に掛かつてゐる。相手を呑んで掛かる事、この一事に盡きる。自分が勝つ、と云ふイメージが肝心なのである。



【ⅴ】


ことは魔界と一味との代理戰爭の様相を呈した。失敗者であるシンタは、哀れにも處刑されてしまふ。【魔】逹は見せしめの為に、シンタ處刑の事を喧傳した。昨日の敵は今日の友。タロウ、カンテラに、シンタを殺した【魔】を倒してくれ、とお願ひした。カンテラ、「魔界健全育成プロジェクト」の仲本堯佳に成り澄ましてゐた、ルシフェルに連絡を付けた。ルシフェル、「犬の養育なら、『トレーナー【魔】』だらう」。カンテラ、魔界の* 密告屋に、「トレーナー【魔】」の居場處を吐かせる。「貴様の如き輩に、犬を飼ふ資格はない。しええええええいつ!!」-カンテラ、「トレーナー【魔】」を斬つた。「タロウにはいつも無給で働いて貰つてゐるから、仕事の料金は要らないよ」。それにしても戀しい玉乃。一體いつになつたら會へるのか、タロウにはそればかりが不安だつた。「玉乃チヤントノ戀ハ、遠距離戀愛ニナツテシマツタミタイダ...」だが、番犬としての職務に追はれる彼には、玉乃との安逸な戀の夢に耽る事は、それこそ「夢のまた夢」なのだ。さう、彼はロボットなのである。生身の犬とは違ふ。そんな彼の目には、『小さな戀のメロディ』は皮肉に映つた、と云ふ。



* 當該シリーズ第23話參照。



【ⅵ】


.........ずつと後の話、さう云へばあの時、(ジロサンニ事情ヲ説明シテ、散歩ノ時間ヲズラシテ貰へバ良カツタナー)と思つたタロウ。ケアレスミスである。が、それはタロウと玉乃が目出度く結ばれてからの事だつた。「後悔先に立たず」。これも一つのハッピーエンドなのだが。



※※※※


〈お互ひに温もればいゝ冬の戀 涙次〉



【ⅶ】


物語がなかなか膨らまず、四苦八苦してこれを書いたが、タロウも玉乃も大切なキャラクターなので、これは避けては通れないエピソオドなのだ。私としては、彼らが倖せに結ばれた日を壽ぎたい。ぢやまた。永田。擱筆。


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