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未来史【三支配者が統べる宇宙】

 設定なので物語は進みません。本文に入れる筆力がないので、別立てで書いているだけです。

 人類史における争いとは、時代ごとに移り変わる——『最も強固な結びつきを巡る争奪戦』だったと言えるのかも知れない。

 古き時代、人々は人種や民族そして宗教といった根源的な一体感を旗印に血を流した。それは、生存領域や富をめぐる争いであると同時に、『自分たちの真実』を守るための情熱的で非合理な衝突だった。いくつもの部族が滅び、無数の宗教戦争を経ても、人類は自らが信じる共同体のために武器を取ることをやめなかった。

 やがて、国家という巨大で効率的なシステムが地球全体を覆う時代が訪れる。争いの主題は、感情的なものから構造的なものへと変貌した。人々は、もはや神ではなく、地図の上に引かれた不確かな境界線を巡って戦い、一握りの指導者が定義した政治思想を賭けて争った。それは、無限に続く権益の拡大を目的とした、冷徹で組織的な戦争だった。

 人類は、より巨大なシステムを築けば築くほど、より巨大なスケールで、争いの歴史を反復していった。

 しかし、西暦二十二世紀末——太陽系全域にその勢力を広げた惑星間企業体の勃興により、古い争いは急速に陳腐化していく。太陽系の秩序は、もはや法ではなく契約によって維持され、人々の運命は国家ではなく企業体が左右するようになった。

 いまや戦いの主題はただひとつ。


“太陽系の資源とシステムを、誰が支配するのか”


 もはや主権も理念も関係ない。争われているのは、人類文明そのものの“根本”だった。


『その戦場では誰も血を流さない』


 核の閃光も爆発音も銃弾すらない。あるのは、株価の変動と情報の改竄、そして秘匿された技術の奪い合いだけだ。巨大企業体は生死をかけて争い、あるものは戦場から去り、あるものは他の怪物に飲み込まれていった。

 その収斂の果てに残った、特に巨大で冷酷な三つの力。

 人々は畏怖と皮肉を込めて、彼らをこう呼んだ。


——三支配者(トライアーチ)


 惑星間文明の覇権を握る、(あお)(みどり)(あか)、三頭の怪物である。


***


 「スターフォージ・ドミニオン」は太陽系に暮らす人類が「どこに住めるか」を決定する。

 宇宙船・居住圏・航路。そのすべてを握る、絶対的な覇者である。『銀色の星に青い隼』を象った紋章を掲げるこの巨大企業体は、西暦二〇八七年、イギリスの天文学者、エリック=ベイリーによって設立された。

 彼は旧貴族の血を引く名家に生まれ、資産にも教育にも恵まれた環境で育った。しかし経営には興味を示さず、幼少期から夢中になった天体観測をきっかけに、若くして学問の世界へ進んでいく。だが、宇宙の深淵を覗き込むうちに、彼は気付いてしまった。——「太陽系資源開発こそが、近未来の覇権を握る領域である」と。

 その瞬間、彼の中に眠っていた“支配と独占を是とする、冷徹な経営者の血”が目を覚ましたと言われる。

 彼にとって宇宙開発とは、単なるビジネスではない。

 宇宙資源と技術は、選ばれた者だけが享受すべき『新しき領地(ドミニオン)』であり、大衆へ安易に分け与えるべきものではない——そう信じていた。

 スターフォージは瞬く間に太陽系全体にまたがる企業集団へと成長し、宇宙船産業と資源開発の双方に強烈な影響力を及ぼす存在となった。彼らは先進的な技術と圧倒的な資金力を背景に、他の財閥に対抗しながら権力を拡大していった。その手法は冷徹である。技術情報は徹底して囲い込み、競合企業に対してはスパイ活動をも厭わず、あらゆる手を使って“支配者の座”を維持してきた。

 スペースコロニー建設においても圧倒的な実績を持ち、居住環境の最適化や大規模建造を得意分野とする。彼らが設計する宇宙船は、速度や機動性よりも、居住性と生活圏の快適性を徹底して追求することで知られている。

 エリック=ベイリーが築いたこの巨大な生産圏は、いつしか人々から『蒼玉(そうぎょく)工廠(こうしょう)』と呼ばれるようになった。その名の通り、蒼く輝く技術と莫大な富を生み出す工場群——いまやスターフォージ・ドミニオンは、太陽系における“技術と既得権益の象徴”として、恐るべき三支配者(トライアーチ)の一角を占めている。


***


 「ステラー・ネクサス」は通信・物流を支配し、誰が情報に触れられるかを決める。

 惑星間の交流・取引・移動。そのほとんどが彼らの網の目の上で行われる。『黒い二重螺旋に緑の(ふくろう)』をあしらった紋章は、彼らが情報と視界のすべてを俯瞰する存在であることを象徴していた。

 その前身は、スペイン・バルセロナの下町にあった小さな衛星開発工場「サテライト・デベロップメント」。従業員は百名にも満たず、技術力は高いが規模も資金も乏しい弱小企業に過ぎなかった。

 しかし、大学を卒業し父の工場へ戻ったナタリア=モンテスが、すべてを変えた。

 彼女は独創的な発想と徹底した合理主義を併せ持つ天才で、わずか数年で複数の衛星技術を刷新し、ついには大企業の技術者たちに


「軌道エレベータは、彼女たち無しでは成立しない」


と言わせるまでに至った。

 その後、会社は発展的に解消され、二〇九四年にステラー・ネクサスが誕生する。

 彼らの最大の武器は、軌道エレベータ建設における絶対的地位である。地球と宇宙を繋ぐ無数のルートを独占することで、物流も通信も、さらには人の流れまで掌握した。

 宇宙船製造では速度・機動性に優れた船を得意とし、テラフォーミング技術でも業界を一歩リードしている。現在は本拠地を火星へ移し、地球よりも自由な環境で先進的な研究開発を推し進めている。

 彼らは、太陽系の各惑星に散らばるエリート層と深い繋がりを築き、政治的影響力によって自らの地位を強化してきた。


 そして、裏では——情報操作、世論誘導、そして“見えない検閲”。


 彼らが築いた通信網の内側では、どんな真実も加工され、必要とあらば消去される。

 常に全体を俯瞰し、必要な瞬間だけ音もなく羽ばたく(ふくろう)

 「翡翠(ひすい)連環(れんかん)」と呼ばれる彼らは、三支配者(トライアーチ)の中でも最も静かで、最も狡猾な支配者である。


***


 「ソーラー・ダイナスティ」は資源とエネルギー、そして信仰を背景に——“誰が未来を語る資格を持つか” を決める。

 『金色の太陽を背に赤い不死鳥(フェニックス)』を掲げたその紋章は、灰すら残さずすべてを呑み込む“再生と破壊の王権”を象徴していた。


 企業体の創設は今世紀初頭——二一〇二年。台湾の技術者であり起業家、ジョナサン=リンによって設立された。彼は太陽エネルギー工学の第一人者であると同時に、太陽崇拝の新興宗教『太陽教(サンデヴォーション)』の教祖としても知られる存在だった。


 もちろん企業と宗教は公式には分離されている。だが、ソーラー・ダイナスティの集団としての雰囲気には、どこか“秘められた儀式めいた神秘性”がつきまとい、外部の者からはしばしば畏怖の視線を向けられてきた。

 彼らの企業文化は、古い家系や伝統的な血統を重んじる独特の閉鎖性を持つ。

 そしてその威光を支えているのは——太陽系全域のエネルギー供給を握るという圧倒的な事実 である。


 太陽光発電、融合炉、軌道集光システム。この三つの分野でソーラー・ダイナスティは他の追随を許さず、彼らが提供する膨大なエネルギーが、惑星間社会の生活・物流・軍事の全てを駆動している。


 拠点は地球ではなく金星。二酸化炭素に覆われた“灼熱の星”の外殻に建造されたコロニー、そして水星基地で稼働する巨大集光施設——二つを合わせることで、地球をはるかに凌駕する太陽エネルギーを得ている。また、彼らは輸送量に特化した巨大な宇宙船を作ることでも知られる。


 さらに彼らは、太陽エネルギーを反水素へと変換する高度な技術を有する。ソーラー・ダイナスティは否定しているものの、“軍事転用に足る規模の反水素を保有している”という疑惑は消えることがなく、その沈黙そのものが、むしろ人々の恐怖を強めていた。

 熾烈な競争と宗教的熱狂を併せ持つ『紅玉(こうぎょく)覇者(はしゃ)』。三支配者(トライアーチ)の中でも、最も“触れてはならない領域”を司る存在である。


***


 太陽系に存在する巨大企業体は彼らだけではない。いまだ無数の企業がその座を奪うべく牙を研ぎ、新たな技術や市場での下剋上を狙い続けている。

 だが、三つの王座を覆す道は遠く険しい。その輝きは、オリオン座の三つ星のように宇宙空間に揺るぎなく並び、時代が巡っても位置を変えないかのように、太陽系の頂点に君臨し続けている。太陽系の未来を語る資格は、彼ら三支配者(トライアーチ)の手の中にあった。


 ——三支配者の影は、(あまねく)く太陽系のすみずみまで伸びている。それは島国の片隅に住む十代の少年も例外ではない。


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